「いわくつき。」 コミュニティバス
[第55話] コミュニティバス
「こんな時間にバスが来るわけがないよ!」
「もう歩き疲れちゃった...」
私達は、秘境温泉を求めて旅をしている。
すでに分かっている事だが、この秘境と言われる地域は、バスが一日3本しかなくて、朝7時と昼11時と午後15時の便のみ...。
絶対に逃したら簡単には帰れないから気をつけなきゃね!!
もちろんタクシー会社もない為、バスだけが唯一の移動手段となっている。
しかし、こんな秘境でも夏休みになると花火大会で賑わうみたいで全国から人が押し寄せるため臨時便が出るそうだ。
秘境温泉の近くには、展望台が設置されている見晴台があり、地平線を見渡す事が出来る場所がある。
そこには昔の砲台跡がり、今では観光スポットで有名であるが心霊スポットとしても有名な場所なのである。
だが、それも時の流れなのか戦争の記憶は薄れている。
そんな過去がある地域ではあるが温泉好きには関係なく、ただ温泉を堪能するためこの集落に来ているのだ。
そして、目的の温泉施設に辿り着くと周りは静かで流石秘境というだけあって癒された。
私達は思わず、まったりとのんびりと時間を過ごしていた。
つい長風呂になってしまっていたが、バスの時間は大丈夫かと心配になってきた。
いざ時計を見ると、すでに11時発のバスを逃してしまっていた...。
最終便まで時間あるし、せっかくだから見晴台まで行ってみようとなった。
そして景色を堪能した後、バス停まで辿り着いた。
そして、バスの時間をよく見てみると...?
えーと...。
午後が...。
無い...!?
そう、今日は日曜日...。
休日なのをすっかり忘れていたよ...。
平日が3便なのに対し、日曜は午前のみの運行だったのだ。
時間ばかり気にしていたから曜日はつい見逃しちゃったんだな...。
他に足は無いので帰りは仕方なく歩いて街に出ようという事になった。
しかし、道のりは2時間はくだらない...。
歩き疲れて足が棒になりそう....。
その道中、コミュニティバスとすれ違う...。
バスは来ないじゃぁ...。
気が付くと、すでに17時を超えていた...。
少し追いかけてみると、今にも崩れそうなボロボロの待合室があるバス停に止まっている姿が見えた。
こんな所にバス停あったっけ?
そう思いつつ急いでバスに乗り込んだ。
この地域は周遊バスだから街に出るには一旦山を上がらなきゃ帰れないんだっけ?
一旦上がるのは癪に触るけど、もう乗っちゃったしなぁ...。
早く帰りたいけど、永遠に歩くよりはマシか...。
しかし、それが間違いだった...。
しばらくして車内に妙な違和感が...。
周りをよく見てみると私達の他に座っているのが全員軍服なんだけど...。
そして、見晴台に着くと、軍服の人達は座席から消えていた。
その異様な光景は私にしか見えておらず友達には何も見えなかったようだ。
そしてバスは折り返し山を下って行くのであった。
そして無事に終点に辿り着いた。
バスから降りる際、運転手から声を掛けられる。
「お嬢さん、地元の人じゃないね?」
「この時間はもう乗らないことをお勧めします」
「日曜には必ず戦没者が現れるから燈らいのためにいつもバスを走らせているんです」
「間違ってあちらへ連れて行かれた方がいましたから...」
そう言って運転手はドアを閉めた。
あの時間は一体なんだったんだ?
温泉でのんびりし過ぎたせいでこんな目に...。
駅に着いて友達と別れた後、私は無事に家へ帰って来れた。
着替えも早々に私はネットで訪れた秘境について調べてみた。
砲台跡がある見晴台は戦時中に敵の砲撃に遭い何人もの犠牲者が出たという。今も成仏されずに無念の霊が彷徨っているという噂だ。
日曜夕方にバスを走らせる理由は、当時砲撃を受けた時間が日曜の夕方だったそうで兵士は今も尚、家族のために戦いに向かうため姿を表すといわれている。
そして花火大会のある日...。
観客には見えないが、花火の明かりと共に兵士の姿が浮かび上がるのであった...。
花火大会は毎年テレビ中継されているが、今年は私の目にはテレビ越しに兵士の霊が見える...。
そう、私はあの日から霊感が付いたように感じる...。
秘境温泉に行っても妙な視線を感じるし、街のスクランブル交差点でも人なのか幽霊なのか見分けがつくようになった。
そしてある日の事、コミュニティバスの運転手が定年退職することを知る...。
戦没者の霊を見たからには私も何かやらなければいけないと思い、運転手の応募に買って出た。
急いで運行に必要な免許を取に行き、私は無事に運転手の職に就いたのであった。
秘境温泉も毎日入れるし...(笑)
もちろん運行外の日曜の夕方にはお客はいないが、必ず兵士のためにバスを走らせる。
そして、いつものように下山時には霊は消えるはずなのだが...。
1人だけ兵士が消えずに残っている...。
「ありがとう...」
座席から声がしたと思ったらすでに姿は消えていた。
しかもその霊は自分と同じ苗字の名札を付けていた...。
実家にその名前を尋ねてみると、遠い親戚の兵士だったことが判明。
時を経て世代を超えて先祖に会うとは思ってもみなかった。
あの時、秘境温泉を訪れたのも先祖の何かに導かれて来たんだとこの時に確信した。
運転手をしているのも意味があったんだと思うと、霊に遭っても何も怖くない自分がいた。
今も戦争の跡地にはまだ兵士の無念が眠っているかもしれない。
私は運転手として兵士を送迎することで無念を晴らしているつもりだけど少なくとも先祖の役には立っていると思うと感慨深い気持ちになった。
私はこれからも運転手としてこの秘境で働いていくことを誓った。
そしてバスの運転手という立場を活用し、戦没者の無念を伝えるべく戦争遺産として砲台跡をめぐるツアーを考えた。
秘境温泉好きということもあり、砲台跡と温泉のツアーを開催して今は町おこしとして地域に貢献している。
数年後、日曜の夕方には兵士の霊が現れることはなくなったそうだ。
私が戦争遺産として伝えたことで兵士の無念を晴らす事が出来たのかもしれない...。
それでも日曜夕方に兵士のためのバスの運行は続けている。
私は、兵士の想いがある限り姿は見えなくなっても運転はこれからも続けていくつもりだ。




