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虹色の霧の国  作者: 永井 華子
第二章 アンティリア王国

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24.精霊石の秘密

「話が逸れたね。精霊石の元になる石は、さっきの真っ黒な石だ。(から)の石と呼んでいる。魔力を込めると、その加護の精霊石になる。私は『氷』と『火』のふたつの加護をもっているけれど、今は『氷」の魔力を使ったから青い精霊石になった。そしてこれができるのは、貴族だけだ」


 ラルフがやや強引に話を再開した。沈黙が続くことが苦手なのかもしれない。


「『能力の高い人』?」

「そう、能力というのは器の大きさのことかな。ただし、貴族の家に生まれても、器の大きさが足りなくて精霊石を作ることができないと、貴族籍を得られない」

「ああ、アルマが言ってた『貴族が貴族である理由』って」


 美晴の視線を受けてエマがうなずいた。

「母は一応男爵家の出身なのですが、実家でも貴族籍にあるのは祖父母と伯母だけです。今は伯母が遠縁の伯爵家から婿を迎えて、その伯父が爵位を継いでいます。母自身は貴族ではありませんが、男爵家の出身でしたから女官にはなれました」


「精霊石を作ることが、貴族の義務とされている。だから作れない者は、貴族籍に加えられない。領民は税を納めて、精霊石の供給を受ける。そして、その精霊石を使って暮らしていく。農民が畑に害獣避けの障壁を張ったり、商人が品物を送ったり、魔力を必要とする場面は意外と多い」

「じゃあ、精霊石を作れる人が生まれなかったら、どうなるの?」


「うん、それで家を絶やさないために、アルマの実家のように婿や養子を迎えることは、ままあるね。逆に貴族籍に入れられなかった子は、裕福な商家などの養子になることもある。次の代で器の大きな子が生まれることを期待してね。そうでなくても、庶民よりは魔力が多いから。まあ、上手くいく家ばかりではないけれど」


 聞くに耐えないような話もある、とラルフは顔をしかめた。魔力という不可解なものが普通に存在する世界。しかも生まれつきの能力で人生が左右されてしまう。

 理不尽な思いをする人が、少なくないだろうということは想像に難くない。美晴は控え目にうなずいた。


「そうすると、アルマとエマも魔力は多いほうなのね」


 エマは人差し指で自分の目を指しながら、うなずいた。

「私の瞳はこのように緑色ですが、これは『森の加護』とか『木の加護』と呼ばれています。緑色の精霊石なら、そのまま自分の器に魔力を注いで使うことができます。ですが、ラルフ様の精霊石は『氷』ですので、純粋な魔力だけを取り出さないと使えないのです。私はそれができるくらいの魔力はありますが、庶民はほとんどの者ができません」


「便利だけど、扱うのは難しいのね」

「そう、でも魔力によって社会が動いているから、魔力の量、つまり器の大きさがとても重要になる。貴族籍の仕組みは、そのために出来上がったともいえる」


 力のある者が弱き者を助けて暮らしていく、それが文字通りに成り立てば、理想の社会となるだろう。


「精霊石の力を使い切ると、空の石に戻るのね。待って、……昨日ここへ来るためにペンダントとお父様の精霊石を使ったのに、お父様の精霊石はなくなっていた。手にもっていたはずなのに、洞窟で目が覚めたときには、空の石なんてなかったわ」


 ラルフは器用に右の眉だけを動かして、チラリとエマに視線を向ける。エマはなにかを察して、顔をこわばらせた。


「叔父上の精霊石は、空の石に魔力を注いで作ったものではない。魔力を凝縮して結晶化した、文字通り魔力の塊だ。だから魔力を放出すると消えてしまう。そんなことができるのは叔父上と、国王陛下、あとはローザリンデ、君くらいだろう。おそらくだが王太子殿下にはできない」


「私!?」

「できるよ。もちろん私にはできないから、方法は教えてあげられないけれどね。エマ、ローザリンデに仕えるとはこういうことだ。口がゆるみそうになったら言いなさい、叔父上に記憶を閉じてもらうから」


 エマは悲壮な顔で黙ってうなずいた。

「アルマは知っているかもしれないけれど、それを確認したら、そのまま叔父上のところに連れていかれるだろうね」


「は、母にもお邸にはじめて上がるときに言われました。大公様にお仕えして知り得たことは、例え使用人同士でも決して口にするなと。お嬢様がお邸にいらっしゃる前にも、同じことをもう一度。私の覚悟が足りないことに、気づいていたのだと思います」


 ラルフは満足そうに口の端を上げた。

「うん、思った通りエマは賢いね。よかった」


 ラルフとエマのやりとりと聞いていた美晴は、自分も生まれつきの能力に左右される世界の住人になったのだ、とあらためて思った。


 ――覚悟が足りないのは私も同じ、いやむしろ私はなにもわかってなかった――


「ラルフ、つまりどういうこと?」

「国家機密だ。最重要と言っていい。一般には空の石を用いない精霊石など、存在しない。この秘密を知っているのは国の上層部のごく一部の貴族だけだ。そして、叔父上が王宮へ行かない理由のひとつがこれだ」

「えっと?」


「叔父上にできることが、王太子殿下にはできない。どういうことかわかる?」

「……わかる、と思います」

 現国王、あるいは王太子に不満をもつ者がいれば、それを理由にクラウスをまつり上げようとするかもしれない。どれほど大変なことになるか、想像もつかない。


「うん、ローザリンデも賢いね、よかったよかった」

 ラルフが敢えてふざけた言い方をしたことに、さすがに美晴も気がついた。


 ――とんでもないところに来てしまった。いや、私がとんでもない立場だったのか。あれ、でもそれならどうして――


 美晴はもうひとつ気づいたことを口にした。

「じゃあ、『王家の精霊石』は? あれは大きいけど、普通の精霊石でしょう? ラルフはなにを気にしていたの?」


「うん、本当に賢いね……」

 ラルフはまた片方の眉だけをぴくりと動かすと、昨日のクラウスと同じように顔をしかめた。

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