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いわくつき。  作者: 山手みなと
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「いわくつき。」 廃線めぐり

[第8話] 廃線めぐり


私の趣味は鉄道。

いわゆる撮り鉄なんだけど、私のジャンルは廃線鉄。

普段は女子大生でサークルは写真同好会に所属している。

休日なると必ず撮影に出掛け、撮り溜めた写真は文化祭の展示に出す予定でいる。


廃線の魅力は、時の流れによって風景が様変わりしてしまうという哀しみがある一方で、痕跡からはかつてそこで本当に存在していた雰囲気が伝わってきて感慨深い気持ちになる...。

長い年月をかけて徐々に朽ちていく様子が風情や哀愁を感じさせるのだ...。


ただ、線路というと列車のイメージがあるんだけど、実は昔には山岳地帯で炭鉱採掘が行われていた時代があり、そこで使われていたトロッコの線路も残っている...。

その線路といえば、戦前は短尺レールが主流で頂上から麓まで石炭を運ぶために利用したり、他には木材運搬にも利用されていたんだ...。

しかし、戦争が始まると鉄不足のため、レールの鉄は戦闘機に用いられてしまうのだ...。

そして時代は進んで、資源利用が石炭から石油に変化するとともに炭鉱は閉鎖し、線路は役目を終える事になっていく...。

戦後を迎えた頃には地域によっては残された線路を活用しようと列車が乗り入れ、人の移動手段としての時代が始まった。

しかし高度成長期になると、移動手段として車が主流になっていき、そんな列車の役目は終わっていく...。

そんな理由が重なり、廃線になっていく場所があるんだよね...。

全国各地を撮影してきた彼女はそんな歴史背景と合わせて感じた想いを振り返った...。


そして、ある年に春休みを迎えた彼女は一人で廃線跡地を訪れた。かなり山深い場所にあるようで麓からは歩きのみという状況に少々過酷な足取りになりそうな感じだ。

何とか1時間かけて無事に目的地に到着。

「噂通りレールは殆ど残ってないな。枕木だけが散乱している」

しばらく歩くと、洞穴らしき場所に辿り着いた。

そこは炭鉱採掘跡地と看板が立ててあった...。

洞穴に入ると、やけに肌寒い。中の様子はレールの痕跡だけが残るだけだった...。

記念に写真を何枚か撮っていると

突然奥の方から風が吹いてきて、なんか光らしき物が見えてきた。

その光は徐々にこちらに近づいてくる...。

「鉄道マニアかな?」

「いやいや、こんな山奥に人がいるわけがない」

よく見ると手の形をしている...。

やはりトンネルという場所だけに霊が出るのか?

白い手が近づくにつれて、手招きをしているように見える...。

それはだんだん大きく迫ってくる...。

よく見ると、手招きじゃなくて、あっち行け!の動きに見えてきた...。

出て行け!と言われているかのようだ。

直感的に今すぐ洞穴から出ないとヤバいことになると思って、外へ飛び出した!!

「とりあえず幽霊に襲われなくて良かった」とホッと一息つくと、洞穴がいきなり崩落した!!

急いで避難して後ろを振り返ると入口は完全に石で塞がれていた...。

もし中にいたら、どうなっていたかと思うと、恐ろしくて身震いが止まらなかった...。


しばらく景色が開けた場所で息を整えると落ち着きを取り戻した。「そうだ!さっき撮った写真を確認してみよう...」

よく見るとヘルメットを被った作業員らしき霊がたくさん映ってしまっている...。

特に霊感は無いと思っていたのだが、見えてしまったという事は...??

これはなんかしらの強いメッセージだったのかな?と思った。

なんだか陽も暮れてきたからそろそろ帰ろうかなと立ち上がると、入口付近の看板が再び気になった...。

入る時にはしっかり読んでいなかったから最後まで読んでみた。

" ここは採掘中に戦争の砲撃に遭い崩落。多数の作業員が犠牲になりました。立ち入りを禁ず。" と書いてあった。

「入る時に全部読んでいればこんな目に遭わずに済んだのに...」

「しかし、立ち入り禁止なら入口はそもそも入れないようにしているはず...」

「あの時間は一体なんだったんだろ?」


彼女は気付いてないが、

" いわくつき " とされる場所は、稀に不思議な空間に迷い込むこんでしまう事があるらしいのだ...。

立ち入り禁止が目に入らない時点で既に何かおかしいのだ...。


写真の撮影も無事に終わったし、看板も読んだし、洞窟を背に下山する...。

下山して麓にある山の管理事務所に立ち寄り、自分に起きた出来事を話した...。

「あの洞穴は、最初から崩落していて入れないはずなんだけどね...」

「過去に何人か訪れたんだけど、皆んな同じ事を言ってましたよ...」

「そのうち、行方不明で未だに見つからない人もいるらしいですよ...」

という事は...?

「あの時、手招きだと思って奥まで進んでいたら、私はあの世へ連れさられていたかもしれない...」

「あの時、あっち行け!と判断したのが良かったんだ...」

「でもあの体験は幻覚だったのかな?」

いくら考えてもあの出来事が理解ができない...。

あの手の動きを思い返すと、手招きの手だったのか、追い払う手だったのか?

真相は誰も知らず、もちろん私にも管理人にも分からないのであった...。


だが...。

これで懲りる私じゃないわ!!

「ここで恐れていては廃線めぐりは出来ない。これからも写真を撮り続けるぞ!!」


そして帰りの電車に乗っていると

、途中の駅に停車した時に窓越しに先ほどの作業員が立っていた...。

「写真に映った霊に似ている...」

「私に憑いて来たのかな?」

次の駅にも作業員が!

また次の駅にも作業員が!

そのまた次の駅にも作業員が!

いない...。

「あ〜、良かった〜」

駅からタクシーを拾い家に向かうが、後ろが気になる...。

勇気を出して振り返るが憑いて来る姿は無い...。

心配していた現象は何も起こらず、無事に家に帰る事が出来た...。

今日行った場所を再確認するため採掘跡地周辺の地図を見直した...。

よく見ると、霊が立っていた駅は採掘跡地がある山の周辺だけで、最後に霊が現れなくなった駅は山から離れた場所だったのだ!

山から離れたから助かったんだと自分の中で納得した...。

流石に霊が家まで来ることはないだろうと妙な確信を抱き、夜の眠りについた。


次の日、別の廃線跡地に出掛けることにした。

その場所は車では入れない秘境の地。

また歩いて入山することに...。

「流石に徒歩2時間は疲れるな」と、言いながら目的の廃線跡地に到着した。

そこに見えたのは、石炭採掘の会社跡地のような景色だった...。

線路の近くには民家が立ち並んでいた...。

どうやら社宅っぽい雰囲気だ...。完全に静まり返った様子で、人の気配は無く、急に人がいなくなったような印象...。

まさに、もぬけの殻だ...。

建物はだいぶ朽ちているが、つい最近まで生活していた痕跡が残っている...。

「事前にネットで記事を検索していたんだけど、思ったより年月の経過を感じるなぁ...」

廃線跡より、社宅が気になった...。

「誰も住んでないし、入っちゃえ!」と建物にそっと足を踏み入れる...。


その当時と思われる新聞が散乱しており、食器もそのまま放置されている。時代のはかなり経っているが、つい最近まで住んでいたかの様な雰囲気だ。

調べた通り、その地域は資源が石炭から石油に移り変わった時代の場所で、炭鉱事業で賑わっていたが、突如として閉鎖してしまった過去があったのだ...。

さらに建物を散策していると、奥から斧を手にしたおじいさんが出てきた...。

「お嬢さん、こんな山奥に何しに来たっと?」

「はよ、帰った方がええけん!」

と言って台所へと消えていった...。

急いでそのおじいさんの姿を追いかけたが姿はどこにもない...。

諦めて家から出ようとしたら、居間には仏壇が...。

よく見ると、先ほどのおじいさんの遺影が残されていた...。

「これは何かのメッセージかな?」


昨日の洞穴と同じ状況で何か起こりそうな予感...。

「ここは早く退散したほうが良さそうだな!!」

遠くの景色を堪能する余裕は無く、急いで目的の廃線跡を写真に収めた...。

足早に下山しようと走り出したその時、建物が崩壊した!!

後ろを振り返ると、崩壊したのは自分が足を踏み入れていた建物だった...。

やはり洞穴の時と同じで幽霊の出現によって命を救われた...。


よく、心霊動画で見る" いわくつき " を遊び半分で肝試しする輩とは違って私はそんなつもりで来てはない。

私は好きな気持ちで撮影しに来ている...。

だから幽霊にも気持ちが見えていて助けてくれたのかと思った...。

「とりあえず早く家に帰って写真を整理しないとな!!」

無事に帰宅して、写真を見返していると、洞穴の時と同様に線路や社宅に幽霊の姿がたくさん...!

突如としてこの場所を去ることになった背景を考えると、そこで生活していた人達の思いがまだ残っているように思えた...。

撮影を続けたい一方、そういう場所は関係の無い人物が安易に立ち入るのは何か恐く感じる。

「でも、あのおじいさんのおかげで建物の崩落を免れられたんだから感謝しないとな...」

今後は、危険な場所に安易に足を踏み入れたり、長い時間居座ったりする撮影はやめようと決意した...

そう彼女はこの廃線めぐりで体験した出来事を振り返った...。


しかし廃線跡の魅力といえば、

そこだけ時代が止まったかのように存在しているのと、生い茂る草がなんともいえない味わいを出しているんだよなぁ...。

頭の中では当時の列車が走っている姿が妄想できて楽しい。

やはり昔の線路は自然の中に突如として現れるんだけど、自然をあまり壊さないように溶け込んでいる姿が大好きだ...。

まるで線路もまだ生きているかの様に愛らしく見える。

やはり廃線めぐりはやめられない...!

よく古い物には念が残るといわれているが、決して悪い物ばかりとは言えない...。

よく背景を調べてから行動すれば大丈夫だと思う...。

これからは少し " ソレ " と距離を置きつつ廃線を撮り続ける彼女であった...。

しかし、彼女は知らなかった...。

あまり " ソレ " に寄り添い過ぎると、逆に取り憑かれてしまうことを...!


果たして、次の廃線めぐりでは、霊に出会ってしまうのか?


その3年後...。

彼女はあの時に行った洞穴の奥で白骨化した姿で発見された...。

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