「いわくつき。」 空き家
[第30話] 空き家
私の仕事は女優。あるドラマの主演が決まり、撮影は地方で行われることになった。
場所が遠くて自宅から通える距離ではないため、撮影期間の3ヶ月はその地域に滞在する形となった...。
宿泊先はビジネスホテルが用意される予定だったんだけど、経費削減という理由で空き家を利用した宿に泊まることになった...。
急遽変更になった事でなんとなく気分が乗らない...。
気分が乗らない理由は、空き家を利用している時点で妙な違和感や不安感を感じていたからかもしれない...。
実際に行ってみると、まさに空き家と言うべき雰囲気で空気が少し重い...。
外観は木製で階段は鉄階段で、サビついている...。
壁は薄くて音漏れは要注意な造りである。
入口には○○荘と書かれていて、昔ながらのアパートだが、広さに関しては2LDKと意外と快適な間取りになっている...。
ちなみに空き家という事もあり、心霊とか " いわくつき " なんじゃないかと少し疑っていた。
でも、女子マネージャーと2人で泊まるととになっているので今の所は安心している。
撮影が始まって1週間...。
現場と宿を行ったり来たりする日々...。
ここの宿泊者は私達ドラマ関係者だけ...。
しかし...。
ある夜、隣から声が聞こえてきて、一般の方も住んでるんだなぁとその時に気付いた。
撮影に追われて全然気が付かなかったなぁ...。
あとは人の声の他に犬が吠えているという状況であった...。
夜ベランダに出ると、隣からは部屋の明かりが漏れてくる...。
でも何だか人の気配を感じないのは気のせいか?
ただ犬の鳴声が毎晩同じ時間に聞こえてくるのが少し気になるけど...。
でも、毎日ベランダには明かりが漏れているが見えるし...。
私の思い過ごしかと考えていると、今日はやけに静まり返っていて違和感を覚えた。
私が感じた違和感は霊的な何かによるものに違いない...。
空気感が、急に重くなった気がした。
そんなある日、その違和感が的中する...。
週末の朝、洗濯物を干していると風で隣のベランダに服が飛んでいってしまった。
確認で隣のベランダを覗き込むと...?
私の洗濯物が落ちている...。
ふと、窓に目をやると...?
窓にはお札が貼られていた!!
部屋の中は真っ暗で、人の気配は全く感じられない...。
風で落ちた洗濯物はマジックハンドを使って無事に回収できたんだけど、見る限り人が住んでいない雰囲気に寒気がした...。
管理人に問い合わせると、隣は先月から空き部屋になっているそうで...。
じぁ、あのベランダから見えた明かりは何だったんだ?
犬の鳴き声も聞こえたし...。
しかも管理人の話によると実はこのアパートはペット禁止らしいのだ........。
じゃあ、鳴き声は幻聴だったのか?
明かりも幻覚?
しかも時期はお盆...。
その数日後、隣で見かけたお札が私のベランダに落ちていた...。
きっと風で剥がれてしまったんだな?と思った。
しかし、下手に触って何かあっても怖いし関わらないように放っておいた。
その夜、犬の鳴き声がまた同じ時間に聞こえてきた...。
しかも、自分の部屋から聞こえるような...。
隣では一体何が起きているのか気になって調べようとしたけど夜も更けてきたし明日の撮影もあることだしやめておくか...。
私はマネージャーにお札をどうしたらいいか聞いてみたが、関わらない方がいいと言われて、そのまま就寝することにした。
次の日、ドラマの撮影が始まると、私のシーンの時だけ機材トラブルが起きたり、変な男が背後に映りんだりと、妙な現象に見舞わた...。
きっとこれは、あのお札のせいに違いない...。
きちんと隣に戻さないと、ダメなんじゃないかという事かも?
とりあえず今日は撮影が早く終わったので宿に帰る...。
お札を元の場所に貼り直すため、大家さんと一緒にあの部屋に入る...。
中は埃だらけで、暮らしの痕跡が残されていて何だか急に人が消えたみたいな雰囲気を醸し出していた...。
そして、お札を元の場所に貼り付けた。
これで、霊現象は起きないはず!!
しっかり貼ったんだから...。
あと気になるのは、あの犬の鳴き声...。
飼い主を呼ぶ鳴き声だったのかな?
真相は分からないが、今の私は霊的な何かを体験させられているとしか思えない...。
そもそも、なぜスタッフは " いわくつき " のアパートに宿泊させたのか?
経費削減のためだけの理由みたいだが、 " いわくつき " とは知らなかったみたいだった。
後に分かったことだが、実は隣の部屋は10年もの間、空き家だそうだ...。
犬と一緒に暮らしていたが、家主は病気を苦に自殺...。
お盆の時期になるとなぜか誰も居ないはずの部屋から犬の鳴き声が聞こえてくるそうだ...。
しかも聴こえてくる時間が夕方過ぎという事は、仕事から帰宅したであろうタイミングだと思った。
永遠に帰って来ないご主人の帰りを待つように...。
もしかしたら、その男はお盆の時だけ部屋に姿を現していたのかもしれない...。
この体験がきっかけとなり、あのアパートに纏わるいわくつきのドラマが作られることになった。
しかも主演での抜擢が決まり、ここに来たのも何かの縁。運命だったんだ...。
しかし、私にはまだ見えていない何かに導かれているような気がした...。
数年後、そのドラマの撮影舞台がこのアパートになろうとは、この時の私には知る由もなかった...。