らしくない想い
現在俺たちは体育祭準備期間真っ只中、なのにも関わらずなぜ俺は結女の家にお邪魔しているか。それはただ普通に散らかした部屋を普通に掃除してくれと言われたから。
これだけなら、掃除が趣味で美少女の家に行けるというメリットまで添えられたことに行かないと答える男はいないし、久しぶりに結女と出会ったんだ、選択肢は1つのようなものだ。だから俺は訪問させてもらったんだ。
しかし来てみれば『掃除』と『普通』という単語から簡単に想像できるほど突破しやすい壁では無かった。
「なぁ、これはさすがに空き巣犯だろ?」
初期の弓波の部屋は、ただ散らかっていただけの部屋。それもなかなか見ないハイレベルの有り様だったが、それ以上に結女の部屋は散らかりを見せていた。
机の上には蓋の無いペットボトルが二桁、机の下にはカップ麺かお菓子の袋か、もうよく分からない見た目に変貌したゴミがある。
それだけじゃない。床には、なんとなんと液体まで溢されていた。
えっ、まじでなんの液体?触りたくないが完全に日が経っていることが分かる。だって色やばいって。毒物仕込んだ時か、料理がめちゃくちゃ下手な人が作った料理で描かれるまさにあれが目の前に存在してるんだぞ?……気持ち悪くなるわ。
「空き巣?そんなわけ無いじゃん。全部私の実力だよ」
「…………」
言葉を失う。私の実力とか胸張って言えることじゃないだろ。
軽い気持ちでやって来たことを過去最大後悔する。だめだ、やはりこれからは美少女一人暮らし=汚部屋という方程式は確立させよう。
「湊くん?」
「ん?あぁ、ごめん考え事してた」
考え事ってか目の前の光景が俺の脳で処理するのに時間が通常の3倍は必要だっただけだ。
「とりあえず始めるか」
「了解です!」
まだ弓波と違って手伝ってくれることはありがたい。だが、結女はこれだけの散らかりを知っていて放置しているんだから弓波より手強そうなのは残念だ。
こうして俺らの掃除は始まった。
まず手を付けたのはこの空間で1番安全であるペットボトル。ペットボトルが1番安全、この時点でもうおかしい。500mlで周りにコップはないのでおそらく口をつけて飲んだのだろう。そうなれば何日経ったか知らないが細菌がパーティしていることは間違いない。
手袋とマスクを装備して攻略する。幸い全部飲み干されているからいいものの、残ってたならプラスでカビもパーティ始めていた頃だろう。
「ペットボトルは最大何日放置だ?」
聞いても聞かなくてもなにか変わることはないが、個人的に気になり過ぎたので聞く。
「んー、多分4日かな」
「4日?4日でこんなペットボトル集めれんのか?」
「使って放置してるのが4日で、その他は自分で洗って置いてるだけだよ」
「なるほどな」
それなら放置なんかしないで全部まとめて洗ってほしい。結女は容姿や表の性格がプラスになったことで、逆に内なる性格がマイナスに向きすぎたパターンだな。
昔ならめんどくさいとかは言わないタイプだったが今では言い始めそうだ。そうなればもう印象が変わりすぎて幼馴染の域を超えるんじゃないか。
それからというもの俺はひたすら掃除に手を回す。結女は予想通りしっかりと働いており、俺がいなくてもやれるんたなと、ここに来て掃除をやらされていることに不満を心の中でぶつける。
――「はぁぁー!終わった」
結女がそう言葉にしたのは開始してから2時間ぐらい?経った時だった。正確には分からない。時計はあっても見てないし、体感でも俺の身の回り時計は当てにならない。
「いや、後1本ペットボトル転がってるぞ」
ソファに腰掛ける結女と床に座る俺との間に1本転がっていた。それを指差して結女が取るように言う。
俺は疲れた。たったの1cmも動けない、いや、動きたくないほど疲労を感じていた。久しぶりということも相まって時間と体力を無駄に使ったのは直すべきとこだな。
「了ー解」
ふわっと立ち上がる。俺にも伝わるほど結女も疲労を感じていたのだろう。そう思うと申し訳ない気持ちが現れるな。
「っあ!足つった!!」
そう言ってペットボトルを取ろうと屈んだタイミングで仕方なく俺の方へ倒れてくる。一瞬何事かと思ったがすぐにそれを両手を広げて受け止める。自然と出たことだ。下心とかそんなことはない。よく言うなら条件反射のようなものだ。
「ってててて、ごめん。大丈夫?って私が大丈夫じゃなかったぁ!!!痛いぃ!」
1人でめちゃくちゃ騒がしいものだ。
俺の体に馬乗りする形のまま足を伸ばし始める。それを俺は微かな胸の高鳴りとともに目にしていた。こんなこと初めてで、久しぶりに出会った幼馴染で美少女という俺をそうさせるのはあまりにも簡単だった。それに俺との距離は0だから余計に。
「ふぅーー、何とかなった……」
痛みが消えたのならなるはやでどいてもらいたいが。
「こうなるから掃除はしっかりしないとだろ?」
「えへへ、ごめんごめん。次からは気をつけるよ」
「分かったなら俺じゃなくてソファに腰掛けてくれると嬉しいけどな」
「あ、あぁ、そうだね」
まったく、これだから美少女というものはダメだ。接近しただけで男の心臓を掌の上で操れるんだから。
まぁ……もしかしたら今の俺が1番ダメなんだろうけど……。
それからは昔の話をちょこっと交えた。無言なんて久しぶりに会う人たちにとって存在しないものだ。笑って思い出してまた笑っての繰り返し。少ない思い出だから共有できる。案外いいかもな。
――「そんじゃ、また学校でな」
「うん!今日はありがと。気をつけてね」
「ああ」
長くも短くも感じた結女の部屋掃除は終了した。夕日はキレイな浅黄。こんな時間まで過ごしていたとは思っていなかった。
そんな中1人帰路につく俺は珍しく、いやもう珍しくもないが俺らしくないことを考えていた。
もしあの時、倒れて来たのが弓波楓華だったなら……と。
思わず鼻を鳴らしてしまった。
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