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女神の素の姿③




 とはいえ一段落ついた。


 2日という時間でここまで散らかせるのは空き巣常習犯ぐらい以外に弓波以外いないだろうな。なんてことを思いつつ改めて凄さを実感した。


 「お疲れのところ悪いけど、今日平日で何も用意できなかったの。だからこんなものしかないけど食べて」


 そっと俺の目の前のテーブルに市販のショートケーキを置く。


 「ありがたいけど別にいいんだぞ、家に帰っても今と変わらないことしてたし」


 「来栖くんが良くても私はだめなの」


 「そうか、それならいただくよ」


 こういうときは断り続けるのは逆効果だ。相手は迷惑がるだろうから。まぁそんなことあんまり気にしないんだがな。


 ショートケーキを一口サイズに分け、口に運ぶと体に染み渡るような甘さを感じる。もともとケーキ類は好きだが特にショートケーキは抜き出ているのでシンプルに嬉しい。


 よく食べるわけではないため、久しぶりに食べるとショートケーキの美味しさの沼に引き戻される。毎日食べていたいと思うが、3日連続で食べると飽き始めてくるので定期的に食べるのが1番だ。俺はどちらかというと飽き性だからな。


 「弓波は食べないのか?」


 市販のケーキには普通2つケーキが入っている。さすがに2つとも俺が食べるわけにもいかないので食べるよう勧める。もとは弓波が食べるために買っていたものだろうからなおさらだ。


 「来栖くんが食べるために出したのだからいいわ。それにまだ冷蔵庫にあるから」


 「そっか。好きなんだな甘いもの」


 冷蔵庫にストックするほどだ。それほど甘いものかケーキが好きなのだろう。


 「好きよ。辛いものとか酸っぱいものよりどう考えても甘いもののほうが美味しいじゃない」


 「それは人それぞれだからなんとも言えないけど、俺も甘いもの派だから共感はするわ」


 俺の友人である倉木は辛いもの派なのでよく俺の家に遊び来たとき食べるのは激辛ラーメンだったりする。偏見だが、辛いものが好きな人はドMなのではないかと思う。


 好んで食べる人は単純に凄い。


 「ごちそうさま。ありがとう、生き返った」


 「ゆっくり食べるタイプなのね」


 「そうだな、味わって食べてたからな。そんなに俺を観察して楽しいのか?」


 食べてる途中視線をとても感じた。悪い気はしないが落ち着かないのでやめてもらいたい。陰キャは視線に敏感なんだよ。


 「どうして来栖くんは掃除ができるのか知りたかったから自然と目で追ってたの」


 「俺の動きを見て答えが出てきたら今、俺はここにいないんだけどな」


 「再チャレンジよ。右往左往する来栖くんの動きを1回で覚えれるわけがないじゃない。だから今日こそはって思って」


 「ふーん、それで?答えは出たのか?」


 十分と言えるほど俺は時間をかけて作業をしてきた。しかも1つの部屋で常に弓波の視界に入っていながら。これで無理ならもう諦めるしかないレベルだ。


 「なんとか……」


 「語気弱くて信じれないんですけど」


 「やるだけやるわ。それでも無理ならまた……お世話になるかもしれないけれど……」


 「その時が来ないことをまた願ってる」


 本当なら何度でもここに来ていいのだが、そこで甘やかすと弓波のためにならない。1人暮らしとは誰にも甘えることは許されない。だからよく、1人暮らし始めて親のありがたみが分かったという人が新年度になって見られる。


 俺もそうだし、弓波もおそらくそうだろう。


 「なぁ、ホントに整理整頓が苦手なだけなのか?」


 「ん?どういうこと?」


 「あの弓波楓華がここまでズボラなのには他に理由があるんじゃないのか?確かに整理整頓苦手なのは伝わってくるけどそれに加えて何か別の理由が小さくてでもあるんじゃないかって思ったんだが」


 どんなに運動が完璧で勉強が絶望的なやつでも全教科0点を取ることなんて意図的でない限りないし、逆も然り。でも俺からして勉強、運動が完璧な弓波の整理整頓のできなさは異常過ぎたため、きっと学校でのことが関係しているのではないかと思ったのだ。


 あまり陽キャと関わりたくないのは正直あるが、今の弓波に気づいてあげられるのは、家での弓波を知っている俺か神山しかいないので無理をしてでも何とかしたいと考えてしまう。


 「……少しはあると思うわ」


 「正直だな」


 あっさりとこぼした言葉には先程よりも語気が弱かった。


 「学校に入学したときからそのキャラで行くからだぞ」


 「違うわ。容姿端麗なだけで勝手にこういったキャラになっただけよ。好んでこんな完璧で人気立場のキャラになろうとしたわけじゃないわ」


 「それもそうか……」


 目立つのは好きそうじゃないように思える。作り笑いとか態度とかで。


 「私はもともとおとなしい性格だったの。だから高校でも来栖くんのような立場にいたかった。でも高校生にもなると人間関係って複雑になるもので、みんな容姿端麗=スクールカースト上位って固定概念から私に付きまとうようになって……ホント嫌になるわ」


 「めっちゃ分かる。いやまぁ人気の立場にはなったことないから分からないとこもあるけど。人間関係ってめんどくさいよな」


 顔が良ければそれだけで顔が普通のやつより人生を少しは楽に過ごせる。これは絶対にそうだ。でも楽に過ごせるだけで内容の濃さは誰でも変えれるし、顔の良さに慢心するやつほど醜い生き方はないだろう。


 弓波は決して何事においても慢心はしない。逆に手を差し伸べるタイプだ。だからこそ今の立場にいることが負荷となり余計に疲れているんだ。


 「ホントは今みたいに素でいたいのか?」


 「いいえ、素でいられる友達がいればそれでいいわ。学校でのことは今さらどうしようとも思わない」


 「そっか。弓波がそう言うならいいと思う。でも何かあったら言ってくれ、掃除でもなんでもな」


 「ええ、そうするわ。ありがとう」


 俺は弓波の素でいられる友達なのだろうか。きっとそうであると俺は勝手に思っている。友達の基準なんて、仲良く話せるようになったら、なんて単純なことでいいからな。

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