気持ちは固まりつつある
「それよりお前体育委員で良かったのか?」
「良くなかったら代わってくれんのか?」
「そりゃもちろん。パートナーは弓波だぞ?代わらないって言う男子のほうが珍しいわ」
「……それもそうか」
弓波に対するイメージが完全に初対面時と変わっているので本当の弓波に染められた俺はすっかり学校での弓波を忘れていた。そうだ、弓波は学校でも人気者だった。
「んで、代わるか?」
「いや、代わらないで大丈夫だ」
「正直に言えよ、代わらないで大丈夫じゃなくて、代わりたくないから黙ってろ。だろ?」
「…………」
図星だった。一瞬理由は浮かんだんだ、知らない女子と委員会に所属したくないから少しでも仲のいい弓波と委員会をやりたいだけ、と。でもそれが本当なのに対して、弓波と委員会をやりたくて誰にも譲りたくないという気持ちの方がより強く、本当の理由だったから何も言い返せなかった。
「冗談だ。代わらねーよ、そんなめんどくせー委員会」
確かに倉木が今言ったのは冗談だと分かってた。でもそれがもし冗談じゃなかったら?冗談を言わないやつがそんなこと言ってきたら?知らない関わったこともない人から言われたら?俺は首を縦に振っていただろうか。
……確定してどっちとは言えない。しかし振れていないんじゃないかと思うぐらいには深く考え込んでしまっていた。
相変わらず声が飛び交っている中、思っていたより早く担任は教室に戻ってきた。
「そんな長くなかったしお前たちも早く帰りたいだろうから終わらせるぞー」
今度はざわついた。先生神とか聞こえてきた。これだけで神と言われるなら安くついたものだ。
プリントが配られる。ここらへんの流れは終業式と似たようなものだ。配って目を通して1言ぐらい話して解散する。
「ってことだから明日から授業再開だ。サボらず来いよー」
誰もが乗り気で返事をしない。それに何も言わず帰りの挨拶を交わしてその日の学校が終わった。12時半、ここからは放課後となり部活のない人休みの人は貴重な時間を有意義にするため早く帰る。今日からは長い長い学期の始まりだ。
1分後、教室からは俺と弓波を除いて残るものは誰もいなかった。意外と部活に一生懸命で家での時間を大切にしたい人ばかりなのだと2学期にしてクラスメートの新情報を得た気分だ。
「帰るか?」
机に載せたカバンに顎を載せている。正面から見たいものだがそんなことしてキモがられる。
「言われるの待ってた。帰ろうか」
「どっちが先に言うか、そして言ったほうが負けってゲームを1人でやってただろ」
「さすがは来栖くん、大正解だよ」
俺は荷物を持って弓波の席に向かう。着いたときにはタイミング良く弓波も準備を終わらせていて、スムーズに帰ることができる。
教室を出て隣並びで歩く。
「委員会、良かったのか?」
「正直負けると思ってなかったから何も考えてなかったけど、負け続けるにつれて体育委員なんてなりたくないって思ってたよ。でもなったからにはやらないとだし、来栖くんがパートナーだから全然良かったとは思うね」
「俺と同じだな」
「そうなの?」
「もちろん。だって体育委員とか俺のイメージとしてないだろ?それに運動なんてそんなに得意じゃないし」
できないことはない。得意な球技だってあるこっちゃある。
「だからパートナーが弓波じゃなかったら学校休んでたぐらいだな」
「大げさ。でもその気持ちもわかる」
「さすがは幼馴染」
Win-Winな関係とはまさにこのことか。弓波と体育委員をすることにデメリットがあるとは思えない。あると考えられるのは……男子からの羨望の的になることぐらいだな。
そうなれば体育委員にならなかったそいつが悪い。たまたま弓波と組めたのだから嫉妬されても困る。
ん?待てよ、よくよく考えて見たら今まで幸せをもらいすぎてたから運が悪くなったんじゃなくて、弓波と体育委員になるために運を使ってたのかもしれないんじゃないか?
自分の運の悪さをどこまでも引きずる俺はついには良いように物事を考え始めていた。末期だ末期。
「でもそろそろ体育祭が始まる頃だから活動も始まるよね」
「あーそうだな。……早くね?」
「新学期早々疲れるね」
「お互いにな。まぁ俺は弓波がいるだけで通常より全然楽だけどな」
「それは良かった」
こうやって弓波と堂々と会話をできるのは嬉しい。今までは人から注目されることを避けていたためこうやって教室から帰ることなんて無かった。でも今はもうそんなことは気にしないことになって、誰かから関係を聞かれたら幼馴染と言える。
その幼馴染を忘れてたんだ、そんなこと知ったら男子にどうやってボコボコにされか逆に気になるまである。
倉木も神山もいない。2人がいないのは寂しいことかもしれないが実際そんなことはない。弓波と2人だけの空間なら別に気にしない。隣に女神の幼馴染がいるんだ、親友や天使に目を奪われたりすることはなかった。
玄関で上履きとローファーを履き替える。慣れた作業も慣れない空間によってぎこちなくなる。
「甘いものが好きってどこで知ったんだ?」
会話を続けている途中ふと思った。
「勘かな、それ以外理由はないよ。甘いものが好きかなんて二分の一じゃん」
「勘でもあのときは驚いたからさ、なんで俺のこと知ってるのって」
脳裏にしっかりこびりついている。あの日の驚きが。そして二分の一だとしても何か胸の底を突かれたような違和感も。
ただの焦り、不整脈、勘違い。どれもありえるが弓波が勘だと言うんだ。きっと勘違いだったのだろう。もしそれが勘違いでなければそれでもいい。いつか分かることだ。
帰路についてから1度も会話が途切れることはない。それが仲の良さを証明していて別れが惜しく思える。直接話しをすることに意味を感じる俺は電話があまり好きではない。電話なんて声だけあれば偽れるが、面と向かって話すとそれだけで偽ることがなくなるから。
振りなれた手を弓波がマンションに入るとこまで見送りながら下ろす。
少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです




