近づく足音
1番好きな季節は何かと聞かれれば迷いなく俺は今と答える。体育祭も終わり、その他数多くの行事も終わりを迎え、それぞれが思い出として記憶に残した夏は秋へとバトンを渡していた。涼しくて心地よい空間。自然と体に適したような空気感が春夏秋冬で群を抜いて好きだ。
そして今学期最後の行事、これを行事というかは詳しくは知らないが、学生にとっての最大の壁であるテストと呼ばれる壁を前に、俺は為す術なく立ち尽くしていた。
授業というものを受けていても耳に入れてはいない俺は、当然の結果のように頭が良くない。悪いと言えるほど悪くはないと思うが、順位として可視化されると平均より少し下に属しているので、俺より上の人には頭が悪いと思われているだろう。
やる気のないことにはとことんやる気を出さないタイプだな。
しかし、そんなことを言っても免除されるわけでもない。嫌でも乗り越えなければ退学が待っている。それだけはなんとしてでも阻止しなければ。
1学期と比べると圧倒的に範囲が広い。だから余計に勉強をしなければ赤点という退学への一歩を進むことになる。いや、この時点でもう片足入ってるようなものだ。
こういう時助けになるのはやはり友達という存在だ。勉強を教えてもらえばいいのだがら。倉木に頼んでも拒否をされるし、頭も良いと言えるレベルに達してないのであまり効果が期待できない。
結女も小学校から陽キャで元気なキャラを固定してしまったためか、頭もそんなに良くないという。美少女の数少ない欠点の1つがそれなんて可愛いものだ。
神山は範囲が違う。違くても教えることはできるかもしれないができるなら理解度がより高いほうがいい。贅沢言ってるがそうしないと俺も首の皮一枚繋がらなくなる。
こうなればもう選択肢は1つ、弓波に頼んで教えてもらうしかない。
ってかそもそも弓波に頼もうとしていた。理由は単純、弓波と勉強をすれば確実に成績が上がる気がしたから。
逆に集中できないパターンも考えられるが、その時はその時だ。俺は今、大丈夫だと思っている。きっと弓波の前でも、隣でも、一緒にいても耐えれるのだと自信を持っている。
そんな気持ちとともにスマホを開きメッセージを送る。
『テスト期間に悪いが俺に勉強を教えてくれないか?』
この前にも何度かやり取りをしていた。体育祭後の弓波の部屋についてやその掃除をし終わって3日後の部屋について、涼しくなってきたな、なんて他愛のないことまで。
いつの間にか気づけば、そんな会話をするのも当たり前になっていた。幼馴染と知った日よりずっと前、もう正確に思い出すのは難しいほど前から。
やはり気の合う友人とは幼馴染なんて肩書がなくても仲良くなれる運命にあるのだろうか。
しばらくして返信は返ってくる。その間、ソワソワしている自分に恥ずかしさとバカらしさを覚える。
『いいよ。私は勉強しなくても点数取れるし』
それだけの自信が俺にも欲しいものだ。
『助かる。俺もできるだけ弓波の点数下げれるように頑張るわ』
嫌味を言われたら嫌味で返すのが俺たちの基本。決めてはいないが暗黙のルールだ。
『私は助からないじゃん』
『もう助かってるみたいなもんだろ。だから気にするなよ』
『気にしてないよ』
今から勉強を全くしなくても弓波なら赤点なんて回避可能。常に危険域から離れているので足を引っ張ろうが、連れて行こうとしようが危機になることはない。
羨ましいが、その分の努力はしてるから尊敬ものだ。
『それじゃ週末私の家に来る?』
『そうさせてもらえるか?』
『もちろんいいよ』
『ありがとな』
俺の家でも良いが、弓波を動かすのも悪い。それに弓波の部屋の方が落ち着くようになった。そして散らかってない部屋を見ると違和感も覚えるようになってしまった。重症だ。
そんな部屋でも気にせず勉強や映画鑑賞を出来るようになったのは慣れだな。
その後も会話は続く。時間は開くがそれでもどちらかの既読で終わることはない。不思議だ。なぜ俺がこんなにも誰かとのやり取りを楽しめているのかが。
何でもかんでも当てはまる理由が弓波なのが、俺が呪われてる証拠だ。
――3日後、寒くも暑くも感じない、ただただ心地よい風に吹かれて弓波の家へ少し厚着をして向かう。11月後半、冬と言っても間違いではない時期に似合わぬ風は、俺の今の気持ちとマッチしていた。
この道も二桁は往復した。どこに何が置かれてるかまでしっかり把握できる。それほど周りを見渡しながら歩いていたことが懐かしく思える。
弓波とまだ関係を知られてくなかった頃、不審者のような素振りを見せて向かっていたので周りに知ってる人がいないか探しまくったのだ。
結局誰にもバレることなくここまで来た。その苦労は無駄だったな。
マンション前に着けば、フューっと吹く風に始めて寒いと言わされる。それから逃れるようにエレベーターに乗り込む。早く着きたい気持ちに複数の気持ちが混ざる。
最近の俺は気持ちの整理ができなくなっている。整理整頓、得意なはずなんだがな。
最上階の最端に早足で向かう。インターホンを鳴らせば聞き慣れた声。聞こえないガサゴソ音。どれもこれも好き過ぎて、勉強をしに来たことを忘れさせられていた。
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