第6話 旅路
「それにしてもすげぇ場所だな」
「ほ、本当だね」
周りにどこまで広がる樹林。所々にある透き通った池。傾斜は無いので山では無い事は分かるが、全く場所の情報が出てこない。ただ、道は整備されており、人が往来する場所だと言うことは分かる。
「本当に綺麗だね。こんな時でも無ければ喜んで観光してたけど」
「ま、そうもいかねーわな」
田辺が横に並んで歩く。木田と鈴木さんはお互い話す事もなく、ほんの少しだけ遅れて歩いてきていた。
「なんかさ、意外だったわ」
「なにが?」
「お前って結構喋るのな」
僕は思わずお前…という顔で田辺を見てしまう。少しムカついたが、確かに僕にしては良く喋っている気がする。今まではこんな事は無かったように思う。この環境がそうさせたのかは分からないが、まだいい方向には変わっていけているのかもしれない。
「田辺はなんで僕達と行こうと思ったの?」
突拍子もなく田辺に疑問を投げかける。話を変えたかったのが本音だが、それが気になるのも本当だ。
僕はいわゆる陰キャだ。木田ですら友達がいたのに僕には居なかった。この木田ですらと見下している時点で友達など出来ないのかもしれないが、これが元来の性格なので仕方が無い。対する田辺はクラス委員長で文武両道。真面目だがフランクで、誰でも分け隔てもなく話しかける良い奴だ。この僕にでさえ毎朝挨拶してくれるくらいに。そんな彼が何故僕達と来ようと思ったのか謎だ。
「んー、俺さ、あんまり友達いないんだよな」
「またまたー」
「いやいや、まじで。誰とでも仲良くできるけど、本当に仲いいヤツはまた別でさ。それこそ心から信用してたのなんて佐々木位でさ」
これは雲行きが怪しくなってきた。佐々木の名前が出たということは、少し重い話になりそうだ。
「アイツが死んだっていう事実が未だに実感できない位だよ。で、なんでかって話だけど…なんかお前が佐々木に似てる気がして」
「え?いやいやいや」
「いや、分かってる。一ミリも似てない事は。ただ、アイツが死んだせいかな?急にお前に佐々木を重ねて親近感が出てきたんだよ」
「なんだよそれ」
僕は思わず笑ってしまう。こんな状況に置かれているのに、笑ったのなんていつぶりだろう。
「へへ、ま、流石に理由はそれだけじゃないけどな。そういうお前は?」
「まぁ、単純に考えて戦力増強だよね。協力プレイが許されてる以上、それが可能な限りはやった方がいいから」
「えらくドライだなぁ。まぁそうか。実際問題、敵ではないけど現状仲間とは言えないしな」
「そう、だね。だからこそ協力しあえるうちはとことん頼りあおう。そして、いつかその時が来た時の為にルールも決めておこう」
「そうだな」
少し重い空気が漂った後に「鈴木達はなんでなんだろうなぁ」と田辺が呟く。確かに、木田はまだしも鈴木さんはなんで僕達と?信頼できるとは言っていたが、僕達で無くても良かったんじゃないだろうか。
鈴木さんは少しミステリアスで、艶のあるロングの黒髪が綺麗でとても印象的だ。容姿はだいぶ整っている。方だと僕は思う。男子連中に人気もあったように思う。
「まぁ、どっちにしろ役得だよな」
「役得?」
田辺は小さな声で耳打ちしくる。
「そりゃそうだろ。あの男子に大人気な鈴木ユカ様だぜ。こんなことが無ければお近づきになる事なんてできませんぜ旦那」
「なんか、あれだよね」
「あれ?」
「うん、田辺くんって意外とゲスだよね」
田辺は爆笑した。