甘やかし上手な義弟
ブックマークや評価、感想をありがとうございます。
まだまだ始まったばかりですが頑張ります。
ラベンダーのデイドレスを注文したあとも、あれこれおすすめの生地や素材を見せてもらい、3着の外出着と2着の夜会用ドレスを購入することになった。家に既に納品してもらっているドレスは、元婚約者の痕跡を完全に消してリメイクしてくれるらしいので、それで春と夏は乗り切れるだろう。
結局、お母さまもドレスを新調し、ガブリエルにも小物を中心にいくつか見繕ったので、個室で特別対応してもらったかいは十分にあっただろう。サロンに入るときもそうだったけれど、帰りも誰にも会わないようにするりと馬車にまで案内されて、「こんなに誰にも会わなくて大丈夫なのかしら?」と逆にわたしが心配になってしまった。ちょっとくらい誰かと立ち話でもして、婚約者に浮気されたことなんて全然気にしてませんよ、とアピールすべきではないかと思う。
「ミシェルちゃん、折角街に出てきたんだからカフェにでも行きましょう」
「わぁ、本当ですか? それならパフェが食べたいです」
「姉さん、まだ身体を冷やすものは良くないんじゃない?」
「ええ~平気よ。ガブリーったらお母さまより心配性なんだから」
「それじゃあ、半分こにするのは? アイス以外のところは姉さんが食べたら良いし、僕が注文するお菓子も分けてあげる」
「本当? それなら良いわ」
わたしは食べ過ぎるとすぐお腹を壊すので、いろんな種類のデザートを食べられない。それでも甘いものは好きだったから目移りするわたしに、ガブリエルはよく半分こをしてくれた。最近ではようやく一人前のデザートは食べきれるようになったけれど、折角家のパティシエが作ってくれる以外のデザートが食べられるなら、出来るだけいろんな味を楽しみたかった。
義弟の小言に折れるような素振りを見せながらも嬉しくて思わず笑うと、ガブリエルも何故か嬉しそうだった。
サロンからしばらく馬車が走り、貴族街の中でも飲食店が集まっているエリアに辿り着いた。服飾品店とは違い小規模な店舗も多いことから、目当てのカフェの近くで馬車を下りて歩くことになった。
平日の午後は、そこまで人通りも多くなく、貴婦人たちが歩いている姿が多いようだ。
お母さまは護衛に、わたしはガブリエルにエスコートしてもらい、目当てのカフェに入る。おそらくわざとなのだろうけれど、路地の少し奥まったところにあったお店は、全体的にアンティークな雰囲気で、とても落ち着いた品の良さを感じた。
「わぁ、素敵ね」
通された個室は、彫り物の素敵なティーテーブルと、布張りのこれまたアンティークらしい椅子が並んだ素敵な部屋だった。庭に面した一面が大きく採光のための窓になっており、初夏に移り変わる季節を前にして青々とした庭がとても眩しく見える。
「ここはお母さまが学生のときに、よく遊びに来たカフェなの」
「そうなの? 歴史のあるお店なのね」
「よく通りの見えるテーブルを陣取って、友達とお話したものよ」
そういってお母さまがあげた名前は、わたしもよく知るお母さまの親友とも言えるふたりのご婦人だった。わたしがよく体調を崩すものだから、お母さまは余り外出が出来なくなり、代わりに家へ遊びに来てくれていた方たちなので、わたしもよく知っている。
学生時代からのお友達ということは、いまのガブリエルと同じくらいの歳からずっと続いている関係だということだ。「良いなぁ」と思わずつぶやいてしまう。同年代で仲が良い相手なんて、ガブリエルくらいのわたしにはそんなにずっと付き合っていけるお友達がいるなんて想像もつかない。
「大丈夫だよ、姉さん」
とんとん、と励ますようにガブリエルがわたしの手をそっと叩いた。
「姉さんも、社交を始めるんでしょ?
きっとすぐに素敵な友達が出来るよ」
「ええ、そうよね。わたし頑張るわ」
ガブリエルの言葉は、今まさにわたしが欲しかった言葉で、余りにも義弟が甘やかすのが上手いせいでわたしはすっかりガブリエルに甘えることに慣れてしまった。こういうところも、わたしが妹だと勘違いされる理由だというのは分かっているのだけれど、ガブリエルのタイミングが良すぎるせいで、ちっとも姉として毅然とした態度が取れる気がしない。
それでも、これから社交に踏み出さないといけないと考えると、いまはガブリエルに甘やかしてもらいたくて、わたしはパフェが届くまで義弟の学園生活の話をせがんだのだった。
通勤時間に読めるかなと思って、朝の投稿にしてるのですが、夜の方が良いのかちょっと悩んでます。




