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君が幼馴染で俺は良かった




 夏休みだけでこの家に何度来たことか。見慣れた少し散らかった部屋。部屋中どこを見てもやはり弓波でも簡単に治せるものではないのだと性格の根強さを感じた。


 両親には友達の家に行くと言って出てきた。そんな俺を両親は笑顔で見送ってくれた。きっと安堵してくれただろう。


 もう1つの自分の部屋と思えるほど回数を重ねているが、それほど思いっきりくつろいだりはしない。だらしないとこを見られるのは嫌だし、一般常識として当たり前だ。


 そして今、俺は少しの緊張と謎の気持ちを持ったままソファに座っている。ソファも慣れたもの、空気感も同じ。なのに落ち着かないのは100%母のせいだ。いや、俺たちの過去のせいだ。


 「それで?『罰ゲームをここで使うわ。明日家に来て』って内容のメッセージの本当の意図はなんだ?」


 いくらテレビがつけられているからといって俺と弓波が無言なのは好きではない。何かこの状況を打破するためには、と考えた結果、呼ばれた理由を聞くことだけだった。


 5秒もかからないほどの問いかけでもそれを言うまでにどれだけの時間を要したことか。むしろこんな時間を使わないと話しかけれないほど空気感に押されていることに思考を働かされていた。分からないくせに。


 「聞いたんじゃないの?お母さんから」


 「……幼い頃の話しについてか?」


 「ええ。それよ」


 「聞いたぞ。それがもし本当ならって思ってたときに弓波からタイミングよくメッセージ届いたから、きっと本当なんだって思った」


 声は震えていないだろう。そして表情も何も表に出るすべての衝動を抑えた。落ち着いてますよとアピールしているのだ。


 弓波は落ち着いていた。俺が落ち着かなさすぎているからそう見えて思えるかもしれないが、それでも今の俺には驚きも何も表には出してないように感じた。


 キッチンでコップに飲み物を注ぐ。注ぎ終えるとこっちに来るのだと確定した未来を知れば時間が止まらないかな、なんて思ってしまう。近くに来たらきっともっと落ち着かない。


 「どう思った?私が来栖くんと昔隣同士でよく遊んでた幼馴染だって聞いて」


 俺の気も知らない弓波は問い続ける。弓波には俺に似た感情や衝動は無いのだろうか。なぜそこまで落ち着いていられるのか――なんか元から知っていたような態度をとられているようだ。


 「……今もまだ落ち着かない。あの日もあの日も、思い出せる忘れた幼馴染との思い出の影に弓波を当てはめてる。はっきりと顔まで思い出せないけど、今思えば、すぐに飽きるとことか遊ぶ準備しようって言ったらめんどくさがってたこととか、似てるなって」


 「そう」


 だから今俺はここにいるのかもしれない。昔から気の合う友達なら今でも気は合うだろうし、性格も似ているのならなおさらに。


 それから沈黙ができた。不快でも快くもない。ただ無の沈黙。テレビがうるさく聞こえる。音量なんていつもと比べてめちゃくちゃ低いのに。時計の音すらも微かに聞こえる。


 「どう?私で良かった?それとも私じゃないほうが今の関係だと良かった?」


 そしてその沈黙を破るのは俺じゃなかった。いつもならこの空気を変えたいとか考えてつまらない話を振りかける。でも今の俺にそんなメモリは残ってない。過去を振り返るだけでも相当な集中が必要だった。


 でも弓波の問いかけはそんな俺でも余裕で答えれて、当たり前のものだった。一閃の電気が脳内に通う。


 「弓波で良かったと思うよ。じゃないと今こんなに過去を振り返ったりしないしな」


 弓波と幼馴染じゃなければいいのに。そんなことは微塵も思わない。過去に友達という想いを交わした仲なのだ。それもこんな子と。


 条件反射で答えた俺に予想外だと言う目を向ける。その時にはコップを2つ、お皿を1つお盆に載せてこちらに歩き始めていた。一歩進めば俺の心臓も高鳴るのを感じる。これはどういう意味を表すのか、それは俺でも分かっていた。


 嬉しさが溢れている。


 「嬉しいこと言ってくれる()()()、来栖くん」


 言葉遣いなんて昔のことだから丁寧も何もなかった。好きなことを好きな喋り方で伝える。それが幼い子供というものだ。


 ここで変えたということは距離が縮まったということ。良く言えばお互いの距離を縮めたいと思ったということだ。そう捉える都合が良くて能天気な俺だが、実際そうだと確信に近いものを持っている。


 「そう言ってもらいたかったんだろ?」


 「さー、どうだろうね」


 昔なら「違うし、べー」と言って舌を出していただろうに、大人に近づいたものだ。


 弓波もソファに座る。俺の隣に座るのは距離が縮まったことを表しているのかな。


 そして目の前にある飲み物とお菓子を見て思う。


 「母さんと会ったあとこれ買ってきただろ?」


 「バレた?」


 コップに入っているのはよく2人で遊んだ時に飲んでいたあまーい炭酸ジュースでお皿に載せられたお菓子もよく食べたスナック菓子だった。


 「本当に好きだよな。昔からはこれ、弓波に合わせて用意してたし」


 「違うよ?これは来栖くんが好きだからって私がよく用意してたよ」


 「んなことあるわけ……」


 思い返せばあったかもしれない。あったかもしれないし、なかったかもしれない。そうどちらとも言える理由は今の俺たちには簡単に理解できた。


 「そういえば俺も弓波も同じものが好きだったもんな。これもそうだし遊ぶときはボールを蹴り始めるのは自分だってよく言い合ってたし」


 「あと、1回勝負したら負けた方がもう1回って言って何回も同じことしてたよね……」


 どんどん浮き出てくる沈んでいた忘れた幼馴染との記憶。


 「……ぷっ、はははは!」


 2人顔を見合っては同時に笑い出す。高校では弓波と初めてのことだ。笑顔すら最近ようやく見せてくれるようになったぐらいなのにこんなにも笑顔を見せてくれる。抵抗もない。そんな心の底からの笑みは幸せをくれた。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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