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勉強なんて二の次




 「いらっしゃい。はい、入って」


 「ああ、邪魔する」


 しっかり部屋着に身を包んだ弓波は、寝起きとも言える表情で出迎えてくれた。数多くを見慣れた俺だがこれはまだ慣れない。


 ドキッとしてはそれを隠すのに必死で、対処法が見つからないのだ。俺の前ではそういったズボラなとこを見せてくれるのは嬉しいが、何とかならないものか。


 荷物を持ってリビングに向かう。いつもより多めの荷物に、重量をしっかり感じる。勉強なんてする気にもならないが、退学がかかるとなると別。この重み分、頭に叩き込まなければ。


 「どこからどこまでが教える範囲?」


 欠伸を1つ、そして1言。


 「できるだけだな。俺には何もかもが意味不明で、選択問題を勘で当てるしかないから、そうなるのを避けれるレベルまで教えてくれれば助かる」


 「アバウトだね」


 「アバウトに説明するしか語彙力がないんだ」


 「……重症じゃん」


 「それは俺も思う」


 弓波には理解できない領域の話。一体どこまで賢いのか限界を知りたいものだな。そうすれば目で見ても凄さってのが分かるし。


 「それじゃ現代文からやろうか」


 「お願いします」


 古典なんて到底理解のできない科目からは逃げるため、現代文を選んだがこちらもこちらでハードなものだ。なぜこんな勉強をしなければならないのか。弓波が現代文選択で良かった。


 それからというものマンツーマンで次々に内容を叩き込まれた。休む暇も与えてもらえず、メモリ限界まで来たと思ったらそれを超えろと言わんばかりに加速させる。


 鬼だ。でも嫌いではない。


 しかし頭にはしっかりと入る。教え上手とは弓波のために作られたかのように、耳に入れるだけでも学べている気になる。いや、気になるだけではなく、しっかりと指先に伝えられ正確な答えを導き出している。


 教えることにも才能があるなら、一体何が弓波の欠点なのか俺には分からなくなる。


 こうして隣に座ってもらいながペンを走らせているとさすがに集中できないと思っていたがそんなこともなく、弓波を意識することも少なかった。


 そうするように勝手に脳が変換していたのかもしれない。昨日までの俺ならきっとこうでは済まなかった。もしかしたら時間経過も関係しているかもな。


 現代文が終われば数学、数学が終われば化学と、嫌なんだけれど進むことで知識になることが楽しく思えてきた。楽しくないことをする時友達がいれば幾分かマシになるというのはホントの話のようだ。


 ――「さすがに詰め込み過ぎだね。休憩しようか」


 「ふぅ、やっとか」


 始まって1時間半、普段の1授業よりも長く、授業よりも集中し、授業よりも多くのことを頭に詰め込んだ時間はまだそれだけしか経ってないのかと、嫌なことをする時間経過の遅さに呆れ果てていた。


 楽しいことなら時間経過が早いという不思議現象について誰か正式な見解を出してくれないだろうか。いつでも待ってるが。


 「プリンとコーヒーゼリーどっちがいい?」


 冷蔵庫の中にある甘いものを見ながら選択肢を出す。


 「プリンで」


 「はーい」


 気分がプリンだった。コーヒーゼリーよりも甘いものを口に入れたかったのだ。糖分を欲するってマジなんだな。


 軽く返事をして戻ってくる弓波の手には自分用と俺のプリンが持たれていた。


 「どうぞ」


 「ありがとう」


 簡単に交わす。これだけでも今この場に勉強をしに来れてることが幸せに感じる。3ヶ月前ならそんなことにはならなかったし、まだ神山とも出会ったばかりだったから幸せなんて意識もしてなかった。


 けれど余裕が出来たというか、関係が楽になったから別の気持ちに気づき始めたんだと俺は思う。


 スプーンで掬った一口サイズのプリンを口へ運ぶ。味蕾がそれを捕まえると甘い香りと微かな卵の風味が鼻腔を刺激する。一般のプリンだが普段より美味しく感じるのは勉強の成果だろう。


 「幸せそうな顔」


 「弓波も似たようなもんだぞ」


 一口運んでニッコリする顔は見慣れても飽きない。


 「きっと、来栖くんとの時間とこのプリンがそうさせるんだよ」


 「……俺との時間は関係ないだろ」


 「えへへ、どうだろうね」


 「……知るか」


 小悪魔的に笑う顔は、ニッコリとはまた違った良さを見せる。何かを知ってるけど、俺が肯定するまでは口に出して言わない。教えない。


 なかなか厄介な性格だ。


 これほど秀才な弓波だ。もう何にだって気付いているだろう。もしそうでないならそっち側もズボラな性格と同じで、美少女の欠点の1つだな。


 でも気付いた上で敢えて何も言わない。それは俺が幼馴染としてその意図をしっかり理解できると知っているから。確信を持っているからだ。


 隣から正面に座り変えたのもその1つだ。プリンを食べる俺を見るため、そして俺が弓波を見れるように。


 「食べ終わったら再開だよ」


 「なら食べ終わるの遅めにしようかな」


 「んー、別にそれでも良いんじゃない?」


 「……やっぱり早めに食べ終わるわ」


 再開が遅れればその分だけ俺が帰宅するのが遅くなる。つまりはそういうことだ。


 まったく……。


 それからというもの何故か勉強は捗った。叩き込まれた知識を無駄にはしないように、そして復習のやり方も教わり俺は自分の家へと帰宅した。


 11月だというのにまだ明るい18時。


 勉強だけでこんな時間まで残れるかよ……。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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