種目は思い出のために全力で
――新波高校の体育祭はおよそ3週間後。準備期間は他校とさほど変わりはない。2週間の高校もあれば1か月もあるので、そう考えると平均的な期間だ。
しかし体育委員として大変なことには変わりない。
クラスメートの種目を表にまとめたり、練習を呼びかけたりとなかなか作業がある。このクラスはグレてる人はいないし、むしろ優等生とか前世で徳を積みまくった人しかいないので作業がスムーズに行かないことはない。
そこが体育委員になってよかったと思えることだ。他のクラスなら上手くはいかない。ホントに良かった。
そんな俺たちはたった今、放課後という時間を初めて2人で学校行事のために居残りとして残っていた。いや、残されていたようなものだ。
クラスメートから預かった第1から第3までの種目希望シートを見てランダムに配置していく。1人2種目は出ないといけないので第1第2希望通りになる人もいれば、運動の得意な生徒は第3でもいいので希望通りにならないことがある。
それは誰もが承知の上でシートを提出しているだろうから希望通りじゃなくても文句は言われないだろう。
とはいえ運動のできる人の中にはわざと苦手な種目をシートに記入してその記入した種目から外れるようにする策士もいるようだ。
別にこのクラスが勝ってくれるのなら何だっていい。俺は並の運動力しか持たないのでここは他の男子に全てを任せる。他力本願だ。
しかし正直勝ち負けは、俺からしたらそんな重要なものではない。楽しめればそれで十分。人生を運動に懸けてる人とは違って取り組む気持ちが緩いのだ。それにまだ1年生だ、好きなように楽しもうじゃないか。
「めんどくさいよー」
1枚1枚、紙をめくっては新しい人の希望を記入する。そんな味のないガムを噛み続けるような単純作業、つまらないわけがない。弓波も限界がきていたようだ。
「どうせ家に帰ってもやらないだろ。今のうちにやっとかないと後で後悔するぞ」
「分かってるけどこの性格上無理に等しい」
「それは俺もそうだから分かる」
弓波の作業より俺の作業のほうが進んでいないという当たり前展開。共感の域にあるのはめんどくさいことだけで、めんどくさがりながらもしっかり手は進んでいる弓波にそこは共感できなかった。
何だかんだ手が進むようになったのは今までの家でしてた練習の成果なのだろうか。まぁそれ以外に思い当たることはない。
「これを今週中って……あー、いけるね」
「逆に今週中にこれを完成させれなかったら重症だな」
今日を合わせて3日も時間はある。記入して我が団の団長に提出するだけなので不可能なことは一切ない。
ちなみに俺たちのクラスは1団に所属し、団カラーは赤色。隣のクラスの神山は2団の青色だ。
「来栖くんは何の種目を第1希望にしたの?」
「俺は障害物競走だな」
「だよねー。来栖くんならそうだと思った」
弓波でなくとも俺を知る生徒なら誰でも答えられそうなものだ。陰キャな俺のイメージにピッタリだろ、障害物競走なんて。
「弓波はどうなんだ?」
「当ててみてよ」
「そうだな……」
なんでもできるから範囲は全て。短距離から長距離、障害物競走や借り物競争など完全実力の種目とほとんど運によって勝敗の左右されるものまでなんでもありえる。
これは運で答える以外道はないか。
「50m走だな」
案外定番なのが選ばれると思った。なにより弓波が短距離に出れば、同じ組に神山という最大で唯一のライバルがいなければ圧倒的に1位だ。
「残念!惜しいね」
「なんだ、てっきり勝ちに行くのかと」
まぁ大抵俺の運なんて信じれるほど、何かを懸けれるほど大層なものではない。当たるなんてほんの少ししか思ってなかった。
「うん、絶対に勝ちに行くから私は1000mにしたんだよー」
「あー、そういえば長距離だと右に出る者いなかったんだっけ?」
「多分そうだと思う」
ズボラからは全く想像のできない体力を持つ弓波。1000mを走れば神山をも上回るスピードでゴールするだろう。日頃から何か体力をつけることをしているのか、そこまでは踏み込み過ぎなので聞きはしないが気になることはある。
「なんで1000m?そういうの嫌いそうだけど」
俺と似た弓波。俺が嫌いなことも嫌いと言いそうだが。
「勝ちたいからだよ。1年に1回、1年生だと一生に1回だから思い出を作りたくて。負けの思い出より勝ちの思い出のほうが嬉しいでしょ?」
「確かに」
1学期の弓波ならきっとこんなことは言わなかっただろう。そんな弓波は俺と関わり始めてから思い出を作りたがるようになった。そして俺も同じように。
2人ともお互いに影響されて少しずつ価値観というか性格が変化していってる気がする。成長というやつかな。
「だからポイントが高くもらえる長距離にしたんだよ」
長距離は短距離よりもポイントが2.5倍ほど多くもらえる。勝ちに行くのなら弓波がそれをもぎ取るのが1番の安全策で確実な作戦だ。
「そうか。――それなら俺も思い出作りのために頑張ろうかな」
「へぇ、珍しくやる気出すんだ」
「それは弓波次第だな」
弓波が頑張る中で楽しさを感じているのならそれは、そんな弓波を見る俺のやる気の原因となる。笑顔だけで男子は幸せになると言われる弓波の笑顔も、初めはそんなのありえないと思っていたが今では違う。
見るだけで癒やされる、やる気が出る、幸せになれる。まさにそれを1番知っているのは俺だった。
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