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いわくつき。  作者: 山手みなと
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「いわくつき。」1Kロフト付き

[第7話] 1Kロフト付き

「私はこの春から上京することになりました」

「名前は " 萌音 " といいます」

「晴れて華の女子大生になるんです」

と、受付で自己紹介。

早々に物件探しをしていた彼女はこの2月に賃貸契約を済ませた。

そこは駅から徒歩5分にも関わらず、

家賃は3万9000円!

間取りは6畳1Kロフト付き。

誰から見てもワケありな感じ...。

契約の決め手は、賃料や間取りではなくデザイン。

エントランスに "モネの睡蓮 " を模した庭。

通路にフェルメールやルノワールなど世界の名画が勢揃い。

その中に紛れるように作者不明の絵画が1枚だけある...。

そんな雰囲気。

どうやら大家さんの趣味が古美術鑑賞だという理由で絵画を飾っているらしい。

古美術が好きな彼女にとってこんな嬉しい事はないのである。

だが...。

そんな華やかな環境とは真逆の出来事が彼女の知らない所で起きていた。実は絵画の装飾に関係なくこの賃料には意味があるそうで...。

ある理由が原因で入居者があまり決まらなくて、安く抑えた価格にしたらしい。

だから契約してくれた人には、

" ありがとう " のサンキュー(39)の意味を込めているらしい。

(なんだか恐ろしい...。)

そう、いわゆる " いわくつき "物件なのだ。

心理的瑕疵、物理的瑕疵といわれる物件は過去に事件があった場合、直近の入居者には、いわくつきの報告義務がある。

しかし、2件目の人からは法律的に報告義務は発生しない。

だから彼女には知らされることはないのね...。

(トホホ...。)

そんな事情を知らない彼女は意気揚々に、

「リビングにはテーブルとソファを置いて〜、ロフトには布団を敷いて〜」と配置を決めつつ、楽しい1人暮らしがスタートする。

その数ヶ月後。

女子大生の1人暮らしも慣れてきて気付いたら夏休みになっていた。

ある日、遊びから帰宅すると、何やら天井から音がする。

建物の膨張音かな?と気にせず、ソファに腰を下ろして寛いでいると何か気配というか視線を感じる。

気になってロフトを見上げようとするが勇気が出ない。それでも意を決して覗いてみると、綺麗に敷いたはずの布団が乱れていた。何者かが侵入して寝ていたかのような感じだ。

「セキュリティ上、侵入は出来ないはず。だとすると、幽霊?」

「いや、それは...」

「そう思い込むことで、なんでも幽霊に見えてしまう錯覚が起きるから考えるのはやめよう」

その夜は仕方なく布団を綺麗に敷き直して眠りについた。

次の日は何も音はせず、ただの勘違いだと思い安心した。

だがその夜、寝ていると下のリビングから足音が " ペタ!ペタ! " と聴こえてくる。怖くて下を見れない。

布団に潜って、ほとぼりが冷めるのを待った。

すると下から息遣いが...。

もしかしてハシゴを登ってる?

そっと布団の隙間から覗くと幽霊の顔と目が合ってしまった。

もう一度覗くと、幽霊の姿は消えていた。

人生で初めて見る幽霊だけにトラウマになりそう...。

しばらくして呼吸が落ち着くと、少し冷静になった。

「そういえば、あの顔...。どこかで見たような気が...」

「なんか幼馴染みの友人に似ているような気がする」

そう、幼馴染みの名前は " 明美 " だ。

学生時代の写真を見返すと、思った通り一致した。

「そういえば、高校時代はお互い別の学校だったな。最後に会ったのは卒業前の1月。それ以来連絡取っていなかったな」

気になって友人の自宅に電話をかけてみる。

そこで驚愕の事実を知ることになる。

彼女の住んでいる部屋、実は明美が以前住んでいた事が判明。

しかし自病を抱えていた明美は部屋で自害をして、現在はこの世にはいないのであった。

「幼馴染みの私には何も知らせずに消えてしまったんだね」

明美の親の話だと、苦しみを敢えて知らせなかったのは、私の為を思っての事だということのようだ。

なんか切ない。

知らないのが一番苦しい。

寄り添うことも出来たはずなのに...。

「次の日も幽霊は現れるはず。だってまだお盆だから...」

幽霊が出たら勇気を出して声を掛けてみよう。

確実に幼馴染みだって分かっているから。

その夜、思い通りに幽霊は現れた。

彼女は声を掛けてみる。

「明美だよね?私が分かる?」

「分かっているわよ」

「まさか私が住んでいた部屋に萌音が来るとは思っていなかったわ」

「聞いてほしいんだけど、エントランス通路にある不気味な絵画、あれ捨ててほしいんだよね」

「あの絵画の女が私の部屋に現れた事があったの」

「その頃は自病で苦しんでいた時期で、治療に関して前進している最中だったの」

「でもあの女が、苦しまなくても楽にしてあげると囁くから、気が変になっちゃって...」

「気付いた時には首に紐が巻かれていたわ」

「何かあの女に操られていた感じがどうしても拭えなくて、今でもあの女が憎いの」

と胸の内を話すと、幽霊(明美)は消えていった。

萌音は、その絵画が全ての原因だと確信した。

真相を確かめるため、大家さんに幽霊の出現とその絵画について聞いてみることにした。

すると、前のオーナーさんの持ち物だということだけが分かった。

更に調べると、

戦前、この周辺に住んでいた夫婦がいたが、妻は病気を苦に自害。残された夫は寂しさのあまり、妻を絵画に描き起こした。

その絵画は、いつしか古美術として売りに出されており、いつしか競売に出される日を待ち望んでいた作品だったらしい。

しかも、そのモデルが街を開拓した国の資産家の妻という事で値打ちがあるらしいのだ。

そんな街のシンボルというべき絵画を初代のオーナーが買い取り、マンションに飾ったという話だ。

「建物はリニューアルして30年になるんだけど、

僕はこの建物を建て替えてた後に3代目オーナーに就任したから建て替える前の事は知らないんだ」

「ただ、取り壊す時に、2代目のオーナーが絵画を受け継いだんだけど、これは守り神だという伝言も一緒に受け継いだみたいで、絵画はその時に設置したままだったから僕は何も疑問に思わなかった」

調べるまでは経緯をあまり知らずに過ごしていたようだ。

「実は幽霊の兆候は以前から少し耳にしていて、夜になると女の幽霊を見かけるだとか絵画の顔の向きが違うなど苦情が相次いだんだ」

「でも絵画が原因という確証がなかったから何も出来ずにいたんだ」

「すまなかった」

「あと僕の直感だけど、絵画が一枚だけというのは妙に不気味に感じちゃって。だからカモフラージュするように世界の名画を飾るようになったんだよ」

そんな経緯を知った私は謎が解けて、モヤモヤが取れた気がした。

「しかし、あの絵画は病気の友人をあの世へと道連れにしたのか?」

「原因はやはり絵画その物としか言いようがない」

「やはり古い物が身近にあると何かしら念のようなものが残っていてもおなしくない」

「絵画の作者と被写体、2人の念があるとは...」

これは、お焚き上げするべきだ。

霊媒師と神社にお任せする形で供養をしてもらった。

その後は何事もなく、霊現象も起きずに安心した暮らしが送れている。

しかし、1年後のお盆にまた幽霊が現れる。

「明美じゃん!」

そう、絵画を供養してくれたお礼に来たのだ。

「ありがとう。これで萌音も安心だね」

「いや、明美で良かったけど、知らない幽霊だったら恐いよ。少しビックリしたけど...」

なんて冗談を言いながら話は続いた。

幼馴染みだった2人は高校時代の時間の穴を埋めるべく、お盆期間中に限り、萌音と明美(幽霊)の不思議な生活が始まるのであった。

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