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お買い物は令嬢の戦闘力

「姉さん!」

「ガブリーじゃない。あなた学校じゃないの?」

「姉さんが街に来るって聞いて、会いに来ちゃった」

「まぁ! 悪い子だこと」


 へへっと笑う義弟は相変わらずわたしに懐いてくれているようで、とてもかわいい。わたしは思わずぎゅっとガブリエルを抱きしめて、褒めるようにその髪を撫でた。

 ガブリエルは入学以来、学年一位の座を誰にも譲ったことがないというし、一回授業をサボったくらい大したことはないのだろうけど、なんだか手馴れている感じがして少しだけ釘を刺しておく。


「わたしに会いに来てくれるのは嬉しいけど、それであなたの成績が落ちるようなことがあっては嫌よ?」

「もちろん。姉さんのせいにはしません」


 微笑むガブリエルは余裕の表情だ。わたしは学校に行ったことがないからシステムがよくわからないのだけれど、昔から賢い子だから無茶はしないだろうと、わたしはそれ以上の小言は控えることにした。


「ガブリエル、待たせたかしら?」


 お茶を飲んでいたらしいガブリエルの隣に座らせてもらうと、サロンのオーナーに挨拶をしていたお母さまもやってきた。


「いいえ。少しお茶を飲ませてもらって、カタログを拝見しようとしていたところです」

「そう、良かったわ。あなたも気に入ったものがあれば買っていいのよ」

「ありがとうございます、母上」


 わたしとお母さまは今日、街までお買い物に来ていた。ずばり社交用のドレスを用意するためだ。デビュタントに備えて、ある程度の準備はしていたのだけれど、婚約がご破算になってしまったので急遽新しいものを買い足す必要が出てきたのだ。

 デュークの好きなデザインや、瞳の色などがそれらに反映されていたからである。

 プラチナブロンドに水色の瞳を持つわたしは、どちらかと言うと淡い色味が似合う。一方デュークは茶色の髪にダークグリーンの瞳という渋めの色だったから、ワンポイントでもわたしのワードローブの中に入れるとかなり目立つ。いつまでも元婚約者の色を纏って未練があるなどと言われてはたまらないので、リメイクをするか新調しましょうとお母さまが提案してくれたのだ。

 普段は家に人を呼んでお買い物をすることが多いのに、わざわざ街に出かけてきたのも婚約を破談にしたことで引き籠っているなどと言われないようにするためだった。ガブリエルまで来てくれるとは思っていなかったけれど、学校に戻るときにちゃんと見送れなかったので、嬉しい誤算だった。


「アーサリー伯爵家の皆さま、本日はご来店いただきありがとうございます」


 家族三人で話をしていると、サロンのオーナーが挨拶に来てくれた。わたしとお母さまのためにお茶の用意つきである。ティーワゴンの下には、布やリボンの見本と思われるものも載せられているようだった。


「本日はお嬢さまのお買い物とお伺いしております」

「ええ。よろしくお願いね」


 オーナーは手ずからお茶を淹れると、流れるように持参したサンプルを広げて見せてくれた。主に室内着や寝間着だったけれど、幼いころから何度もお願いしてあるだけあって、わたしの好みを的確に押さえたものが机に並び、それを眺めるだけで楽しくなってしまう。

 そして、その中に元婚約者を思わせる色味のひとつもないことから、少し遅れたお母さまが何やら話してくれたのだろうと察してしまった。


「あ、これ」


 ふと目に留まったのはエクリュの生地にラベンダーの刺繍が入った生地だ。緑も紫も濃淡取りそろえた様々な色で刺してあり、生地の端に大きめに入れられた刺繍は立体感もあって飽きが来ない。薄くて軽い布地がなびけば、まるで花畑を散歩しているように見えそうだ。


「お目が高いですわ、ミシェルさま。

 こちら今年の夏に向けて一押しの生地でございます」

「これとってもかわいいわ。イブニングには難しくても、外出着にどうかしら?

 フリルにしてブラウスに入れてもいいし、オーバースカートに使っても良さそうよね」

「左様でございます。当店といたしましては、刺繍を活かすなら広めの箇所に利用されるのをおすすめいたします。

 おっしゃるようにオーバースカートにされますとか、あとはお袖口や胸元のリボンなどに使用いたしますとお茶会などでもよく見えると思います」


 確かに、お茶会は基本的に座ってお話する時間がメインだ。折角かわいい生地を使っても下半身はほとんど見えなくなってしまう。わたしは的を射たアドバイスになるほどと頷き、それから隣に座るガブリエルのことを見た。


「そうね。それならわたしは袖とオーバースカートにこちらを使ったデイドレスを作ってもらおうかしら。

 それとは別にこちらをポケットチーフか、男性用のジャボには出来ない?」

「それは僕とおそろいってことですか?」


 隣をうかがう視線で気づいたのだろうガブリエルが、瞬きながら訊ねてきた。


「うん。折角の気に入った生地なら、自分で身に着けるより自分の身近な人が着ていてくれた方が、たくさん見られるもの」


 それに、とわたしはサンプルをガブリエルのあご下に宛がった。ラベンダー色の弟の瞳に、やはりその生地はよく似合うように思った。

二週目です。次は25日に投稿予定です。

1500~2000字くらいの読みやすい文字数の投稿にしようと決めて分割しているのですが、思ったより話が進まないなと自分でも思っています。

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