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夏休みは自覚と共に終わりを告げる




 そして気づけば俺は落ち着いていた。謎の気持ちも感じない。元から無かったのかと疑うほどあっさりと消えたことに若干、考えすぎかとも思ったが違うことはすぐに分かった。


 謎の気持ち。それは弓波と俺が幼馴染と知って弓波は嫌だと思わないかと心配だったからだ。周りの人間にどう思われてもいい主義の俺がそんなこと考えるわけないと思ったがそれは赤の他人なら。


 今では心から友達として信頼を置く相手に対して嫌われたのなら俺も嫌だ。弓波にもし受け入れられなかったら?そう考えてしまっていたのだ。


 でもそんなことはなかった。


 隣りにいる弓波がそんなこと言う人ではないと分かっていたのに、心配していた俺は友達としてまだまだなんだと自覚するには十分すぎだ。


 「弓波は俺と幼馴染だって会ったときから知ってたのか?」


 なによりこれが気になった。もしそうならいろんなことの辻褄が合う。多々見られた俺を知っているかのような言動。甘いものが好きとかそういうことがすべて。


 「ううん、知らなかったよ。でも来栖くんのお母さんに話しかけられて思い当たることないかって記憶を遡ったら来栖くんだって思い出した」


 そう上手くはいかないか……。


 「遡って何を思い出したんだよ。めちゃくちゃ気になる」


 「来栖くんが転校する前日に――」


 「やっぱなし!言わなくていい!」


 「えー、教えろって言ったの来栖くんじゃん」


 「その俺がやっぱりいいって言うんだから言わなくていいだろ?」


 この記憶は消したいと思うものだ。まぁまだ小学校入学前のことだから年相応のことをしたものだな。うん、懐かしい。


 弓波は神山ほどではないがいじわるが好きだった。今では落ち着いた可愛い女の子だが、昔は負けず嫌いが強すぎて男勝りだったほどだ。


 何度いじわるがイジメになりかけたか……。思い出すだけで今とのギャップに信じられない。


 ここでいいこと、というか面白そうでいじりがいのあることを思いついた。


 「そういえばショッピングモールで言ってたよな?そこまで遊んでないから普通に忘れちゃったって。あれまじ?」


 「……なんのこと?」


 「いやー俺はめちゃくちゃ遊んで楽しい思い出作ってたつもりだったけど、弓波さんにはそんなことなかったですか。それはそれは1人舞い上がって恥ずかしいなー」


 しらを切る弓波のことは知らず1人で演技をする。友達を大切にする弓波なら申し訳無さが出てきて落ち込んだ表情とかそういったテンションの低い系弓波を見せる。


 そんな弓波が見たい。


 「……本当にごめん。ホントは長い間遊んだこととか覚えてたけど恥ずかしくて言えなかった」


 ガチ凹みではないが軽く落ち込んだ様子にやり過ぎたと思いながらもそんな弓波を見ることが楽しかったりする。


 「冗談。別に気にしてないぞ。今こうやって楽しく話せてるならそれで十分だ」


 終わりよければ全てよしではないが、こうやって今を楽しめているのなら過去を忘れていたって怒ったりもしなければありえないとも思わない。


 「ほら、食べな」


 お皿に載せられていた棒状のスナック菓子を手に取り食べさせる。あーん、というやったがこのときの俺にそんな恥ずかしいことだと自覚はなかった。目の前の弓波だけに集中をしていたから、他のことなんて意識外。


 弓波は恥じらいもなく、カリカリ食べていく。餌付けしてるようだ。でも相手は人で、可愛くて毎日こうしていたいと思える。


 「うさぎのほうが美味しそうに食べてるな」


 そんな弓波にいじわるをするのはもはやここに来て当たり前となったかもしれない。何かあればいじれないかと探す。これが神山の言ういじりたくなる良さというやつか。


 「今の気持ちで美味しそうに食べれるわけないじゃん」


 「ははっ、それもそう」


 ムスッとする姿は記憶に残るには十分な刺激だ。もう弓波の表情ならなんであれ刺激が強く感じるかもしれないが。


 しかし、こうやって昔の話をしながら笑顔になれることはないと思っていた。転校を繰り返し友達呼べるほどの関係を築いたこともなく、これからもそうだと思っていたから。しかしその矢先に俺が転校することがなくなったと同時に弓波と出会い、それから歯車が動き始めた。


 神山とも仲良くなれたのも弓波のおかげで、思い出が作れたのも弓波のおかげ。全ては弓波楓華のおかげだ。


 「ありがとな。幼馴染って分かる前にあれだけ俺に嫌がらず接して友達になって遊びにも誘ってくれて」


 「それは私も。気が合う友達になってくれたことも遊びにも来てくれたことも何もかも感謝してる」


 「だから」

 「だから」


 突然2人の言葉が重なる。それも同じ言葉が。この時点で相手が何をいうかお互いに把握した。そして何をするかも。


 「これからも?」


 「お互い?」


 「仲良く?」


 「よろしく?」


 「お願い?」


 「します」


 「ああ。よろしくな」


 俺から始まったこの遊びはなかなかつまらなくて、でも2人だけが笑うには十分なものだった。クスクスと笑い合う今日2度目の時間。この時間を誰にも共有したくないと思う俺は()()()()()だった。


 ちなみに俺は弓波のことを下の名前では呼ばない。昔からそうだった。弓波の親にも下の名前じゃないと分からないと言われたが、弓波のお母さん、弓波のお父さんと呼ぶことで弓波を弓波としてだけで捉えていた。


 「っさ、これから何しますか!」


 涙が出るまで笑ったらすぐに切り替える。とは言ってもやることは決まっている。どうせ見るんだろ、ホラー映画でも。


 部屋が暗くされる。正面にはテレビの光だけで、左右には何も明かりはない。左に弓波がいて右には誰もいない。


 見始めたホラー映画がどう転がるのか、今から楽しみだ。


 ――そして家に帰った時、今年の夏休みの思い出づくりは終わりを告げた。

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