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お茶会の招待状

一度試してみたくて、夜の投稿にしてみました。

 数日後、注文したドレスの一部が届いた。そこには一目ぼれしたラベンダー刺繍の生地を使ったドレスもあった。布自体の軽やかな印象を損ねないよう、同系色の色でまとめドレス本体にもラベンダーの刺繍を足してある。さわやかで可愛らしい印象に仕上がっている。

 しかもラベンダー色より少し濃い紫の生地で作ったボレロと、日傘までつけてくれていた。これなら春から夏までトータルコーディネートで使える。昼夜の寒暖差や強い日差しに弱いわたしの体を考えての配慮だろう。さりげない気遣いに流石人気なだけあるわと感心していると、お母さまが部屋にやってきた。


「ミシェルちゃん、明後日お母さまとお出かけしましょう」

「お出かけ? またお買い物?」

「いいえ、ようやくあなたを連れていけるようなお茶会のお誘いがあったの。

 ジグムント伯爵家で今年デビュタントをしたばかりのご令嬢とお母さまのお茶会らしいわ」


 どうやら両親は素直にわたしを婚活させる気はないようだ。それでも同年代のご令嬢がたくさんいる集まりに参加したことがないわたしは「わぁ!」と大きな声を上げた。


「お母さま、このドレスを着て行ってもいいかしら?」


 わたしは届いたばかりのラベンダーのドレスを身に当てながら、お母さまに訊ねた。


「もちろんよ。やっぱりミシェルちゃんによく似合ってるわ」


 微笑んだお母さまがわたしの髪をそっと撫でてくれる。やさしい目、やさしい手つき。普通、貴族のご婦人は育児なんて自分ではしないものだけれど、体が弱くいつまで生きられるかわからないわたしを、誰かに任せきりにするのが嫌だと、お母さまは乳母とふたりがかりでわたしを育ててくれた。

 特に一歳くらいまでは放っておくと、本当に何度も息が止まるようなことがあったらしく、わたしはひと時たりとも目が離せないこどもだったらしい。そこまででなくとも、何度となく寝込むわたしをお母さまは手ずから看病してくれた。だからわたしはお母さまの手が好きだ。この手に撫でられていると安心する。

 こんなことを言うと、いつまでも子どもだと思われるかもしれないけれど、なんとなく家族にはそれがバレているような気がした。


「このドレス、お母さまとおそろいにすれば良かったわ」

「まぁ、嬉しいことを言ってくれるのね」

「だってせっかくおそろいにしたってガブリーとじゃ、なかなか一緒にお出かけ出来ないもの。

 お母さまとだったら、初めて着るときもおそろいに出来たのに」


 お気に入りの布をいつでも眺められるようにと、義弟にもおそろいを強請ったけれど、そもそもガブリエルは連休でもなければなかなか家に帰ってこない。頼めば帰ってきてくれるだろうし、服を着て見せてもくれるだろうけれど、流石に忙しい弟にそこまでお願いすることは出来ないだろう。


「じゃあ、お母さまも明後日はラベンダー色のドレスを着ていこうかしら?」

「本当に?」

「ええ、余り着ていないドレスがあるはずだわ。ミシェルちゃんもいっしょに選んでくれる?

 もし私のジュエリーで気に入るのがあれば、あなたがつけても良いわよ」

「嬉しい! ありがとう、お母さま」


 ガブリエルのことを考えて、少し寂しい気持ちになっていたわたしに、お母さまはそう提案してくれた。夫婦や仲のいいお友達同士でペアルックをするというのはよく聞くので、仲のいい親子でも多分大丈夫だろう。それに初めて会う人たちをわたしが一度に覚えきれるか自信がないので、お母さまとそろえていたら周りがわたしたちを連れだと分かってくれると思う。そう考えると、親子でコーディネートをそろえるのはとても良いアイディアのように思えて、わたしは張り切ってお母さまの手を引いてドレスルームに向かう。

 その日の午後、わたしとお母さまはお互いのメイドたちも巻き込んで、コーディネートをたくさん試した。そうする内に、わたしも本格的に社交を始めるんだという実感が湧いてきて、なんだかその日はそわそわとしてなかなか寝付けなかったのだった。

次回は2/6(火)更新です。

ミシェルのお友達候補の女の子が登場予定です。


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