「いわくつき。」 リノベーション
[第5話] リノベーション
私は近々、引っ越しを予定している。都会よりも自然の中で暮らしてみたい憧れを抱いていると、偶然、ある地域で街おこしの一環として古民家への移住者を募集している事を知る。しかも破格の値段で住めるという内容に魅力を感じた私は迷わず申し込んだ。
移住の条件はリノベーションして
人が集まるようなお洒落な雰囲気にすること。であった。
そして、補助として8割の助成金が出ることが約束されている。
1ヶ月後、当選の連絡があり、早速下見に伺う事になった。
地域の交流会長の案内で下見が始まった。
古民家というだけあって、ボロボロに近い。床の一部は抜けて、トイレもかなり古い。リノベーションの域を超えている。
しかし、そこで根を挙げる私ではない。もともとDIYが趣味なだけあって、リノベする価値はありそうだと思った。
家は二階建て。
梁をよく観ると、お札が貼り付けてある。
「これは普通、立てる時に大黒柱に貼る物なんですよ」
今までマンション暮らしだったから、知らなかった...。
しかし、他にもたくさん部屋の数だけ梁に貼ってある。
何だか怪しい雰囲気だ。
思わず、たくさん貼ってある理由を聞いてみた。
「この地域では部屋ごとに貼る風習があるから気にしなくて大丈夫ですよ」
郷に言えば郷に従えというやつか...。
周りは静かだし、車で30分もあれば、ショッピングモールに行ける環境だし。
「決めました!」
彼女はその日に移住契約を交わした。
移住開始は手続きや準備のため
1ヶ月後になる。
待ちに待った移住初日。
早速リノベーション作業に入る。地域の方々も手伝ってくれるみたいで助かる。
玄関、居間、水回りと着実にリノベーションを進める。
みんなのお陰もあって1ヶ月で全てのリノベーションが完了した。
カフェに関しては一階を店舗として造り上げた。
これで、やっと生活のスタート。
カフェのオープンについてはまだ先だ。
新生活の始まりにウキウキしながら寝床につく。
すると、寝室の壁からパキッ!と音が。
「木が膨張する時の音かな?」
「それにしても頻度が多いな」
翌朝起きると、音がした壁にシミができている。
天気は良いのに雨漏りするのはおかしい...。
次の日にまた壁を確認するとシミが広がっている。
「せっかく綺麗にリノベしたのに...。」
壁の周辺を確認するが何もシミに繋がる物が無い。
「この壁板が原因か?」
仕方なく新しい板に取り替えるとシミが出る現象はなくなった。
ただシミの出た板は、しばらく乾かしたら再利用出来ると思って
一旦外に放置することにした。
気付いたら1週間が経っていて、シミ板を見ると、何か人の形みたいにデカくなっていた。
気になった彼女は手伝ってくれた地元人に聞いてみた。
「あの板は元々この家の天井裏に
しまってあったみたいで使えそうに見えたから、引っ張り出したんですよ」
あの板に、" いわくつき " がある?
会長が言っていた札の数は嘘?
役場の地域課に聞いてみると、
「江戸時代、この家に住んでいた武士が仇討ちにあって、その場所が居間だったと古文書に記されています」と。
更に、「その返り血が板に染み込んでいるとされていて、証拠隠滅のため、天井裏に隠したみたいなんです」と、説明した。
「しかし、この家は色んな方が住んでは出て行くので、いわくつきの報告義務が発生しないわけで、私も調べるまで昔の事は知りませんでした」と、頭を下げた。
「リノベーションがなければ世に出る事はなかったかもしれません。これも何かの縁。報われなかった武士のメッセージかもしれませんので、地域のみんなで供養しましょう」と、話は良い方向に進んだように見えた。
しかし、これで終わりではない。
張り替えたはずの板にまたシミができていた。
「供養したはずなのに...」
ふと、内見時に撮影した写真を見返していると、現場となる梁の裏にお札が貼ってあった。
現状を確認すると貼ってない。
気付かないうちに外れてしまったかもしれない。
それを伝えるために武士がシミとなって現れたのかもしれない。
最初のシミ板は天井裏に戻し、
専門家にお札を貼ってもらうと、シミは二度と現れる事はなくなった。
その出来事を機に、カフェの店名は武士の名前を記した屋号にした。
売上は初日から絶好調で、県外からのお客さんで連日賑わうようになった。
「これも、きちんとお札を貼って、あるべきところに戻したお陰かもね」
武士がこの家を守ってくれているんだと確信した。
と同時に他にたくさん貼ってあったお札の存在が気になったが、それに触れるのは、やめておこくことにした。
実は仇討された分だけお札があることを会長以外は誰も知らない。