練習中の約束
体育祭まで残り1週間ほどの今日、俺たちは体育の授業を体育祭の練習に使っていた。
やることは決められていないが基本種目の練習をすることが暗黙の了解のようになっていて、短距離長距離の生徒は走ったり、二人三脚の生徒は息を揃えようと必死だったり、内容はそれぞれ。
俺は障害物競走と綱引きという練習しようにもできない種目を選択し、見事その通りになったので今は頑張るみんなを眺めていただけだった。
ここまでは良いのだが、その場には俺だけではなくなぜか結女もいた。転校して来てからまだ1週間ほどだが、種目は短距離と綱引きだとしっかり決められている。
短距離なら練習は可能。やるかやらないかは自由だが、今のところ練習してない人は俺のように種目的にできない人たちだけなので、結女は練習できるのにしてない唯一の生徒だった。
「練習しなくてホントに良いのかよ」
「ただ走るだけだから今走っても意味ないでしょ」
「それはそうかもしれないけどやるだけいいんじゃないか?」
「んー、気分じゃないもん」
気分じゃない……よく聞いた言葉だ。
それをよく聞かせてきた弓波は1人でグラウンドをクルクル回っている。女子の基準を把握してないため速い遅い判断できないが、多分で言うならめちゃくちゃ速いんだと思う。
「それならわざわざ俺のとこに来なくてもいいだろ。結女のせいで視線も陽光と相まって暑く感じるだろ」
まだ、キレイより可愛い方が好きな時期である男子は弓波より結女を見ていた。女子は圧倒的に弓波に視線を向けている。
だから隣りにいる俺にも自然と視線は飛ばされる。良くも悪くも注目され始めているのは如何なものか。
「そんなに私って注目される?転校生ってやっぱり凄いね」
違うわ!結女が美少女だから注目されてるんだよ。
結女は視線を向けられる方を何度も見渡して確認する。
「なんで俺のとこに来たんだよ」
「え?だってみんな友達と一緒じゃん。あの子もあの子も」
「んまぁ、そうだな……」
言われてみれば友達なら当たり前か、と納得する。しかし悪気がないとはいえ見られるのは好きではない。こういうことにも慣れる必要がこれからは出てきそうだ。
「湊くんこそ何かしないの?」
「できないからな。障害物競走なら走力はあまり関係ないし綱引きも同じだろ」
どうせ俺は短距離であっても長距離であっても練習はしなかっただろうが。
「綱引き私と練習する?」
「やっても意味ないだろ。だからやらない」
「ならここで私とお喋りしよ」
「今してるだろ」
「それもそっか」
ホントに、これこそが他愛のない会話というものだろう。返答はなんの意味も成さず、睡魔に襲われる中の会話のように朧気で何を言ったかなんてすぐに忘れる。
それでも気まずくならないのは昔から縁があるからか、はたまた相性が良いのか。
「今週末って何か用事ある?」
「俺に用事があるとでも?」
「昔の湊くんなら全然あったし、今でも用事作りそうな友達はいるでしょ?だから聞いてるの」
昔の俺なら、当時の結女には陽キャ予備軍のように見えたかもしれないがそれは幼い頃の性格だからだ。幼い頃なんてヤンチャだったし、弓波と結女がいたからこそああやって充実した生活に満足して遊びに誘うキャラになっていた。
真逆だな。
「残念なことにないぞ」
俺からしたら残念とは思わない。そもそも週末に用事が詰められている人なんてさほど多くはないはずだ。
「それならめちゃくちゃ久しぶりに遊ぼうよ」
「何をして?」
そんなことだろうと思っていた俺は当たり前のように聞き返す。最近では誘われることばかりなので空気感で分かるようになってきた。
「遊びっていうかお願いになるけど、家に掃除をしに来てくれないかなって」
俺の中では遊び=どこかへ出かけるor家の中でも楽しめることをするだと記憶してあったので、結女の返答は斜め上をいくものだった。
「いいけど、親は?」
「湊くんと幼馴染だった頃の家から引っ越して今は一人暮らしだよ」
なぜ俺の身の回りの人は一人暮らしが多いのか、それに俺が掃除をさせられるのはなぜか、これはまさに奇跡としか言いようがない。
最近掃除に手を付けれていなかったので頼まれたときは意外とやる気があった。なんでも久しぶりなんて心躍るものだな。
「それなりに散らかってるのか?」
「んー、多分そこまで。普通ぐらいだと思う」
「なら良かった」
普通がどれほどかは想像つかない。でも弓波部屋のような有り様にはなっていないと確信できていた。どんなにひどくてもあれを超えることのできる人間は存在しない。
「週末ってのは良いんだけど、俺結女の家知らないぞ?」
引っ越して来たのはつい最近。俺も知らなければ学校の先生もまだ知らない状況かもしれない。
「大丈夫。それなら私が湊くんの家に行って呼ぶか、後で連絡先交換して教えてもらうかどっちがいい?」
「待て待て、なんで俺の家知ってるんだよ」
「この前こっそり後ろついて行ったから」
「……ストーカーってことか?」
「世間一般ではそういうことです!」
やべぇ。こんな頭のネジが壊れた人は初めてだ。ストーカーをするなんてやられる側は耐えられたものではない。恐怖だ恐怖。まだストーカーされてることに気づいてなくて良かったものの、気づいてたら捕まってたかもしれないんだぞ。
にしても気づかなかった。才能があるってことか?それならなおさらやばいが。
「もうストーカーはやめろよ?何があるか分からないし、普通ならやらないからな」
「分かってます!一生しないよーん」
結女は気持ちが読みにくい。分かってるか分かってないのか、それが俺には分からない。
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