「いわくつき。」 レトロ喫茶
[第3話] レトロ喫茶
彼女の趣味は、レトロな雰囲気の喫茶店で午後のカフェタイムを楽しむこと。
週末になると、いつも仲の良い友達と2人で食べに行く。
コーヒーとシナモンの香りに包まれた店内。
何処に行ってもBGMは必ずジャズが流れているところが心をくすぐる。
ある日、いつも通っているレトロな店に入った。
いつもは2人掛けに座るが、今日はなぜか一際味のあるソファが目に入った。それはかなり使い込まれたような3人掛けのソファだ。
「今日はここにしよう」と、引き込まれるように腰を降ろすが、なぜか真ん中1つ空けてた状態で座った。
いらっしゃいませと。迎えられたが、お冷が3つ運ばれてきた。
2人しかいないのに。
今日はたくさん遊んだ後だから体が疲れたのかな...。
「疲れたんじゃなくて憑かれてるんじゃない?」
「お店の人のイタズラなんじゃない?」
なんて冗談を言っていると、
「そういえば、気付かなかったけど、このソファに座ったのは初めてなんじゃない」
「言われてみれば初めてだね」
店で一番古いとされる使い込まれたソファ。創業100年は経つお店なだけに味わいの良さを感じた。
懐かしのあまり、クリームソーダを注文した。
すると店員が、
「今日は初めて3人で来られたんですね」
と、いう言葉が。
本当か確かめるために、防犯ミラーに映る自分達を覗いてみた。
真ん中に女の子が居る。
しかし、目の前は居ない。
鏡越しだと座っている姿が。
店員には霊が見えているのか?
「実はこのソファは戦争で生き残った大事なソファなの。ある資産家のお嬢様の部屋にあつたらしくて、彼女は残念ながら巻き込まれてしまったけど、戦争の焼け跡にも関わらず、傷一つ無かったの。だから捨てるわけにもいかず、子孫の方が大切に保管していたらしいの」
「でも大きいから置き場所に困っていたみたいで最終的に私の先祖が譲り受けたの」
「そこに姿が見えている限り、憑かれるかもしれないわよ」
と、軽い脅しが入る。
そんなの店に置くなよ!と迷惑に思ったが、霊感がある私が来たから現れたのかなと思った。
でもなぜか怖くなかった。
しばらくカフェを楽しんだ3人は店を後にした。
その夜、寝ていると何だか体が熱い。火が迫ってくる夢を見ているようで自分が逃げ惑う姿が見える。
まるで戦火の中にいるようだ。
なんだか戦争に巻き込まれたお嬢様の見ていた景色を見させられているかのように感じた。
これは何かのメッセージ?
更に体が熱く感じた所で目が覚める。
目が覚めた瞬間、視線の先に
お嬢様?の姿が現れた。
何か囁いている。
「私のお気に入り返して...」
お気に入りってソファしかないはず。
生前、お嬢様はソファを気に召していたんだよな。長年の歳月の中で色んな人が座るのが気に入らなかったんじゃないかな?
そう感じた彼女はカフェに行き、店員にお嬢様の霊が出た事を話した。
「誰かに座られるのがお気に召さないなら、どこかに保管した方が良いんじゃないか?」と、提案をしてみる。
「これが戦争で生き残ったソファなら国の戦争遺産として展示保管してもらったらいいかもね」
流石は街の最長老。国に掛け合うとすぐに展示保管が決まった。
数日後、展示を見に行くと、他の人には見えないが、私にはお嬢様がお辞儀をしてくれている姿を目にすることができた。
もしあの時、私がソファに座らなかったら、お嬢様の想いに気付くことは無かっただろう。
あのまま使い込まれていたら一体どんな結末になっていたか想像しただけで身震いがした。