第二話 はじめまして、楪さん
緊張しつつ教室に入るとやはり見知った顔だらけで少し安堵した。
さっきの美女はいないようだ。
座席表を確認すると、やはり「山村、楪、渡部」と、廊下側最後尾の縦に並んでいた。
一つ間を開けて、俺たちは自分の席につく。
廊下の1番ドアに近い席。
どうも人の出入りが気になって仕方がない席だ。
入学式前のホームルームまであと30分。
浮き足立って早くきてしまったことを後悔しながら、無駄にキョロキョロしてしまう。
マサもなんだか落ち着かない様子で、振り返って話しかけてきた。
「めっちゃソワソワしてね?」
「そりゃそうだろ。だって...あ」
その時、すぐそこのドアから、例の楪さんが入ってきた。
落ち着け俺。
確かに俺は田舎町の一般童貞だが高一なんだから当たり前だ。一応彼女だっていたことあるし。手繋いだのが限界だったけども。別に陰キャコミュ障なわけでもないし。人並みに友達いたし。大丈夫だ。さあ!頑張れ!話しかけろ!
「あ、あの...」
「はい?」
かえってきた声が想像以上に美しくて、また一瞬時が止まってしまう。高すぎず低すぎず。クールで美しいけど少し可愛げのあるような。
くそう。二文字でこんな...声まで綺麗なのかよ。
「あ、さっき玄関で。」
「...あ、そうそう。さっきはなんかごめん。」
「いえ、とんでもないです。私こそ、なんだか逃げたようになってしまって。失礼でしたよね。」
ちょっと困ったように笑う顔が、シンプルに可愛い。
「いや全然。ユズリハさんであってる?この学校、だいたい知り合いばっかだから、初対面の人いてびっくりしてさ。」
「あ、楪であってます!そうなんですね。結構二度見されるから、変な寝癖でもついてるのかと思ってました...なるほど。知らない人にみなさんびっくりさせちゃってたんですね。」
いや、それはあなたがシンプルに美女だからでは。と、本人にはまだ言えない。クールな第一印象とは裏腹に、感情的にコロコロと表情が変化し、可愛らしい。なんだ!無敵じゃねーか!と、心の中でツッコミを入れつつ、意外と普通に話せて安心していた。
「わたし、東京から越してきたばっかで、まだ全然この街にも慣れてないし、友達もいないんですけど...これからよろしくおねがいします!」
「あ、うん。よろしく。何もない街だけどなんでも聞いて。...まずその、敬語やめない?俺たち同級やし。」
「あ!そ、そうだよね!うん!えっと...じゃあ名前聞いてもいい...かな?」
またもや何故か少し恥ずかしそうな彼女にさすがに俺も照れそうになったのだが、楪さん越しに見えた山内が明らかに鼻の下を伸ばしており、思わず俺は少し吹き出してしまったのだ。