海水浴⑧ 結果は思い出と共に
「だいたいでいいんだけど、弓波と神山どっちが総合的に成績優秀なんだ?」
残る神山になにか話をと思い、適当に気になることを聞いてみる。
「総合的に、か……それなら多分私かな」
迷う間があったが、しっかりと考えた上での答えが自分が勝つという正直なものだった。
「体力は少し私の方が上だからってだけのことなんだけどね。学力に関してはホントに差がないから私たち目線じゃ分かんない」
だいたい予想はできる。友達と休日も遊んだり、体育でもバリバリ動いて部活もしている神山が上なのは当然だろう。でも少しというとこが気になる。圧倒的と言われても違和感はない。
「ふーん。それじゃこの勝負は勝てそうなんだな」
「当たり前!私の全力に勝てる子はいないよ」
自信満々だ。確かに神山に勝てる女子は想像できない。弓波ですら怪しい。ズボラという性格評価からもそう思えるのかもしれないな。
それからしばらくして、パラソルの下から元気になって弓波が戻ってきた。息も整っていて、万全かと聞かれればうんと答えた。
この2人の結果は誰もが知りたいことだろう。最強と最強がぶつかるみたいなものだからな。矛盾の語源と同じだ。
「そんじゃ準備をどうぞ」
同時にうつ伏せに構える。こうして見ると弓波の身長が高いということがよく分かった。神山と比べれば6cm差があるが立って横に並んでもそんなに差はないように思える。それが寝転がればはっきりと分かる。
それにしても女子で163cmでおとなしい性格って単語と顔が似合い過ぎていてびっくりする。163cmで可愛い顔をしているならギャップとかあってそれもまたいいかもしれないが、クールもしくはカッコいい顔をしている弓波にこの身長は顔をよく見せる最大の長所だと思う。
準備を整え、俺の掛け声を待つ。このまま放置してやろうかとも思うがさすがにそこまですると仕返しが大きいのでやめておく。まだやりたい衝動はあるんだけど。
黒髪ロングVS黒髪ショート、どっちが勝っても面白い勝負、その結果とは――。
「よーい」
今度ピクッとしたのは神山。力が入りすぎてるんだろう。やる気があるのはいいことだ。しかしそれが敗北に繋がらなければいいのだが。
「ドン!」
手は動かさない。口だけでスタートの合図をする。
始まる前に予想をしていたが、この勝負はおそらく神山が勝つだろう。詳しい理由はなく、適当な俺の勘だ。
2人ほぼ変わらぬスタート。まぁ1秒もかからないから変わらないのは当たり前かもしれないが。
先程よりも速く走ってるように見えるのは客観的に見ているからか、それとも本当にそうで俺と勝負するときより必死になっているのか。どちらであれ弓波の真剣な表情には惹かれるものがあった。
これ体育祭かよ……。
あまりの本気さについ思ってしまった。
快晴から送られる陽の中、そして炎天下の中で誰もが目を惹かれるビーチフラッグは1人の美少女がダイビングキャッチすることで終わりを告げた。
――「あぁー!疲れた!」
砂浜から自宅までの帰路につき、神山が背伸びをしながら疲れを吐き出すように言葉にする。
「だね。私もこんなに疲れたのは初めてかも」
弓波は変わらず余韻に浸っているのか、微かな笑顔が消えることはなく疲れたー疲れたーと独り言のように連呼している。
「ビーチフラッグではしゃぎすぎたな」
「あれは仕方ないよ。私が楓華に勝つチャンスでもあったんだから」
「そうよ。来栖くんには私たちの優劣をつけたい気持ちが分からないでしょうけど」
「競う相手がいないからな。そりゃそうだ」
倉木と競っても負け負け負けの連続。勝てる未来は見えない。だとしてもそこまで優劣決めたい負けず嫌いな2人ほど真剣に何かに取り組んでるわけでもないから結局たらればの話でしか存在しない。
「まぁなんだかんだちょっとしたことだけど、どっちが上か決まったんじゃないのか?」
「まぁね。私が上ってことだね。楓華」
「たまたまだから結奈が上とは認めないよ。次、何か勝負するときあったら私が勝つもん」
僅差、手のひら1つ分の差で神山が旗を掴み勝利した。悔しさをにじませながら下唇を噛む弓波は俺の弓波という本に新たなページを作った。
現に今も負けを認めず、幼気な少女になっている。こんな弓波を見たら何人の男子が心を打たれることか……。想像するだけで二桁はいきそうだ。
「どうだった?初めての海は」
「さっき聞かれたことと変わりないよ。悪くはないって思う。まぁそれと思い出を作るなら海もありって思ったかな」
「そっか。じゃ海行けて良かったね!」
神山の笑顔は男子を救うな。この笑顔を見れただけでも思い出にできそうだ。
ホントのことしか言ってないが、隠してることはもちろんある。また海に行くなら、これから思い出を春夏秋冬どの季節でも作るなら一緒がいい。
口に出さないのは恥ずかしいから、それ以外ない。
陽は落ちかけて、影が自分の身長の倍ほど前に伸びている。左には女神がいてその左には天使がいる。夢であれこんな幸せな夢を見れたのなら俺は起きてる間にどれだけ得を積んだのかと思う。それなのに現実で2人と海という夏の定番であれど思い出を作れたのは、これから俺に良くないことが起きるのか心配になるほど陰キャの俺には眩しくて――でも手が届くことを当たり前だと思うほどの仲になれたことが今日1番嬉しかった。
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