陽キャの領域
体育祭が幕を閉じると、次にやってくるのは打ち上げという陰キャには遠い存在のパーティーだった。誘われることがないので行くことはないと思っていたが、やはりクラスメイトはそう簡単に逃げさせてはくれなかった。
今俺が居るのはカラオケ店。中に男女何人も入り込んでいるから狭くて仕方がない。
それにしても初めてカラオケ店に足を踏み入れた。思っていたより完全防音ではなく、トイレのために部屋を出ると隣や正面の部屋から歌う声が聞こえてくる。
これの何が楽しいのやら……。
なぜ俺がここにいるのか、だが、普通に誘われただけだ。弓波との1件を聞きたいという下心丸見えのお誘いだったが断ろうにも空気的に不可能だったため、嫌嫌ここにやって来た。
弓波も居れば結女も居て、珍しく倉木もいる。嫌そうな顔をしているのはお互い様だな。
ここに来て30分ほど経過したがこれまで弓波との関係性を聞かれてはいない。答えてさっさと用事あるからと帰りたいんだが、そう上手いように話は進まない。
順番なんてものはなく、好きなように、やりたいように次から次に歌う。ストレス発散でもしているかのように。
「来栖は歌わないで良いのか?」
「ああ、歌うのは得意じゃないからな」
顔は知っていても名前までは一致しないが……檜山と言っただろうか、確かそのような名字をした同じクラスの男子生徒が話しかけてきた。
「そっか、なら俺が歌うわ」
「そうしてくれ」
しかしそれだけ。結局関係性を問われることはない。新手の嫌がらせでもされてるのだろうか。それなら女より男の嫉妬が怖いと俺は思うな。
良く見てみれば男女の比率が全く同じ。経験もなければ詳しく知ることもないが、合コンの数合わせのために呼ばれている気分だ。
こうなるならいっそ弓波か倉木か結女の隣でも確保しておくべきだった。3人とも人気のため両脇はすぐに埋められる。約束でもしとかない限り自然と隣同士になることはできない。
話したことのないクラスメイトが両脇に座っている。仲良くなろうとも話したいとも思わない俺はただ、スマホをいじって誰かが歌い終わったら適当に拍手と小道具で騒ぎ立てる。
ホント、この場に似合わないな。
気分転換にトイレに行くふりでもして少しの間外の空気を吸いに行く。場違いは居るより居ないほうが絶対に楽しいからな。
隣の人に伝えて部屋を出る。冷房の効いた部屋よりも涼しく感じるのは気持ちの問題だな。
――ちょこっと、ホントに誰の基準であれ少しの時間を過ごして戻ると、タイミングというものは完璧のようで今まさに俺と弓波の関係について話題にされていた。
俺がいなくなったのを見て切り出した説も濃厚だ。
「来栖くんって楓華ちゃんと幼馴染だったの?!」
えーっと確か七草って名字だな。弓波の第1側近だ。
そんな七草が驚きも驚き、俺が弓波を親友として引っ張ったとき以上の反応で俺を見ていた。
「ああ、そうだけど?」
「へぇー、全く学校では関わって無かったのに、幼馴染だっていきなり言われたからびっくりしちゃった」
「目立つことは好きじゃないからな」
人と関わることが好きでないから、と正直には言えなかった。場の空気を読むことも陰キャは得意なんだよな。
「はいはーい!それなら私も湊くんの幼馴染だよ!」
左手をテーブルに右手を天へと突き上げる勢いで身を乗り出したのは結女。またまた話の内容が広がった。
「マジで?!」
男子陣がざわついた。その中で1番だったのはこのクラスのカーストトップ出雲だった。
「弓波さんと卯花さんって両手に花じゃないかよ」
「まぁ、そうだな」
その上神山とも仲がいいと聞いたらどんな反応を見せるだろうか。気になるが聞かない。
両手に花か……ホント、欲張りセットだな。
「来栖くんは楓華ちゃんと結女ちゃんどっちが好きなの?」
「……どっちが好き?」
「幼馴染ってなったらやっぱり昔からの仲で恋心とか芽生えちゃわない?」
めちゃくちゃデカイ爆弾を投下してくるものだ。ノーコメントで、という芸能人の会見してる気持ちが分かった気がする。
「恋愛感情で言ったらよく分からない。友達としてならお互いそれぞれに良いところあるからより好きな方ってのはないな」
嘘と本当を混ぜながら答えることで、嘘を信じさせる。
「なんか来栖くんらしい答え。女の子を好きになりそうにないもん」
「そうか?俺は来栖はむっつりだと思ってるから女子のこと案外好きなのかもしれないって思ってるぞ」
男女ともにカーストトップの2人が言い合う。確かにむっつりなのかもしれないが、そう思われてることが嬉しく思えない。
「それは来栖本人に聞いてみれば良いんじゃね。な?来栖」
ここまで黙っていた倉木のキラーパスが俺を襲う。
「……そもそも女子と関わらないから好きも嫌いもないな」
フル回転の結果なかなかいい答えを導き出せた。関わってなければ良し悪しが分からない。ここに来て陰キャの特性が助け舟となったな。
「あー、それもそうか」
問い詰められることがどれだけ大変なのか身を以って体感する。こんな日々を毎日のように過ごす陽キャは俺からしたら神の領域だな。
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