架想御伽語 ”美しい涙の行く末”
掲載日:2024/05/30
自然豊かな小村に暮らす繊細で心優しい少女は、自分を大切に育ててくれた母が病で亡くなり悲しみに暮れていた。
母の葬儀で、少女は今までに母から受けた恩や共に過ごしたかけがえのない日々を胸に、深い愛に満ちた涙を零した。しかし少女以外には、母のために涙を流す者は居なかった。彼らにとって、病を理由に頻繁に助けを求めてきた母娘は煩わしく、普段からあまり快く思っていなかったからだ。彼らは少女の涙にさえ関心を持たない冷淡な人々だった。
翌日、少女の涙の美しさに心奪われた湖が、彼女の前に現れこう言った。
『どうかその美しい涙で私を満たし、この湖面をより美しく輝かせて欲しい。私にはあなたの優しい心が生み出すその涙が必要です』
もはや誰にも求められなくなった少女は、唯一与えられた居場所に縋り付くかのように、自分が役に立てるのならばと、湖が差し出した手の上に自らの手を重ねた。
——
時は流れ、あの日一粒の涙も流さなかった人々の孫達が無邪気に草木の合間を駆け抜ける頃、少女は自分を求めてくれた湖のため、人としての姿を失った今も、変わらず慈愛に満ちたその美しい涙を流し続けるのだった。
End.




