本当にそれは女神?
翌日、当たり前のように俺たちは教室に明かりをつけ残っていた。弓波の席に俺が出向いているのでクラスメイトの机を借りてる。名前は出てきても顔ははっきりと思い出せない。なんか申し訳ない。
昨日のように表に人の名前を埋めていく中、隣で同じ作業を進める弓波は授業が終われば終わるほど疲れていっていた。理由は俺のせいだ。
どんなことを聞かれているか耳を澄まして聞いてみたら、楓華ちゃん教えてよ教えてよと駄々っ子が現れ、弓波さんに男子友達が……と絶望っ子も現れた。
影響与えすぎだろ。もうインフルエンサーじゃないか。
そんな弓波は笑顔で対応してはその口角も徐々に上がらなくなり、今に至る。
「顔怖いって」
「思ったより休む暇なかったもん」
顔にクマができているわけではないが、そう見える、錯覚するほどゲッソリしている。弓波には似合わない。もっとキリッとしてる方が仕事のできる美人に見えていいんだが、上からものを言える立場ではないのは重々承知している。
「でもそんな私でも可愛いのは罪だよね……」
「どうした。頭もやられたのか?」
共感しかない。どんな顔をしていてもどんな弓波でも可愛くキレイに見えてしまうのはその通りなのだが、自分の口から鼻にかけるような言い方をするのは初めてだ。
今までは否定をしないだけだったのに。
「頭もって無性に嫌な気持ちになる。最低」
「言い方変えるわ。やられたのは頭だけか?」
「少しマシになったね。――これは頭がやられたんじゃなくて昔、私よく言ってたなって思い出したから久しぶりに調子に乗ってみようかと」
「ん?……あーなるほど」
遡ってみると小学校入学前で止める。そこにある弓波との記憶にはハッキリと残っていた。弓波がよく自分の可愛さを俺に伝えてきた記憶が。
あの時は可愛い1択で、あまりの可愛さにうちの親も俺のワガママより弓波のワガママを聞いてあげていたぐらいで、当時の俺は弓波を悪魔だと思っていた。たまに夢にも出てくるから、弓波が出てきた夢はハッピーエンドでもナイトメアと思っていたな。
懐かしすぎる。
懐かしいに、すぎるもすぎないもないが、忘れていた弓波との大切な記憶を遡ることは俺には懐かしすぎた。
「まじで言ってたのかと思ったわ」
「え、まじだよ?ほら、私を見て可愛くない要素ある?」
「……まさにそれが可愛くない」
誰だって同じだと思うが、自分が可愛いと知っていてそれを執拗に誰かに、特に男子に言いまくるのは可愛いとは思えない。しかし、自分を可愛いと知っていてもいい塩梅でネタにもしてくれる子がいるのなら完璧なんだろうが……いないかな……。
「来栖くんならそんな私でも可愛いって思ってくれると信じてたのに――幼馴染として」
「良いように幼馴染を使うな。忘れてないだろうな?弓波は俺と幼馴染だったことを忘れてたんだからな?理由もなく」
「いやー……それはホントにごめん」
「冗談。だからそんな凹むなよ」
ガチ凹みだ。たまにこうやって可愛げを見せるものだからどんなことでも許してしまう。ペットがいたずらして飼い主を困らせた時すぐに許してしまう気持ちが分かる気がする。このまま弓波をペットにしてやろうか。
こうしてる間にも時間は進んでいく。やらなければならないことがまだ残っているのに、やはり弓波はこの時間の俺の敵だ。早く終わらせるのはいいがその後、俺に話しかけることで作業ペースを落とさないでもらいたいものだ。
なんて思っても無言の空間じゃ逆に落ち着かないから話してくれる方が嬉しい。ただ弓波を言い訳に仕事効率の悪さを隠してるだけだな。え、俺最低じゃん。
「あ、俺も思い出したことあるぞ」
降ってきたというのが正しい表現になるか、弓波が昔の俺たちの関係を話してくれたおかげで、俺の頭の中にも昔の関係がどんなだったかフワッといきなり現れた。
なんだか予知夢を見せられた気分に似てる。
「俺が初めて弓波の家にお邪魔して、帰るってなった時に帰らないでーってずっと俺を引き止めてたやつ。今思えば美少女弓波に止められてたんだからそうするべきだったんだろうな」
「……なんのこと?覚えてないんだけど」
都合の悪いことや恥ずかしいことを言われたときにする反応と同じだった。ホントに覚えてないか覚えているかはハッキリしないが、この感じ覚えてないフリをしているのだとこの時は確信していた。
「忘れっぽいんだな。俺が覚えてることほとんど覚えてないって言われそうだ」
「そうかな?……でもこれはホントに覚えてない」
表情や喋り方が嘘ではないと言っていた。ホントに覚えていないんだと理解するのに1秒も必要なかった。
「まぁ、そういうこともあるか。最近まで忘れてたし最近の思い出が濃すぎて忘れることもあるって」
今の弓波に思い出というものはとても大切なものだ。だからそれが記憶にないことは相当なダメージになる。タイミングが悪かったな。
「私やばいかも。今までは頑張れば思い出せてたのに今回はホントに無理」
「やばくはないと思うぞ。俺も思い出せないことはあるからお互いさまってことにして元気出してくれ。あ、うんって言わなかったら休日に今言った思い出をその通りに再現させるからな」
強制させるほうが弓波も楽になるはず。無理矢理なのはあまり好きではないがこんなときは俺の頭ではいい方法というものが思いつかない。
「うん、分かった。じゃ再現する」
「よし、いいぞ…………は?」
うん、につられて流れでいいよと言ってしまったが弓波も変なことを言い出すものだ。なぜうんと答えて再現したがるのか俺には謎で謎で謎だった。
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