「いわくつき。」 夏祭りのお面
[第6話] 夏祭りのお面
私はお祭りが好きなOL女子。
趣味は古物品集め。
霊感については特にあると感じたことは無いかもしれない。
待ちに待った夏休み。
やっと仕事から開放された今、私は自由の身だ。
この10日間をフルに満喫するぞと胸が躍る。
夏休みの一番の楽しみは、夏祭り。
毎年のように友達と3人で参加している。
特に屋台や夜店が大好きで毎年寄るようにしている。
どれも子供の時に遊んだ記憶があるもので、ここでは童心に帰れる。
特に花火が打ち上がる中で屋台を楽しむ雰囲気が好きなのだ。
しばらく歩くと、毎年見かけるお面屋さんを発見。
キャラクター物、特撮物、覆面レスラー物などが勢揃いする様子は今も昔も変わらない景色に心が和んだ。
その隣にもお面屋さんが...。
初めて見かけるお店だなぁ。
キャラクター物は置いてなくて、ツタンカーメンや古代の王様、各国の王妃などがつけていたとされるお面が並んでいた。
歴史のある古い物が好きな私はすぐに魅了された。
「これが本物だったら、" いわくつき " かもしれない...」
なんて冗談まじりに友達と話す。
何だか店主の雰囲気が怪しい。
一応、店主に本物か尋ねたら、レプリカだということが分かった。
しかし、後に分かる事だが、レプリカの中に本物が紛れ込んでいるという事実が...。
お面に魅了された彼女は王妃のお面を買うことにした。
よく見ると舞踏会とかで付けるような造りだな。
お面ではなく仮面かな?
数日後、また夏祭りに足を運ぶと、あのお面の店が無い。
通常なら期間中はずっと営業しているのが普通なんだが...。
隣のお面屋さんに聞くと、私が買った次の日に急に来なくなったという。
まぁそんなこともあるんだなと、特に気には留めなかった。
その夜、友達と家呑みを楽しんでいると、あの仮面を買ったのを思い出した。
似合うかどうか見てもらうため袋から取り出す。
「なんか、お化粧の匂いがするんだけど...」
一瞬、違和感を感じたが、レプリカだから敢えて匂いを付けて本物感を演出しているんだな。
何となく自分に言い聞かせながら装着する。
「似合うじゃん!」
「一気に優雅なお姫様になったみたいだね!」
友達にそう言われて自分も嬉しくなった。
思わず調子に乗って踊ってみたりなんかして飲み会は盛り上がった。
夜も遅くなり、友達は先に寝てしまった。彼女も寝る準備のために化粧を落とそうと鏡を覗いていると、後ろに人影らしいものが見える。
すぐに振り返るが誰もいない...。
夜も遅いし疲れて幻覚を見ているんだと思い、その人影の事を忘れて眠りについた。
しばらくすると、何だか変な夢を見た。
「ここはどこ?アジアン的な室内でなんだか王室みたい」
古代にタイムスリップしたかのような雰囲気。
辺りを見回すと、部下らしき男達がたくさんいて膝をついてこちらを見ている。
「今日が仮面を外す時です。王子と契りを交わす時は素顔を見せるのです」
その夢とは、王子と結婚するのは王家の許嫁としての使命。
許嫁のため日取りも最初から決められている。
王家一族の素顔を世間に晒すことは掟として許されておらず、結婚直前まではお互いに素顔を知らないのである。
古代によくあった王族同士の結婚ということだ。
結婚当日、お嬢様は王子に素顔を晒す。
しかし、王子は素顔を気に入らないようで、掟を破る覚悟で結婚を拒んだ。
実は、お嬢様は病を抱えていたため顔が腫れてしまい、美しさを失っていたのだ。
そうとは知らず、王子は結婚から逃れるためにお嬢様を斬りつけてしまう。
残念ながらお嬢様は助からなかった。
という内容だった。
彼女は王子に斬りつけられる所で目が覚める。
驚いて起き上がり、仮面を見ると斬られたようなキズが浮かび上がっていた。
そして鏡を見ると自分の顔が腫れ上がっている。
「なんじゃコレ?」
次の日も同じ夢を見せられることになる。
これは何かのメッセージかもしれない。
また次の日も同じ夢を見る。
3日連続で同じ夢。
「こんな夢を見るのはもうごめんだ」
「仮面から化粧の匂いがしたのは本物の証拠かもしれない」
だとしたら、お面屋さんに返却しないとな...。
しかし返却しようにも、お面屋さんはどこかへ消えちゃったし。
このまま持ち続けるのもなんか嫌だな...。
そう思いながら、お面を見つめていると、何やら刻印を発見する。
「シリアルナンバー?」
気になってこのナンバーをネット検索すると、
エジプトにある古代美術品の現物管理のナンバーだったのだ。
取説欄には、
" いわくつきの品であるため、古代美術館の倉庫に眠っていた実物展示用のお面です。 " とあった。
なぜあの夏祭りで売られていたかは謎だが、どうやら盗品くさいのは確かだ。
彼女は返却するため古代発掘の専門家と共にエジプトに向かう。
現地に着くなり美術館に早速到着。
まずは美術館を見学して回ることにした。
まず目にしたのは、ある王族に関する古物資料のコーナー。
そこには仮面にまつわるお話が書かれてあった。
それは夢で見た内容と一致していたため思わず体が震えた。
「お嬢様は可哀想すぎる!」
「王族としての運命がそうさせてしまったのか?」
王族の歴史になんか哀しいものを感じた。
展示品をたくさん見たし、そろそろ返却手続きをしようと管理事務所を訪れる。
最初は盗品の犯人として疑われてしまったが、証拠として、買った記念にお面屋さんの店主をバックに撮影した写真を見せた。
その写真のおかげで無事に疑いが晴れた。
彼女は美術館に仮面を返却することが出来た。
無事に帰国すると、紛失されたと話題になっていたその仮面が発見されたというニュースが流れた。
本来返却されたことは伏せられていた。
そのニュースを一緒に見ていた友達は彼女が買ったお面だったことに驚きを隠せなかった。
古いものが好きとはいえ、なぜあの時お面を買ってしまったのか?
あの場所に店があること自体おかしいし、やはり何かに引き寄せられるように手にしたのは運命なのか?
もしかしたら、これをあるべき場所へ戻してほしいという持主(お嬢様)の念が私を呼び寄せたのかもしれない。
やはり古いものには、何かしら "いわくつき " があるものだいうことを確信した。
これをきっかけに彼女は古い物に興味が湧いてもそれを手に取ることはもう二度としないと決意した。
来年また夏祭りに行くんだけど、またあのお面屋さんがいないことを祈るのであった。
1年後...。
毎年恒例となっている夏祭りがまた始まった。
彼女は果たして、アレと出会ってしまうのか?
そっと夜店を歩いていると...。
あった!同じ場所に店が!
近づくに連れ鼓動が止まらない。
勇気を出して覗くと、昨年と違う店主とキャラクターのお面が並んでいた。
「なんだぁ〜。良かったぁ〜。私の思い過ごしだったわ」
あの仮面が無くて安心した。
ホッと胸を撫で下ろす。
安心して帰ろうとした時、すれ違った女の子の手には、あの仮面が...。
周りをよく見たら同じ仮面を持つ子供達が...。
「あの時の夢が思い出されてトラウマなりそうだ...」
実は、あのニュースの後、あまりに可哀想なお姫様の話が世界に広がり、その想いを伝えるが如く、美術館が仮面を公式グッツとして
売り出したらしい。
想いに共感した人は世界に広がりをみせているようだ。
気付いたら友達も街で購入したそうな。
「私はもうごめんだ」
仮面を手にした人達は、果たしてあの夢を見させられているのか?
それが現実に起こらない事を祈りたい...。