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体育祭は腕相撲から




 8月と比べれば多少は涼しくなった9月中旬、生徒会長や校長、前年度の優勝団がそれぞれ開会式の役目を果たす。聞いている側は早く終われ、長い、暑いだの聞く耳を全く持たない。それが俺たち学生の当たり前だからな。


 どこ学校であれ開会式で体操をするだろう。これってホントに意味があるのだろうか。中には本気で走らずとも勝てる種目の生徒もいる。怪我をしないよう柔軟にしておくため、体操を行うのだろうが、結局怪我なんてしないしする人を見たことがない。あっても熱中症手前で倒れる人だけ。


 こういうこと思ってるやつが怪我するんだろうけど。


 学校行事なんてやりたくない気持ちで満たされた俺は嫌嫌体操を続ける。


 団体行動で1人が別の動きをすれば目立つ、だから嫌でも揃えろ。と言われるように後で教師に、お前なんで真剣に体操をしなかったんだ、と言われたくないので隣の生徒に合わせながら体を操作する。


 団体行動なんて苦手中の苦手だってのに。


 そして体を柔軟にすれば、後ろに駆け足で向かうことで開会式が終了だ。たった行進入場から駆け足退場までの20分で普段の1日分の体力を消費した気分。怠け者には向かない行事だ。


 ともあれ開会式というものが終わればほぼ自由行動になる。応援する生徒はテントの中に入り、グラウンドへ向けて声援を飛ばす。応援しなかったり、涼しい空間と仲良くしたい生徒は、教室に戻ったりする。


 体育祭とはあくまでも、学校生活における運動面での成長を親や地域の人に知ってもらうために行われるものと認識しているので、別に応援してもしなくても自分が種目をしっかりとやり遂げればそれでいいのだ。


 だから俺は当たり前のように教室へ戻る。綱引きと障害物競走まで時間はあるし、体育委員としての仕事もない。他校では係が決められるのが普通らしいが、道具などの準備をする2年生の体育委員と放送をする係以外、任される委員はうちの学校にはない。


 教室には誰もいなかった。一番乗りというわけでもなく、ただ単純に応援したい人が俺以外だっただけ。


 久しぶりの1人の空間。仮眠を取るのもあり、ぼーっとしとくのもあり、スマホをいじるのもありだ。


 まあ、そんなことができたところで何も思い出にはならないんだけどな。


 ガラガラっと教室の扉がスライドされる。俺と似たタイプの生徒が帰って来たのかと思えば的中していた。


 「やっぱりいた。どうせ1人で寂しく寝てるとでも思ってたよ」


 「そんな弓波も、俺がいなかったらそれを言われる立場にいただろ」


 「どうだろうね」


 急いで来たのか、息が整っていない。そこまでして教室に戻りたいとは思わない俺には不思議だった。


 息をゆっくり整えながら自分の席ではなく俺の隣の席にやって来る。珍しい。


 「最近ずっと卯花さんと一緒で私とは一緒じゃなかったでしょ?」


 「いきなり何の話だよ」


 「最近の話だよ」


 「…………」


 「だから、今日は私と一緒に居ようよって言いに来た」


 突然の話は急展開すぎて追いつけるものでは無かった。きっと何か理由があってそんなことを言ってきたんだろう、いや、きっと思い出を作りたいからって理由で言ってきたんだろうな。


 「別に良いけど。ここで一緒にいても何が思い出になるんだよ」


 「今はまだここにいて良いと思う。私の種目も先だし。だけど1000mが始まったら来栖くんは私を応援しに来てよ。私は逆にその後の障害物競走に出る来栖くんを応援するから」


 「そっか、それなら良いぞ。1000mの2つ後だったからそんな外に出てなくていいしな」


 俺は拒否らなくなっていた。障害物競走が2つ、綱引きが4つ後に行われることも理由の1つだが、弓波を応援できて俺も応援されるなら、良いなって、そう思っただけだ。


 「やった!ありがと」


 ちなみにこの笑顔を見るためでもある。


 「応援は良いけどそれまで何するのか決めてないよな」


 「そうだね。昔やってた遊びでもする?」


 「昔やってた遊び?何があるか覚えてるのか?」


 「んー、腕相撲とか?」


 「負ける未来しか見えないんだけど」


 単純な腕の力での勝負なら俺は絶対に負ける。平均的な筋力はしてるつもりだが、弓波にはそれを上回るほどの力が備わっている気がする。


 「昔は私が勝ってたけど、今なら私が負けちゃうよ」


 「やってみるか?」


 負けても勝っても悪い方には何も行かない。つまりやらない選択肢はない。


 「やろやろ!」


 机を真ん中に、対になって見つめ合う。ハチマキと体操着とポニーテールがこれほど相性が良いなんて。これなら毎日見たいと思える。


 2人とも右利き。机の上に肘を置いて弓波の掌を優しく握る。高校生として始めてだろう、弓波の体の1部に触れるなんて。


 細くて柔らかい。でもプニプニといった感触ではない。これが女の子、弓波の手なんだ。


 「来栖くん、掛け声良いよ」


 ハンデをもらった気分だ。好きなタイミングで始めれるなら有利。


 「分かった。3.2.1.0の0でスタートな」


 「了解」


 「3.2.1.0」


 いきなり本気で力を込めるのはよろしくないので、7割程度の力で押しやる。弓波は本気なのか7割じゃ耐えれないほどの力を込める。


 それならこっちも負けれいられない。


 手首を自分の方へ向け、再び力む。今度は9割。しかしそれでも弓波から有利は取れない。真ん中でガシッと固まったまま。この時点で俺の弱さが理解できる。いや、弓波が強すぎるパターンもあるが。


 「うぉーりゃぁぁ!」


 まだ本気では無かったようで、左手で机を掴んで右手には先程よりも強く力が込められる。


 あっ、負けるわこれ。


 そう思った瞬間だった。俺の右手には力が入らなくなり、同時に決着となった。


 「ほらな?負けただろ」


 「いやー、いい勝負だったね」


 これから1000m走る人とは思えない体力使いだった。これほどならそんな影響しないと思うが。


 「来栖くんって非力な方なんだね」


 「弓波が強いだけだ」


 「そっちか」


 ありえる。俺の言い訳とか、男子として弱いということを認めたくないからなのもある。でも確かに弓波が強いというのは本当だろう。


 「あっ、ちょうど30分後が私の種目じゃん」


 「ならあと30分耐えれる遊びをしないとな」


 耐えるという言葉にどんな意味が込められているか、それを知るのはきっと俺だけなのだろう。

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