「いわくつき。」 お一人様カラオケボックス
[第50話] お一人様カラオケボックス
カラオケボックスといえば、大人数の友達と燥いだりカップルで盛り上がるのが一般的であった。
その一方で、最近の流行りなのかラーメン屋やネットカフェのように一人様専用が人気を集めている。
きっかけは、大人数だと感染症が心配だとか、人前で歌うのが恥ずかしいとか理由は様々である。
そんなお一人様ボックス(個室)でも怪現象は起きるんだね...。
大部屋での怪現象は昔からよく聞くが、お一人様は初めてかも。
誰もいない部屋から呼び出しコールが鳴るとか...。
誰もいない筈なのに曲が掛かるとか...。
隣の部屋から声がデカすぎて苦情が入るけど、覗くと誰もいないとか...。
何かそれとは少し違う個室の怪現象だったんだよね。
受付のパソコン画面では、個室を使用中に限り番号が赤く光る。
退出すると光は消えるようになっていてスタッフは清掃に向かう。
しかし、まだ人の姿が居る時がある。
確かに退出した後に部屋の鍵も返却済みなんだけど...。
しかも、いない筈の個室からドリンク注文が入ることも...。
その部屋は一番奥の角部屋。
171号室...。
いない号室...?
誰もいないから171?
そこは以前、歌手を夢見て練習をしていた女性がその個室で病に倒れた過去がある。
彼女はアナフィラキーショックで倒れ、個室ということもあり誰にも気づかれないまま助からなかった。
それ以来、171号室は閉ざされた部屋になってしまった。
そして、時を待たずして彼女の霊はすぐに現れるようになった。
最初は呼び出しのイタズラや勝手に選曲が始まるなど彼女の171号室だけ現象が起きていた。
そのうち他の個室にも現れるようになり、呼び出しのイタズラはもちろん選曲を勝手に操作するなど怪現象が多数みられた。
どうやら、このカラオケ屋に恨みがあるようで、なぜ助けてくれなかったんだと...。
それは呼び出しコールの電話口でも叫んでいた。
そんな事がありつつ、一年が経ったある日、供養も済んだこともあり171号室は解禁となった。
その第1号となるお客様は歌手希望でオーディションを控えた女性。
あの時と何か同じ匂いがする...。
心配になった私は彼女の元へ駆けつけた。
すると閉所恐怖症でパニックになっていた。
アレルギーではないがパニックには間違いない。
閉所なら歌いに来なければ良かったのに...。
(その感想は可哀想だよ...。)
彼女自身は自覚がなかったようで
私が駆け付けた事で無事に済んだ。
しかし、本当にパニックだったのか?霊現象じゃないの?
そんな噂が広がるのをよそにお客様は絶えることなく171号室も自然と利用が埋まっていく。
だだ、男性客は問題ないが女性客の時だけ171号室は何かと妙である。
退出した女性客の顔色が良くないのだ。
「何か歌の途中で勝手にハモリ機能なのか声が入ってくるんだよね」
とか、
「選曲決定が勝手に作動する」
などクレームが入ったり、なぜだか歌った後に気分が落ち込んだりと評判は決して良くない。
やはり171号室は " いわく " が残っている...。
供養は済んでいるはずじゃ...。
それでも念だけは残り続けるのが霊現象。
そんな事を考えても、忙しさのあまり部屋を使用禁止にする訳にはいかず時間だけが過ぎていく。
そろそろ閉店時間が迫った時、最後のお客さんを171号室へ案内した。
そのお客さんこそ、一年前になくなった彼女そのものだった。
部屋に入ったはいいが、一向に退出する気配が無い。
声は聞こえるから時間を忘れているんだと思い、内線でコールすると歌声が消えた。
不思議に思い、部屋に向かうと彼女の姿は消えていた。
退店するときは必ず受付を通らないと出口は無いのでおかしい。
恐らく未練を残してまた歌いに来たんだろうと、私は普通に受付を対応していた。
だが、防犯カメラには受付する私の前には誰も映っていなかった。
見えているのは私だけみたい。
その日を境に彼女のイタズラは無いものの、閉店間際に来店するのは日常の光景になりつつあった。
彼女の無念を晴らすため、私の提案で、このお店では171号室はスタッフルームと称して彼女専用の個室にすることが決定した。
声が聞こえてくるのは霊現象ではあるが、慣れてくると何も怖くない。
私はこれからも、一般のお客さんと同様に接客をし続けるのであった...。




