バレてもバレなくても同じ
「そんじゃ帰るか」
そんな弓波を前に俺から帰ることを提案する。残っても進まないことは目に見えていたし、時間もまだ余裕がある。
「なんかスッキリしないんだけど」
「それはそれ」
「そもそもまだ残ってるのに帰って大丈夫なの?」
「今週末には間に合う。ここで詰め込んであとでゆっくりするなんて考えは俺にはないからな」
計画性はない方だが俺も怒られたくはないので最低限のことは最低限の力でやり遂げる。たとえギリギリ提出でも間に合えばいい。合格ライン60点の100点満点のテストを60点で終えるタイプだ。
無駄は作らない。
「最近私よりも来栖くんの方がズボラな気がしてきたよ」
俺がいつも弓波の部屋の汚さに向ける目を向けられていた。どんぐりの背比べなのになぜこうもマウントを取れるのだろう。負けず嫌いからなのかシンプルに心配をしているのか。
「少なくとも弓波よりかはまともだと思ってるが」
「いいや、客観的に見れば分かるよ。絶対に今の来栖くんの方がズボラだって」
「……はいはい。俺の方がズボラな人間ですよ」
認めてやる。確かに最近は人の家に掃除をしに行ってないし、弓波と関わることが多いから、そういったことで影響されているかもしれない。自分のことは自分が1番分かっていても、根付いたもの、例えば性格や声、容姿の変化については他人が1番理解しているため弓波の言う通りなのだろう。
録音された声が自分で発する声と違って聞こえるのも、反射するものを使わないと分からない自分の顔の変化も、他人からしたら当たり前だからな。
「でもこれは言わせてくれ。弓波も自分のことを客観的に見たほうがいいぞ。どうせ見てないんだろ?」
弓波あるある。人には言うくせに自分はその対象外。俺はやっていいけどお前はやったらだめ、のようなクズではないのでまだましだが。
弓波は自分にも取れなくて大ダメージとなるブーメランを投げるのでそういったことは続けてほしいと思う。見ていて楽しい。
「見てないけど分かるよ、どれだけ自分がズボラな人か。だからこの時点で来栖くんよりかは上だよね」
「そういうことを言ってるんじゃないけどな……」
どこまで行ってもマウントは取りたいようだ。幼気な弓波から卒業できる日は来るのか?来てほしい来てほしくないの葛藤は微塵もなく、ただただ卒業してほしいという気持ちだけがあった。
「もういいから帰るぞ」
最初に帰ると提案してから何分が経過したのか、それは分からないが弓波と話を始めればそれほど集中して別のことに手つかずになる。やるべきことが多い体育委員である今の俺に弓波が敵として立ちはだかっているみたいだ。
仕事、やらせてくれよ。
そして荷物を持って教室の電気を消しに行く。放課後のためパチっと消しても陽の光でまだ明るさは残っている。部活をしてる生徒の声も聞こえる。こんな暑さと体育祭が近づいているので体育の授業が増えている中で活動ができるなんて尊敬する。
特に野球とバドミントン。野球は暑さ関係なくジャンパーを着せられて活動することがあるそうで、バドミントンは風の影響がどうのこうので締め切った状態になることもあるそうだ。
今の俺なら5分でアウトだ。
そんな部活を頑張る生徒を横目に弓波と校門を抜ける。
「そういえば」
と言う弓波に自然と顔を向ける。
「どうした?」
「今日何回も言われたよ。楓華ちゃんって彼氏いるの?とか、弓波さんは海に行く男子友達はいるんですか?って」
「……見られてたのか?」
弓波の言うことをしっかりと耳に入れた。聞き間違えもない。その上で俺の答えは1つだけだった。
弓波と神山と海に行ったことがバレている、つまりそれを見た人がいるということだ。
「そうだと思うけど」
「それで、なんて答えたんだよ」
「彼氏はいないけどそういった友達はいるよーって答えた」
「反応は?」
「みんな驚いて次の質問まで静かになったよ」
だろうな。あの弓波に、男の気配がない弓波にいきなり男子と海に行ってたっていう噂が立つんだ。昔の俺でもさすがに驚くだろう。
お互い、神山を含めて誰かにバレることは承知の上で海へと出向いたので焦りは感じなかった。逆に近場の海なのに同級生を見なかったこと、そして俺だってバレてないことが信じられない。
「俺だってバラしてないだろ?」
「うん」
「ならいつも変わらない学校生活を送れそうだ」
弓波は毎日のごとく詮索されるだろう。それだけの人気と意外性のあることだ。
今一緒に帰ってるとこを見られたら点と点を繋げられるが、七不思議のおかげでそれはほとんどない。ホントになぜ誰も俺らを見ないのだろか不思議で夜しか寝れない。あ、それ普通か。
「なんだか私が、来栖くんの学校生活を好きなように送らせない券を持ってるみたい」
「なんだよそれ。悪用するなよ」
「それは今後の来栖くん次第。私の機嫌を少しでも悪くしたらその時は終わりだね」
「最低じゃないか……」
1番渡しちゃいけない人だ。海に行く前の弓波なら絶対にしなかっただろうが、今は全然やるだろう。昔よりもさらに知能も身体能力もレベルアップした弓波の快進撃を止めなければ。
――「そんじゃ、また明日な」
「うん。バイバイ」
俺は弓波を送って帰路についた。18時と体感で分かる明るさ。そして夏が遠ざかっていることが分かる明るさでもある。そんな陽の光に背を押されながら。
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