第7話 ぬいぐるみ
矢井田「社長、おざッス」
葉山「おぉ、おはよう!矢井田。
いやぁ、先週は急にすまなかったなぁ」
矢井田「大丈夫ッスよ。ただ、次は飛行機じゃな
くて新幹線にして下さい……」
葉山「はっはっはっ!すまんすまん(笑)」
第7話 ぬいぐるみ
出張から明けた月曜日。いつも通りに出勤し、更衣室に入った有坂だったが……
有坂「おはようございます」
丸ノ内「美來さん!おはよう!」
丸ノ内は有坂に食いつく様に近付いてきた。
丸ノ内「出張お疲れ様~♡」
有坂「あ、ありがとうございます……」
(な、何?! この雰囲気………)
丸ノ内「矢井田さんとの出張、楽しかった?」
有坂「お、お仕事でしたから……」
丸ノ内「ふぅ~ん」
丸ノ内は満面の笑みだ。
確かに土日は休みだった為、半分以上は遊びに行った感じになってしまったが、そんな事を言う訳にはいかない有坂は困った。
有坂「先方様で完成した機械を視察させてもらっ
たんですよ!最新型って感じでびっくりでし
た!はい!じゃあ!お先に事務所に行ってます
ね!」
有坂は早口気味に答え更衣室を後にした。丸ノ内は有坂の後ろ姿を目で追いながら何やら嬉しそうだ。
有坂が事務所に向かう通路を歩いていると、小さな熊のぬいぐるみのキーホルダーが付いた鍵を拾った。
有坂「……?」
(誰のだろう……)
事務所で保管する為、拾って持って行った。
矢井田「ん~………」
(オレはいったい何処で落としたんだ?)
矢井田が何か探し物をしていた。そこに丸ノ内が通りかかった。
丸ノ内「あれ?……矢井田さんおはようございま
すぅ」
矢井田「おう!おはようさん………なぁ、オレの
鍵落ちてるの見てないか?」
丸ノ内「え?見てないよ?」
矢井田「そかぁ~……呼び止めてすまない」
矢井田は不安そうに立ち去って行った。
一方事務所では、有坂が朝の作業の準備に勤しんでいた。いつも通りパソコンやプリンター、その他の機器の電源を入れていく。そして、先程拾った落し物の鍵を預かり棚に置いた。
有坂「うん!これでよしっと!」
葉山「おはよう~!!」
毎朝の恒例、葉山の大きな声が事務所に響き渡る。
有坂「おはようございます社長」
葉山「有坂ちゃんおはよう!出張お疲れさん!」
有坂「いえ……色々ありがとうございました」
葉山「うむ!楽しんだならそれで良きだ!」
そう言い放って、そそくさと社長室に入って行った。
そのタイミングで丸ノ内が事務所にやって来た。
丸ノ内「ねね!美來さん、熊のキーホルダーが付
いた鍵拾ってない?」
有坂「ありますよ。丸ノ内さんのですか?」
丸ノ内「ううん。矢井田さんのだよ」
有坂「え?!……意外ですね。こんなかわいい熊の
ぬいぐるみが付いたキーホルダーを使ってるな
んて……」
丸ノ内「あはは! 本人は仏頂面だけどね(笑)」
有坂「無言の矢井田さん、無愛想ですよね(笑)」
丸ノ内「ね(笑) 後で矢井田さんに届けてあげて」
有坂「分かりました」
始業時間になり、矢井田は落し物を気にしながら仕事をしていた。
矢井田「なぁ木下、オレの鍵見てないか?」
木下「ああ、あのかわいい熊さんの鍵ですよね。
見てないですねぇ」
矢井田「やべぇ、何処行ったんだ?」
木下「あの熊のぬいぐるみは、矢井田さんにとっ
て特別に大事な物ですよね…僕も探しておきま
すよ!」
矢井田「おぅ!悪ぃな……へへへ」
矢井田は終始、不安そうな顔をしていた。
モヤモヤした気持ちのまま仕事を終えた矢井田は、事務所に向かった。
矢井田「うぃっス!誰かいる?」
有坂「あ!矢井田さん!」
矢井田「おう!有坂ちゃん、今日は遅いな…」
有坂「はい、矢井田さんに渡さないといけない物
を預かってましたので……」
有坂は預かり棚に保管しておいた鍵を矢井田に渡した。
矢井田「……!こ、これ! 何処にあった?」
有坂「事務所の前に落ちてました。それにしても
かわいい熊さんですね(笑)」
矢井田「貰ったんだよ……へへへ………
あ、ありがとな!助かったよ」
有坂「いえいえ。では、私はこれで……」
矢井田は少し驚いて有坂に話す。
矢井田「もしかして有坂ちゃん、オレにそれを渡
す為に待っててくれたのか?」
矢井田は、有坂が事務所に一人で待っていてくれた事に驚いた。そして有坂は少し微笑んで答えた。
有坂「はい。鍵が付いてたので、多分困ってるか
なって思って……」
矢井田「………!」
矢井田は有坂の顔を見つめていた。呆然と顔を見つめられていた有坂は少し焦りながら矢井田の視線を遮る。
有坂「あわわ!……どうかしました?」
はっと我に帰る矢井田。
矢井田「あ!……いや…大丈夫!お疲れさん」
矢井田は事務所から出た。
有坂は帰宅する電車に乗っていた。
(あの熊さん、誰に貰ったんだろ………凄く安心
した様な感じだったなぁ、矢井田さん。
凄く大事な物っぽい感じだったなぁ……
………でも、見つめられた時は焦ったよ〜!
ドキドキしちゃうじゃん!)
次の日、有坂はいつも通り出勤し事務所に向かった。すると丸ノ内が先に出社していた。
丸ノ内「おはよう!美來さん」
有坂「おはようございます」
丸ノ内「鍵、渡せた?」
有坂「はい」
丸ノ内「………? どうかした? 」
有坂「あのキーホルダー………あ、いえ……
何でもないです。すみません………」
丸ノ内「………なるほど~………
今度さ、また木下君誘って三人で飲みに行こう
よ!」
有坂「良いですね!行きましょう!」
丸ノ内「うん! じゃあ、今日も一日、頑張って
いきましょう!」
だめだ……
矢井田さんの事になると凄く気になる………
私の知らない矢井田さんが無性に知りたくなってしまってる………
────第8話に続く────