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友人の問い詰め




 日曜日も掃除の依頼を2つこなし、俺は週のはじめである今日も憂鬱になりながら学校に通っていた。特に思い出に残すようなことはないのだがそれでも月曜日というものは好まれない。


 教室に入ると葬式のようなオーラを醸し出すやつもいれば、そんなのお構いなしに誰かの机に集まってぺちゃくちゃ喋っているやつもいて、俺もこの憂鬱さを晴らしてくれるようになれたらいいと羨む。


 もちろんその中には弓波がいて月曜日から大変そうだった。


 とはいえ俺は土曜日に弓波の家を知り、手作りクッキーを食べ、連絡先も交換したというこのクラスの陽キャでもなし得ないことをやってのけたのだ。クラスメートにそう言うとめんどくさそうだし、なにより弓波が困るだろうから絶対に俺からは言わないが。


 助けてあげたいとは思う。あのときの弓波は誰が見ても疲れていたからこう思うのは当たり前だ。でも俺にはその力はないため動こうにも動けない。世の中は多数決なのだから。


 なぜ俺がこんなにも救いたいと思うのか、それは俺自身もよく分からない。分からないというか理由がないのだ。理由を作るなら、恩を売って何か自分自身に返ってこないか、といったところだろう。


 まぁ思うことなら人間誰でもできる。あとは行動力だよな……。


 月曜日という敵にネガティブにされている俺の心は思うことすらもネガティブにしてしまっていた。


 「はぁ……」


 「どうしたよ、いつもより何かに対して負の感情を抱いてる顔して」


 月曜日でも俺の友人だけは何も変わった様子は見せなかった。


 「考え事だよ。最近増えたからな、それにその考え事といったらめちゃくちゃ難敵でさ」


 「難敵?お前にとって難敵じゃない考え事なんて、無いほうが珍しくね?」


 「じゃ言い方変えるわ。難敵よりもさらに難敵の考え事」


 「……もう手をつけられないだろ、そこまでいったら」


 もっと上手い返し方あっただろ、というような目で俺を見る倉木。すまん、これが精一杯だ。


 「だよなー。でもそういうのに限ってなんとかしないといけない事なんだよな」


 「……お前、頭ぶつけたか?」


 「んなわけないだろ」


 「そうだろうけど疑うだろ。お前が今まで考え事でなんとかしようとしたことすらなかったのに、それよりも難敵をなんとかしようとか言ったら」


 確かに俺は今まで趣味の事以外どんなに悩んで考えてもどうでもいいこととして諦めていたからびっくりするのも無理はない。でも人のためにする掃除と人のためにする考え事は同じではないだろうか。


 誰かにいい思いをしてもらいたいが故のことなのだから。


 「まぁなんかあったら俺に言えよ。どうせ頼る友達もいないんだろ」


 「1言余計だな。でも助かる」


 「弓波のことってなったら俺でも限界あるからできる範囲で頼むぞ」


 「……なんで弓波?」


 「お前がずっと弓波を見て話すからカマをかけただけ。見事正解したみたいでなによりだ」


 カマをかけられると引っかからない方が難しい。特に俺のような人とそんなに関わらない人間なんて、人と話すことで騙されることをほとんど経験しないのだから当然のように引っかかる。


 そうは言っても俺が招いたことなので声に出してグチグチ言うことはない。


 「誰にも言わないが、告白するなら早さよりも中身だぞ、焦っても断られるだけだからな。それで今まで何人の男が後悔したことか」


 「いや、告白はしませんけど?」


 弓波のことを考える=告白するか考えている。という公式がこの学校にはあるのかと当たり前のように言う倉木に心の中でツッコむ。


 「はぁ?じゃそれ以外何があるんだよ。逆に気になるわ」


 「俺の趣味と関係あるんだよ」


 「掃除と?……ダメだ、分からん」


 「分からなくて結構」


 弓波が整理整頓できない女の子でした。なんて言えるわけないし、言わない約束をしてあるため俺の口から聞けることは絶対にない。たとえ分かったとしても倉木なら誰かに話すようなことはしないだろうが。


 「あの、完璧の彼女候補を見つけるまで人の家を掃除しながら渡り歩く、とか言ってたお前が弓波ですら恋心を抱くに値しないとかどんだけだよ……」


 「はいはい。確かに言ったけど弓波が恋心を抱くに値しないわけじゃねーよ。ただ今は恋をしたいとは思わないだけだ」


 偽りではない。高校入学時にはそう言ってあの無償掃除を始めたが今は違う。なぜかというと思ったより掃除が楽しかったという単純な理由だった。


 それから4か月ほどで恋をしたいと思う気持ちを、掃除をしたいという気持ちが大きく上回り、恋したいというのは消えていったのだ。


 今思えばあのときの俺は下心を持ちながら人の家に上がりこんでいたと思うとバカで気持ち悪くて、どうしようもないクズだったと反省をする。


 「弓波がお前に恋心抱いてたら面白いけどな」


 「全く面白くないけどな。どうすれば弓波が振り向くんだよ、教えてほしいわ」


 「俺も知らないが、意外とあるかもだぞ。ほらさっきからチラチラこっち見てないか?」


 指差すことはしないが、目で弓波の方を見ろと合図をする倉木。するとこっちを何度見ているかは分からないが一度だけ目が合った。しかしそれだけで何度も合うことはなかった。まさかこれもカマかけではないのだろうか。


 「見てないな。お前の見間違いだな」


 「まじで?俺視力いいんだけどな」


 怪しいと顔に書いてある。でもこれは本当のことなので怪しまれても何もない。


 たとえチラチラ見ていたとしてもおそらく俺が誰かと話すことで私の秘密を言っていないかと気になって見ただけだろう。別に気にすることではない。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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