「いわくつき。」 旧車に付けたラジオ
[第16話] 旧車に付けたラジオ
私の趣味は旧車。
ハコスカ、ケンメリ、ヨタハチ、エスハチ、スズライト、てんとう虫........。
1960年代の頃から発売された車のことを旧車と呼ぶ。
私にとっては個性的なデザインばかりでオシャレに感じている。
それ以前の1940年代の車はヒストリックカーと呼んでいる。
フェレディ、ダットサン、イセッタなど...。
もっとそれ以前の年代になるとヴィンテージカーと呼ばれている車になるそうだ。
特に戦後の高度成長期に発売された車は、プレミアが付くほど人気が高い...。
特に旧車は走る目的以外の物は必要最低限の物しか装備がないという所が魅力なのだ!!
最近、そんな車の虜になっている私はついに旧車を買う決意をした。
週末、旧車専門のディーラーに顔を出して必要な装備があるかを確認してきた。
私が買う予定の車は販売当時、ラジオはオプションだから車によっては最初から付いてない場合もあるようなのだ...。
だから私が買う旧車は後付けする必要がある...。
「現代において後付けラジオなんて車屋さんには売ってないし、どこで買えばいいのやら...?」
他には三角窓が付いていて、ワイパーは上部に付いているが、なんと手動........!!
流石にワイパーは自動にしてもらいたくて、後付けの改造をお願いすることにした。
翌週、確認作業を終えた私は無事に購入手続きを完了。
自宅での受け取りとなった。
今日から旧車は私の物だ!と喜んだのも束の間、ラジオの他にオーディオを付ける事を忘れていた...。
ドライブする時に音楽がないと寂しいという事で、カセットオーディオとラジオの2つを別々に買う事にした。
カセットオーディオに関してはガレージショップで購入済...。
あとはラジオなんだけど、流石にガレージには置いてないという事で、アウトレット店に行って物色することにした...。
そういえば、昔のタイプは四角いボタンが横並びになっていて、押す度に赤い棒が動いて、FMとAMの選局に切り替える時、ボフッ!と音が鳴るんだっけな...。
なんだかアナログ感があっていいんだよね...。
早速アウトレット店に行くと、目的の古い時代の車専用ラジオが置いてあった...。
嬉しさのあまり即決で購入した。
帰宅すると早速、自分で配線を施してオーディオとラジオを取り付けた...。
動作確認すると、無事に音楽が聴こえてきて........大喜び!!
これで週末のドライブが楽しみになってきた!!
いよいよ初ドライブの日を迎えた彼女は、海が綺麗に見渡せる標高の高い山に出掛けることにした...。
標高が高い分、ラジオの感度も良いんだろうな...。
美しい景色とラジオから流れてくる青春ポップス...。
何だか青春しているみたいで心が癒されていく気分...。
そんな時間を過ごしていると、いつの間にか夕飯時になっていた。
つい美しい景色に見惚れて別の意味でお腹いっぱいになっていたから昼飯を食べるのを忘れていた。
そりゃそうだな...!
と、納得したら急に...腹が...減った...。
急いで山頂にあるレストランで食事をすることにした...。
昼飯を食べていない分を取り戻すかのように、カレー、ハンバーグ、唐揚げ、シーザーサラダ、エスプレッソ...。
たくさん食べてしまい、お腹いっぱい...。
しばらく動けそうにないから、車の中で一旦横になることにした。
そして気付いたら、つい深く寝込んでしまっていた...。
起きた時には夜中の2時...!
「やばい!早く帰らなきゃ!」
景色も楽しんだし、急いで下山ルートを目指し出発。
しばらく走っていると、何だか道が狭くてカーブもかなり急になってきた...。
しっかり荷重移動しないと向きが変えられない...。
ブレーキと重いハンドルが忙しい...。
(ハンドルが重いのは、パワステが無いからなの...。)
そんな時、あるカーブに差し掛かかると、子供が体育座りをしている姿が...!
「こんな山奥に独りポツンと佇んでいるって、あきらかにおかしい...」
「よくある、カーブには必ず幽霊が居るっていう話...。ホンマか...?」
で、その脇に錆びれた車が放置されているのが見えた...。
「あれは何だろ?」
気になった私は引き返してさっきの場所まで戻った...。
しかし、あの子供の姿は既に無かった...。
「ただの錯覚だったのかな?」
でも放置された車は確かに目の前に存在している...。
その場所は、車が一台だけ停められるスペースで、その先には海の景色が広がるが、下を見ると断崖絶壁だった...。
車の中を覗くと、当時オプションで付けられるラジオを搭載していたであろう車種だった...。
どうやら、ラジオは配線が垂れ下がり、本体は取り外したかのような痕跡が見られた...。
その車種は限られていているため、私がアウトレット店で買った物と同じ機種かもしれない可能性が頭をよぎった...。
「まぁ、さっきのは錯覚だとしてもこの場所はなんか恐いな...」
と、少しだけ妙な違和感を感じた...。
そんな妙な感じを抱きつつ、帰るため車を走らせると...。
ラジオから、「パパ、マダ?パパ、まだ〜?パパ、まだ〜?」と聞こえてくる...。
どっかのラジオ局のCMかなんかだろ?と思ったが、よく見るとどこにも選局を合わせていない...。
しかも、時間は夜中の3時...。
その時間は放送休止の時間帯のはず...。
これはやはり霊現象に違いないと、ラジオ本体が " いわく " なんじゃないのか疑い始めた...。
しばらくし走り続け、朝陽が昇る頃には無事に帰宅できた。
私は仮眠もそこそこに、急いでラジオを購入したアウトレット店に行き、あの出来事を伝えた。
店主は私が体験した出来事についてなぜか驚かずに頷くだけだった...。
とりあえず、ラジオの製造番号を元に本来の持主を調べてもらうことにした。
持主が判明するまでは、まだ私が使い続ける事になるが、ラジオ本体に" いわく " の確証が無いため、何とも言えない...。
しかし、再び週末のドライブに出掛けた夜、あの日を再現するかのようにまた帰りが遅くなってしまった...。
そう、同じように日を跨いでしまったのだ...。
気付いたら夜中の3時...。
再び、あの声をラジオから聞くことになろうとは........。
あの時と同じ時間だし、同じフレーズだなぁ...。
子供が座っていた" あの場所 " とは全然離れているのに...。
次の日、自宅で過ごす私はラジオを夜中の3時に合わせて聴いてみることにした...。
チャンネルを合わせる手が少し震えてしまったが、今日は何も聞こえてこない...。
だって放送休止時間帯だもの...。
これはもしかして、あの声の出現は週末の日曜だけかもしれない!と推測した...。
私は試しに毎週、平日と日曜を聴き比べすることにした...。
思った通り、日曜だけ声が聴こえてくる現象が起きるようだ!
何だか毎週聞いているうちに、現象に慣れてしまったのか恐怖より興味の方が上回っている自分がいた...。
今では早く声を聴きたくなっていることに気付いた...。
もしかしたら、あの時、幽霊を連れてきちゃったかな?
引き返して車をジロジロ見た時にか...?
そんな現象に取り憑かれるように過ごすこと1ヶ月...。
ついにお店から調査完了の連絡が入った!
結果を聞きに店に行くと驚くべき事実が判明した...!
ラジオは、あの時あの山道で発見した車に付いていた機種だったのだ........!!
調べによると...
持主である父は生活苦だったんだが、ある週末(日曜)にドライブと称して娘を連れてあの場所に立ち寄ったらしい。
父は娘に「 " かくれんぼ " をして遊ぼう!」と言って姿を消した...。
だが、それは断崖絶壁へと身を投げたため姿が無いのだ。
娘は、父の「もう〜いいよ〜!」の返事が返ってこないから、素直にずっと父を待っていたらしい。
待てど暮らせど、父は現れない...。
そのうち娘は倒れ込んでしまう。
当時、父娘の2人は生活苦で栄養不足...。
しかも真冬で外は極寒...。
そんな環境の中、待ち続けた娘は、その場で息絶えてしまったのだ...。
過去の新聞記事には親子の写真があり、娘の顔も掲載されていた。
だから、あの時の体育座りの子供と、ラジオで聴こえてきた「パパ、まだ〜?」の現象が頭の中で繋がった。
そして、なぜ車が未だに放置されているのかというと、片付けようと動かそうとした業者がことごとくケガに見舞われ何人か犠牲になっているらしく、それが噂になり何も出来ずそのまま放置に至っているそうだ...。
だが、使えそうな部品は勿体無いからとタコメーターやラジオ、ハンドルは闇の業者が取り外して持ち帰ったみたいなんだ。
(その業者とは店主の知り合いの同業者だ...。)
その一部であるラジオがなぜが店主が経営するアウトレット店に流れてきたという話だ。
ということは...?
「ラジオを載せた私が持主本来の場所に来たことによって波長が合ってしまって、娘が父を探す声が入ってきたという事になるのか!」
「このラジオはずっと持っている訳にはいかないかもしれないな...」
「あの声を聴いた以上、自分の身が危ない...」
「よし、あの場所にラジオを返しに行こう!」
そうすれば、霊現象も起きなくなると踏んだのだ...。
そう決めた彼女は、店主を引き連れてあの場所に再び訪れた。
無事に返し終わると、店主が、
「私がいけないかもしれません」
「" いわくつき " だと知ってか知らずか部品取りの為とはいえ、最終的には持ち去ったような物だから、私が悪いかもしれません...」
私は店主を宥めるように...
「いや、終わったことはもういいですよ」
「返し終わったんだし、これであの子も報われるでしょう」
「きっとラジオが思い出だったかもしれませんね」
と、言葉を掛けた。
ラジオは元の鞘に戻った事だし、2人は手を合わせてその場を後にした。
その後は何事もなかったよう月日が流れていった...。
ラジオを失った彼女は、アウトレットをやめて、最新機種のラジオを取り付ける事にした...。
レトロ感を味わえないのは残念だが、もうあんな思いをするよりはマシだと最新機種に切り替えた。
数ヶ月後、彼女はまた週末にドライブに出掛けた。
計画には無かったが、たまたま " あの場所 " を通るハメになってしまった...。
あのカーブに差し掛かかると、あの娘が立っている...。
また何か起こるのかと思ったが、こちらに両手を振ってくれいる。
おそらく、ラジオを返したお礼に手を振ったんだと自分も手を振り返した。
しかし、後ろを振り返ると娘の姿は既に無かった...。
「あ〜、良かった〜」
思った通り娘さんの想いは報われたんだ...。
これで安心して帰れる...。
そう思った瞬間、「ねぇ、まだ〜?」と幼子の声が耳元で囁いた...。
そう、女の子の霊は消えたのではく彼女の後部座席に現れたのだ...。
その後、彼女が無事に帰れたかは本人しか知らない...。