瞳色のジュエリー
牧場直送のミルクで作られたアイスクリームを贅沢に使ったパフェと、ミックスベリーのケーキを無事にガブリエルと半分こしたわたしは、上機嫌で移動中の馬車に乗っていた。我が家の料理人も別にお菓子作りが不得手というわけではないと思うのだけれど、カフェで食べたデザートが絶品すぎた。
やはりひとつのものを極めるプロには敵わないのか、お母さまの思い出のお店というシチュエーション込みの味なのか。自宅以外の場所でお茶をすることがほぼないわたしには判断がつかない。
「お母さま、今度は別のカフェにも連れて行ってくださいね!」
「あら、カフェに行くのが気に入っちゃったのかしら?」
「だって、うちで食べるデザートと違うように思うんですもの。これはいろんなお店の味を食べ比べてみないといけませんわ」
「それじゃあ姉さん、次は僕が連れて行こうか?」
「本当に? ガブリーがカフェに詳しいなんて意外ね」
「僕が特に詳しいわけじゃないけど、学校でおすすめを聞いてみるくらいは出来るから」
「なるほど! それもとっても楽しみだわ。ありがとう、ガブリー」
お母さまのようなご婦人方が愛好されるお店と、学校に通っているようなご令嬢が通っているお店はまた違うのだろう。今日のお店は穴場の名店という感じで落ち着いた雰囲気が良かったけれど、着飾ったご令嬢方が思い思いのデザートを食べているようなお店も、きっと素敵だと思う。義弟の気の利いた提案に思わず笑顔になると、ガブリエルは負けず劣らずの笑顔で「楽しみにしてて」と言ってくれた。
そんな話をしている内に、馬車は次の店の前で停まる。そこはコールトン男爵が運営する宝飾店のだ。不運にも招待先の令嬢の婚約がなくなる瞬間に立ち会ってしまった男爵には、お父さまから手紙を出してはもらったけれど、アクセサリでも購入してわたしからも何かしらのお礼をしたかったのだ。
わたしの持つアクセサリは、婚約者の都合でエメラルドが多かったけれど、今日新しく注文したドレスたちには似合わない。ドレスに合わせてアクセサリも新調してしまおうという計画だった。
宝飾店の中はわたしたち以外には数組のお客さまがいるようなだけで、お母さまが「娘に合うものを見せてくれる?」とお願いすると、わたしたちは店の奥にあるスペースへと案内された。
ソファに座って少し待つと、十個ほどのアクセサリがわたしたちの前に運ばれてきた。お母さまがわたし用にと言ったからか、サファイアなどの青い石を使ったものが多かった。
「このブローチ、ミシェルちゃんの瞳の色にそっくりね」
「本当ですね。ここまで明るく透き通った色はめずらしい」
お母さまが早速、右端にあったサファイアを使ったブローチを指さすと、運んできた店員は「どうぞお手に取って見比べてみてください」と言ってくれた。貸してもらった手袋を使い、鏡に顔と共にブローチを映すとお母さまとガブリエルが感心したような声を上げた理由がわかった。
「本当にそっくりね」
「うん、顔の下に並べてもそっくりだ」
華奢で繊細な金細工の中に、サファイアと小ぶりなパールがあしらわれた清楚な印象のブローチは、メインとする宝石を大きめにすることで主張の少なさとのバランスを取っているのだろう。その明るい空のような青色は、鏡の中に見える一対の瞳の色によく似ていた。
我が家はお母さまとわたしが青い瞳をしているので、青い宝石を使ったアクセサリはそこそこある。それでもここまで自分の瞳の色にそっくりな石はなかなかない。これは迷わず買いだろう。
そう思って、ブローチをトレイの中に避けておく。
「姉さん、こっちはどう?」
わたしがブローチを取り分けている内に、ガブリエルは新しく髪飾りをわたしの頭に当てがった。
「うーん、これだと姉さんの髪の色に埋もれちゃうかな?」
「そうねえ、ミシェルちゃんの髪はきれいなプラチナブロンドだし……」
「こういったチェーンで揺れものを足すことも出来ます。色石を使っていただければ存在感が増しますし」
わたしの頭の上で、お母さまと義弟と店員が話しているが、自分では側頭部につけられた飾りは三分の一ほどしか見えない。白熱した議論に参加も出来ず、わたしは机上に並んだ他のアクセサリに目を移した。
その日、結局わたしはお母さまと義弟が勧める商品を勧められるまま購入し、笑顔のコールトン男爵と挨拶を交わして帰路に就いたのだった。
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次回は2/1(木)更新予定です。
もう1月が終わってしまうなんて早い…




