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空気を吸う場所




 「弓波さんは来栖に対して何も思わないの?」


 ここに来て初めて出雲が弓波に話しかけることで弓波の声が聞ける。よく聞けたな、とコミュ力と度胸に感心する。


 「ええ、昔から変わらないわよ」


 「卯花さんは?」


 「ん?私も変わんないよ。唯一の異性の親友ってとこかな」


 唯一の異性の親友という言葉に何か込められたような言い方だった。もしかしたら選ばれなかったことを怒ってたりな。


 「そうなのか。俺、個人的に来栖はカッコいいと思うけどな」


 「やめてくれ」


 「いや、マジマジ」


 俺には本音と建前の区別ができない。練習できるほど人と会話をしてないし、建前を使う相手と友達になってないから。


 だからちょっとでも良いことを言われただけで気分上々になる。チョロい男とはまさに俺のこと。


 「私は共感するよ。湊くんは顔も性格もカッコいいからね」


 「結女……」


 いきなりのカミングアウト的なものに言葉が出てこなかった。結女はいつも俺の性格を褒めてくれる。優しく接してくれるとか、周りを見て助けてくれるとか。それらは全部意識してないことだから、善意を持ってやってるわけではない。


 それがいい性格というなら、まぁそうなのだろうが。


 「嘘は言ってないけど、これが湊くんの好感度の稼ぎ方!」


 「みんなに変なことを教えるのはやめてくれよ」


 俺の好感度を得て何になるのか、せいぜい結女と弓波とお近づきになれるってだけだな。それだけでも男子ならホイホイやって来るだろうから、面倒なことだ。


 「これから来栖は俺たち男子に引っ張りだこだな」


 「お手柔らかに頼むよ」


 学校では男子に囲まれる生活を送るのだろうか、いや、それはないな。集まったとしてもいずれ俺といることよりも他のことをするほうが楽しいって気づいて離れていく。


 人間関係とは結局は相性と気分次第。即席で作られた友情なんてありふれてるしな。


 はぁぁぁ、なんとなく疲れた。聞かれることを聞かれては、話すことを全て話したことによるスッキリ感と安堵感だ。


 俺に話を振られては、もう帰ることもできない。途中離脱は即席関係に亀裂を生む。よって最後まで付き合わされること決定。おめでとう俺。そしてドンマイ俺。


 「そんじゃみんなのために俺が一曲歌ってやるか」


 マイクを右手に、やる気満々の出雲は何故か肩を回す。肩と声帯が連携しているのか?


 「出雲には悪いが外の空気を吸ってくる」


 「おう。歌い終わる前に戻って来いよ」


 「ああ、分かった」


 本日2度目、それも先程からそんなに時間は経過してないタイミングで、今度は正直に外の空気を吸いに行く。


 落ち着く場所が必要なのだ。目に入る情報だけでも多すぎるのに、耳にする情報も多ければ脳が疲れてしまう。何事も落ち着くことが必要だ。


 そうして俺は部屋を後にした。


 外とは言っても完全に外ではない。空は見えないしっかりとカラオケ店内だ。腰を下ろして休めるスペースを求めて出てきたのだ。


 二桁の密集では気疲れするのも無理はないな。


 自動販売機で好みの飲み物を買って休憩する。一息つけばドッと疲れが押し寄せてきて、久しぶりに頑張った自分を労る。


 足を伸ばして天井を見る。そして思い出すのは体育祭の借り物競走のような最後だった障害物競走。ある意味俺には借り物ではなく障害物だったな。


 弓波を選んで走ったその瞬間から鮮明に覚えている。何を話したか、何を思ったか、何をやらかしたのかすべてを。


 ははっ、やっぱ俺ってバカで単純だな……。


 そう呟くと、聞いていたかのようなタイミングで出雲の声が聞こえる。つまり誰かが扉を開いたということ。不思議とその時から俺にはそれが誰なのか分かっていた。


 後ろで結んだ黒髪を揺らしてこちらに歩いてくる。


 「俺と同じ理由で?」


 「うん。さすがに疲れたから休もうかなって」


 「さすがは似た者同士だな」


 「そうだね。私も来栖くんが言い出す瞬間に言おうと思ってたもん」


 「奇跡だな」


 さすがに同時なのは詮索されるだろう。やましいことも何もないことに対して詮索されることほど面倒な対応はない。だからわざと時間をずらして来た。


 「こういうのにはよく来るのか?」


 「まさか、生まれてからこれまでで初めてだよ」


 「だよな」


 誘っても断られるから弓波が誘われるとこを見るのは減った気がする。クラスメイトも弓波について少しは分かってきたのだろう。それでも本心まで分かってるわけじゃないのがプライドある取り巻きとしては悲しいことだ。


 「体育祭のときはありがとな。無理矢理付き合ってもらって」


 「無理矢理じゃないよ。私も来栖くんにそう思ってもらえてるんだって嬉しかったし」


 「そっか、なら良かった」


 弓波の家に居るときより座る場所に距離はある。だが確実に近いものもあった。夏休みからだんだんと距離は離れていったがそれに反比例して近づくもの。


 「戻ったら弓波の隣に座っていいか?知らない人が隣より知ってる人が隣のほうが過ごしやすい」


 「うん。いいよ」


 「ありがとう。そろそろ出雲も歌い終わる頃だから戻ろうか」


 「そうだね」


 初めての俺からの思い切った提案。最初で最後になるか、まだこれからも続くのか、どっちなのかは俺次第。


 戻ってくるとき、2人同じだと勘違いされるかもしれないが、どうってことはない。その場のノリで乗り切ればいいだけだ。先のことはその時の俺に任せる。


 そう、俺は他力本願なのだから。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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