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第8話 過去

有坂「失礼します。領収書の確認お願いします」

葉山「お!有坂ちゃん早いねぇ!」

有坂「ありがとうございます」

葉山「入社してもう8ヶ月かぁ、大分慣れた?」

有坂「お陰様で。皆さん良い人で良かったです」

葉山「うんうん!………これで大丈夫だ。」





第8話 過去



丸ノ内「おっはよう~!」

有坂「うふ(笑)……おはようございます。

丸ノ内さん、今日は元気ですね」

丸ノ内「そりゃそうだよ~。美來さんと飲みに行

くの久しぶりだからさぁ、楽しみ!」

有坂「木下さんは来れそうですか?」

丸ノ内「木下君はいつも暇だから大丈夫(笑)」

有坂「うふふ(笑) 木下さん怒りそう」

以前、3人で飲みに行こうと約束していたが、仕事が忙しくなりなかなかタイミングが掴めないまま2ヶ月あまりが経過していた。

丸ノ内「今日は何が何でも定時で終わるぞぉ!」

有坂「はい(笑)」


秋が深まっていく10月。涼しい風が朝晩の空気を冷やし始める頃、有坂もすっかり仕事が板につき、丸ノ内のパートナーとして熟すくらいまでになった。

丸ノ内「美來さん、この図面の清書お願い!」

有坂「はい!」

図面の清書や伝票の発行、請求書や領収書の作成といった作業を事務員の二人で熟している。

狭い事務所内ではあるが日常の業務は多く、まるで戦場の様だ。


一方工場内でも忙しい作業に追われていた。

矢井田「木下、あの部品の加工はどれくらいで終

わる?」

木下「今日中に終わらせて、明日の朝に渡せます

よぉ~」

矢井田「サンキュー!よろしく!」

矢井田と木下コンビの息ピッタリの工程は、納期の遅れがなく社内でも評判が良い。

このコンビの加工精度も高く、客先からの信頼性も素晴らしいものがあった。

矢井田「ちょっとバタついてるから、余裕が出た

ら前倒しの仕事するぞ」

木下「了解。流石ッスね矢井田さん」

矢井田「お前が居てくれてるから出来るんだよ。

こちらこそありがとな!」



こうして忙しい日常は終わり今日は週末。有坂と丸ノ内、そして木下の三人で飲みに行く日でもあった。

丸ノ内「終わったぁ~!」

有坂「お疲れ様でしたぁ!」

丸ノ内「アタシと木下君は先にお店行くね。予約

の名前がアタシになってるから」

有坂「分かりました」

丸ノ内「じゃ、また後でねぇ!」


帰り支度を済ませて会社から出ようとした有坂は、門の近くで矢井田に出会った。

矢井田「お、有坂ちゃん。お疲れさん!」

有坂「矢井田さん、お疲れ様です」

矢井田「気分良さそうだな(笑) これから飲みにで

も行くのか?」

有坂「あら(笑) よく分かりましたね!」

矢井田「そかそか。今日は週末だし、ゆっくり楽

しんで来なぁ。うんうん。」

有坂「はい、ありがとうございます。矢井田さん

も良かったら一緒にどうです?」

矢井田「いや、遠慮しとくわ。ありがとな」

有坂「そうですか……ではまたの機会に」

少し残念そうな有坂だった。

矢井田「そだな、ヘヘヘ。すまねぇ」



駅前にある居酒屋で丸ノ内達と合流する。

丸ノ内「美來さぁん!こっちこっち!」

有坂は丸ノ内と木下が座っている席に行き、席に付いた。

有坂「遅くなってすみません」

木下「有坂さんお疲れ様!…ビールで良いよね」

有坂「はい! ありがとうございます」

丸ノ内「三人で飲みに来るの久しぶりだよね!

テンション上がるわぁ~!」

木下「丸ノ内さんはこういう場所が本当に好きだ

よね(笑)」

丸ノ内「あったり前じゃん!こうやって飲みに来

る為に仕事してる様なもんよ!」

有坂「うふふ(笑) 丸ノ内さんらしいですね。

そういえば会社を出る時、矢井田さんに会いま

した。一応誘ったんですけど断られました」

丸ノ内「そうなんだぁ」

有坂「矢井田さん、なんでお酒飲まないんだろ」

木下&丸ノ内「……………」


会社メンバーの飲み会の会話は、仕事の事か会社にいる人達の話しで埋め尽くされる事が多い。

しかし今日は珍しく、酒に酔った丸ノ内から思いもよらない言葉が発せられた。

丸ノ内「でもぉ、本当にそっくりよねぇ……」

木下「……!」

有坂「…? 私……ですか?」

丸ノ内「そう!……似てるぅ~」

木下「丸ノ内さん!飲み過ぎだよ!」

有坂「……私が誰に似てるんですか?」

言わない様にしてた丸ノ内だったが、自分で発した言葉で一瞬にして酔いが冷めてしまった。

丸ノ内「あ………」

木下「丸ノ内さん酔い過ぎたね」

有坂「…………?」

少し間を置いて、丸ノ内は徐に語り始めた。

丸ノ内「矢井田さんの奥さんにそっくりなんだ

よ。美來さん」

有坂「え…矢井田さん奥さんいるんですか?」

木下「バツイチで、今は独身だよ……」

有坂「別れたんですか……」

丸ノ内「……亡くなってるの………前の奥さん。

美來さんそっくりでね、私の仕事の師匠的な人

だったんだよ……」

有坂「………!」

有坂は矢井田の今までの行動を思い出していた。そしてある事に気が付いた。

有坂「もしかしたら、矢井田さんがお酒を飲まな

くなった理由に関係してるんですか?」

丸ノ内「………」

木下「ごめん。それは僕達にも分からないんだ」

有坂「………」


飲み会は終わり、ゆっくりと帰路についた有坂はぼんやりとしていた。

矢井田には自分とよく似た妻がいた事。そしてその妻は既に亡くなってる。更に以前は同じ会社に勤め、丸ノ内を育てた人でもあったのだ。

大阪への出張の事を思い出した。


有坂『写真、一緒に撮りましょう!』

矢井田『……え?!』


有坂は自分の部屋に着いた時、矢井田と撮った通天閣でのツーショットを見返した。その写真は、矢井田にとっては辛かったのかもしれないと思った有坂は、頬を伝う一筋の涙を流した。



私は何て事をしたんだろ……

知らなかったとはいえ、私と写真を撮るという事は、矢井田さんにとって辛い過去を思い出させてしまう事だったなんて……





────第9話に続く────





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