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肯定するなよ




 「用事はないよ。めちゃくちゃキレイな顔してると思ったからつい話しかけちゃった」


 正直に言うが、それには俺も共感できた。無意識にでも話しかけたいと思う、それは昔の俺なら無かったが今ではいつの間にか喋り始めて、それが俺からということがよくある。


 俺もここまで誰かに、それも女子に心を開くなんて思っていなかった。人生何があるか分からないものだ。


 「そう」


 1言返して再び歩き始めた。机に戻ると作業を始めたので俺もすぐに隣へ向かう。昨日も一昨日も流れは同じだ。弓波は俺に来いとも来るなとも言わない。それは俺が来ることを確信しているからで、もし来なかったりしたらちらちら俺の方向を確認する。


 可愛いとこもあるよな。


 「どこ行くの?」


 弓波のとこから戻ってきた結女が不思議そうに聞いてくる。


 「弓波のとこ。体育委員の仕事があるからな」


 「あー、そういうこと!」


 理解が早くて助かる。


 そうして弓波の机に向かう俺についてくる。仲良くなりたいって気持ちがあるのだろう。


 俺と弓波、俺と結女は幼馴染だが、弓波と結女は幼馴染ではない。俺の家を挟んで近所どうしだったのだが、なぜか3人で遊ぶことは1度もなく時が過ぎていった。だからお互いお互いのことを知らない。


 「2人とも気になってるみたいだから先に説明しておくぞ。まず弓波から、弓波は昔俺の左隣の家に住んでた幼馴染。次に結女、結女は逆の右隣の家に住んでた幼馴染だ」


 「え?そうなの?」


 「私以外にも幼馴染いたんだ!」


 驚き方にも違いがある。弓波は信じられなさそうに聞き返し、結女は幼馴染がいた事を嬉しく思い喜ぶ。相性が良さそうな2人だった。


 「近所なのにこれがはじめましてなんて逆にすごくない?」


 「そうだな」


 俺も今思えばなぜ3人で遊ぶに至らなかったのか説明ができない。


 タイミングが悪かったからか、結女の性格を気遣ってからそうしたのか今の俺に過去の俺の考えなんて思い出せないから正確なことは言えない。


 確かなことは狙ってそうしたということではないということ。


 「楓華ちゃんと幼馴染だったら絶対に楽しかったのに」


 「それは分からないわよ?私人付き合いいい方ではないから」


 久しぶりに猫被りをする弓波を見た。言葉遣いもそれぞれ使い分けるんだから意識してやってるんだろうけど、毎回その切り替えをする弓波は尊敬できるものがあった。


 「そうかな?昔だったら案外仲良かったかもよ」


 「……そうね」


 腑に落ちたのか、仲良くないと言うかと思った弓波は1言間を置いた。


 「とりあえずこんな感じで良いだろ。やる事あるからそっちを終わらせようか」


 「ええ」


 とは言っても弓波はもうすぐで自分の範囲は埋め終わるだろうし、結女はすることがないので暇を持て余すだろう。俺に付き合わせてるみたいで申し訳ない。早く終わったら弓波は手伝ってくれるだろうからそれも含めて申し訳ない。


 お礼はしっかりとしないとな。何が良いだろうか、聞くのもありか。


 それから無言が続くことはもちろん無く、コミュ力バケモノになった結女が弓波や俺に次々に質問や気になることをぶつけてきた。


 嫌ではなかった。作業は捗ってるし、迷惑よりありがたさが勝っていた。弓波と結女は初対面。そんな2人の空間に俺が混じっても空気が悪くなるだけ。それをフォローしてくれるのはとても助かる。


 やっぱコミュ力って大切だな。


 弓波は素を出せる間柄ではないのでいつもよりおとなしい。別に結女の前で素を出したとこでデメリットに話が進むとは思えないが。


 しかしそれは弓波次第だ。俺の見方では違うのかもしれない。


 「やっぱりこうやって見たら気になるんだけどさ、2人って付き合ってないの?」


 いい雰囲気になってきたとこで爆弾を投げてきた。


 「付き合ってないが」


 「ホントに?だって幼馴染って付き合えるチャンスの立場にあるし、楓華ちゃんはこんなにキレイで可愛いんだよ?」


 「それはそうだがそんなことは考えたことないぞ」


 「そうね」


 弓波のことを知り過ぎてるが故に、完璧な弓波と何故付き合えないのか聞いてくることに一瞬戸惑った。


 結女はまだ知らないのだ。どれだけ素晴らしい性格を弓波がしているのかを。友達としての立場から見るなら笑って済ませれるからいいものの、彼女としてなら大変だ。……大変だが。


 結女の質問には弓波も同意見のようで頷いていた。


 「ふーん。付き合ってないんだ。それは良いこと聞いたかもしれないな」


 「なんだよ良いことって」


 「2人が付き合わないなら私に湊くんと付き合うチャンスがあるってことでしょ?楓華ちゃんがライバルだったら諦めてたけど、諦めなくても良いってことになったから」


 「冗談だったんじゃないのかよ」


 「冗談だけど、マジでもありかなーって今思った!」


 気分で行動するタイプなのか?恋心あるかないのか知らないが俺からしたら困りごとなんだが。


 「お似合いじゃない?来栖くんと卯花さんって」


 「そう見える?!えへへ」


 交際することに肯定的な発言の弓波、それに照れる結女。どっちにこの複雑な感情を作り出されたか、それがはっきり分かるまで俺は一歩も進めそうにない。


 「来栖くん、手が止まってるわよ」


 「……2人のせいだろ……」


 神山の代わりに結女が来たようなものだ。それに久しぶりで幼馴染だから積もる話もたくさんある。だから無駄話というか思い出話をしてしまう。これじゃマジで間に合わないからほどほどにしなければ。


 ――その日俺はなんとかノルマを達成させ、念の為家に帰っても表を埋め続けた。

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