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第4話 帰り道

矢井田「ふぁ~~……」

(月曜日の朝は眠ぃなぁ……)

矢井田「…………」

(しかし、なんでオレは先週末にあんな事した

んだ?……別に新米が来るのなんていつもの

事だろ……やっぱり似てるからか?

………フッ、年甲斐もない。)


……タッタッタッタッ !


有坂「矢井田さん!おはようございます!

のんびり歩いてたら遅刻しちゃいますよ!」

矢井田「え?……まだ7時50分だぜ?」

有坂「何言ってるんですか!私の時計は8時20分

を指してますよ!」

矢井田「……?……ちょっと見せてみ?

……ぶっ!その腕時計止まってるじゃん(笑)」

有坂「え?!」

矢井田「ははは……慌てんぼうさんだなぁ(笑)」

有坂「…………///」





第4話 帰り道



丸ノ内「おっはよう!」

有坂「おはようございま~す……」

丸ノ内「……? どうしたの?」

有坂「朝から無駄に走って疲れました」

更衣室での会話。会社に着く前に矢井田とのやり取りを丸ノ内に説明する有坂だったが……

丸ノ内「あははは!美來さん天然?(笑)」

有坂「だって腕時計が止まってるなんて思わな

かったから………もう、笑わないで下さい」

丸ノ内「美人でかわいいとかズルいぞ♡」

頬をツンツンされて複雑そうな有坂だった。


有坂と丸ノ内の二人は事務所に着いて、仕事の準備の為にパソコンの電源を入れる。そしてプリンターの電源も入れる。

丸ノ内「準備完了!っと……」

有坂「私、ポットのお湯を入れ替えて来ますね」

丸ノ内「は~い、お願いしま~す」

有坂が事務所を出ると直ぐ、矢井田と出会した。丁度、矢井田もシュレッダーをしに事務所に来たところだった。

矢井田「よぉ!」

有坂「矢井田さん、さっきはすみません…」

矢井田「気にしなくて大丈夫だよ。うんうん。」

有坂「ありがとうございます。」

矢井田「腕時計の電池交換しないとな。」

有坂「そうですね。でもこの辺りの時計屋、知ら

なくて……」

矢井田「だったら、帰りに連れてくぞ?」

有坂「……え?! 良いんですか?」

矢井田「おう!じゃあ帰りにな」

矢井田は事務所に入り、処理済みの書類をシュレッダーにかけていたが、丸ノ内がニヤニヤしながらやってくる。

矢井田「……なんだよ………」

丸ノ内「……ふ~ん……」

矢井田「……だからなんだよ……」

丸ノ内はニヤニヤしながら矢井田の顔をじぃーっと見て……

丸ノ内「別に~~………」

そう言って自分の持ち場に戻った。

矢井田「……? なんだよ………」



工場内に機械の音が鳴る。金属が削れる音がけたたましく響いていた。

それは一際大きく複雑な構造をした製品で、以前有坂がややこしいと言っていた図面の現物が加工されていた。加工者はもちろん矢井田である。

矢井田に仕事を仕込んだ師匠は定年を迎えて退職した為、この大きく複雑な製品の加工は矢井田を除いて他に出来る人がいなかった。

木下「凄い……僕も頑張らないと!」

仕事の合間に矢井田の加工する姿を見ていた。時折激しく散る火花は、ディスクグラインダーで側面を加工する際に出ていた。

そんな最中、有坂が図面を持って木下のところにやって来た。

有坂「木下さん!…新しい注文です!」

木下「はいは~い!」

有坂は木下に図面を渡し、時折出る火花の方を見た。すると大きな製品を加工する矢井田の姿を見つけた。

機械加工、ディスクグラインダーでの処理、ヤスリ掛け。大きな製品を1人で加工している矢井田は真剣な表情だった。

有坂「凄いですね………矢井田さん…」

木下「あの製品は、ウチの会社の中でも一番売り

値が良い製品なんだよ。加工が難しい上に、

場所によっては公差が厳しいんだよね。

手先の器用さと加工手順が頭に入ってないと出

来ないよ。」

有坂はしばらく矢井田の仕事姿を見ていた。火花が散る向こうに見える矢井田の真剣な顔付きは、職人そのものだった。

有坂「………」

(……なんか……かっこいい……)



この日の業務も終わり、有坂は帰り支度を済ませて門へと向かった。

少し待っていると矢井田が出てきた。軽く有坂に駆け寄る。

矢井田「お疲れさん!……悪ぃ!遅くなった」

有坂「お疲れ様です! 私も今来たので…」

矢井田「そか、じゃあとりあえず時計屋だな」

有坂「はい」


二人は駅前へと向かった。仕事帰りの人達で少し混み合っていたが、人混みをすり抜ける様に駅の反対側に向かっていく。

すると趣のある雰囲気が漂う商店街に辿り着いた。

有坂「こんな場所があったんですね!」

矢井田「おう……あんまり来ない場所だけどな」

そんな少し古びた商店街の一角に、いかにも古い時計屋があった。矢井田はその店の扉を開ける。

矢井田「こんばんは!」

店主「おや!悟くんじゃないか!…久しぶり!」

矢井田「オヤジさんも元気してたかい?」

店主「何年ぶりかねぇ…… ………!」

矢井田「オヤジさん、彼女の時計の電池交換頼め

るかい?」

店主「……う、うん 良いぞぃ……」

矢井田は店主の対応に気付いたのか、耳打ちした。

矢井田『オヤジさん、そっくりだけど別人だ。

頼むから普通に対応してくれ』

店主『わかった。しかしよく似た娘さんだな』

有坂「……?」

店主は有坂に対応する。

店主「お嬢さん、どの時計かな?」

有坂は鞄にしまっておいた腕時計を渡した。

有坂「これなんですけど………」

店主「…ほぉ……ふむ……30分以上はかかるか

ら、外でブラブラしてくると良い」

有坂「分かりました」


腕時計を預け、二人は一旦店を出た。

古い商店街だったが、小さな店が建ち並んでいて活気があり、会社帰りの人達の出入りもあって賑わっていた。

矢井田「ここはオレが昔から住んでる場所なんだ

よ。だから顔見知りの人も結構いるんだよ」

有坂「あ! だからさっき『悟くん』だったんで

すね(笑)」

矢井田「へへへ……恥ずかしいんだよ(笑)」

有坂「……でも、地元って良いですね」

矢井田「ここの人達は温けぇよ。ありがたい。

そだ……時間あるし、飯食うか?」

有坂「良いですね!」

矢井田「何食いたい?寿司とか定食とか……」

有坂「あ!ラーメン食べたいです」

有坂は一件の中華料理屋を見つけた。

矢井田「了解、行こうか!」


二人は中華料理屋に入っていく。最近出来た店らしく、店内は綺麗だった。

テーブル席に座りメニューを見る

矢井田「オレはチャーハンとラーメンと……

ギョーザにしよう!」

有坂「結構食べますね!(笑)」

矢井田「腹減ってたからな(笑)」

有坂「じゃあ、私は味噌ラーメンにしよ!」

メニューを閉じ、やがて店員が来て注文を済ませる。そして有坂は矢井田に仕事の事を話し始めた。

有坂「今日、矢井田さんが加工した製品ってもう

出来たんですか?」

矢井田「いや、今日は粗成形(あらせいけい)って言うやつだよ。

あれから寸法に仕上げていくんだ。

あの製品は3日は掛かる。」

有坂「そうなんですね。凄く大きな製品だったし

大変そうでした。」

矢井田「何? 見てたの?」

有坂「はい。木下さんに図面を渡しに行く時に少

し……」

矢井田「なるほど(笑)……どうりで……」

有坂「カッコよかったです……」

有坂は呟く様に言った。

矢井田「……?」

有坂「あ!………い、いえ!何もないです!」

(危なかったぁ!……でも、仕事してる時の矢

井田さん、ホントにカッコよかった)


こうして二人は食事を済ませて腕時計を受け取り、帰りの電車に乗った。

矢井田「腕時計、無事で良かったな」

有坂「はい。今日はありがとうございました」

矢井田「そのくらい大した事ねぇよ。うんうん」

そして有坂が降りる駅に着いた。

有坂「お疲れ様です。また明日」

矢井田「おう、お疲れさん!気を付けてな」




なんか、矢井田さんと居ると落ち着く。

この会社に来て初めて会ったはずなのに……

なんだか不思議……





─────第5話に続く─────


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