第2話 スキル
「皆様の案内役を務めさせていただきます、アリアと申します」
男が出ていった後、まだ幼く見えるピンクの髪の毛をした女性が入ってきて自分をそう紹介した。
周りは先程の男が居なくなった安心感からか、少しだけ冷静さを取り戻している。ただ、佐々木が殺された事実と、先程述べられた話のせいで、アリアの話に耳を傾ける者は少ない。かく言う僕も、どうでもいい人間だったとはいえ、目の前で死なれた事実は簡単に消えなかった。
先程の男の後のためにか、皆アリアを警戒して懐疑の目を向ける。だが、意外にもアリアのとった行動は先程までのそれとはかけ離れていた。
「ほら、泣かないで」
目の前で座り込み泣いている女子、その清水の頭を片膝をつき優しく撫でるとアリアはそう告げた。清水は驚いた表情でアリアを見上げる。
「貴方達にはこれからもっと過酷な事が待っているのよ。こんな事で泣いていちゃダメだよ」
それを聞いた清水は赤く腫らした目でアリアをキッと睨みつける。
「あんた達のせいでしょ!!」
「そうよ、私達のせい。でもね、貴方が泣いた所でそれは変わらないよ」
アリアは表情を変えず清水に言う。しかし、僕にはその顔はどこか悲しげな、儚い表情に見えた。
清水を見かねてか、彼女の友人である篠原が清水の元へ駆け寄る。
「ただでさえ混乱してるのにこれ以上追い込まないでよ!」
清水の友人篠原は清水を抱きしめる。二人で泣きながらお互いの生を確認し合うように抱き合った。
「そう、ね。安心させようにも今のこの置かれた状況じゃ無理よね。でもね、貴方達の為でもあるの。立ち止まるのも進むのも自由だけど、どうするかは明日までに決めなきゃ行けない。泣いてる場合じゃないのよ」
うぅうぅと泣く清水と篠原はお互い下を向き、それ以上何も言わない。アリアはもう一度清水の頭を撫でて、篠原の頭も撫でる。二人を軽く抱擁した後立ち上がった。
「皆んなも理解して、もう嘆いても泣いてもどうにもならない。だから、貴方達が少しでも何とかなるように私の言葉を聞いて」
アリアのその言葉を聞いて騒いでいた者達や、泣いていた者もアリアの方へ顔を向ける。少しだけ覚悟が出来てきたのだろう。
田辺がアリアに言葉を投げかけた。
「分かったよ。とりあえずアンタの言える情報をできるだけ教えてくれ」
「ありがとう。最低限でも皆んなの為に努力するわ。まずはあなた達の能力についた説明するわ。あなた達はこの世界に召喚された時一つ以上の能力を持ってこちらに呼ばれているの。それは固有スキルと呼ばれるもの。スキルは貴方達の手の甲にある契約紋に念じれば個々で確認できるわ」
それぞれが自らの手の甲を見つめ念じる。僕も皆と同じように念じると文字のようなものが浮かび上がってきた。
・スキル
-リザレクション- レベル?
-コミュニケーター- レベル1
書かれた文字はきっとスキル名とスキルレベルを表しているのだろう。しかし、リザレクションと書かれた横にある?とはどういう意味だろうか。レベルが計測不明な事を表しているのだろうか。そもそもスキル名だけでは能力の効果が分からない。
「おぉ、俺のスキル名レオ・ファングだってよ」
「なんだよそれ!俺はリザーブって書いてあるわ。横にレベルまで書いてあるぜ!これどういう意味?」
島田とその取り巻きの岩瀬が大きな声で話している。僕も能力は気になるが、これから殺し合いをするであろう者達に、スキル名だけとはいえ教える事は絶対にできない。アホの情報が少しだけ拾えたのはラッキーだ。
そこら中で自分達の能力を確認し合う声が聞こえてくる。こいつら全員アホなのだろうか。しかし、そんな中にも僕と同じように考える奴はいるようだ。
僕は周りを見渡して確認する。確認できる限りはクラス委員長の田辺と、僕と同じスクールカースト底辺の木田。そしてたしか彼女は弓道部の鈴木さんだ。この三人は少なくとも理由はどうであれ誰にも情報を渡していない。
周りの声が聞こえる限りは割り振られたスキルは殆ど一つだけらしい。つまりスキルを二つ持つ僕はだいぶ運がいい。
「皆んな自分のスキルは確認できた?私にはスキルの事は分からないから使ってみないとその能力は分からないわ。だから各自後で確認してね」
「へへ、試しにアンタに今使ってみても良いかよ」
「構わないわ。貴方にその覚悟があればね」
「覚悟?」
「そうよ。私が案内役に選ばれている理由を考える事ね。貴方達のオトモダチみたいになりたくなければスキルは自分の確認程度にしときなさい」
そう言われ黙る島田。彼は学習という言葉を知らないのだろうか。