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海水浴⑤ 自分のことが分からない




 俺ももちろんかき氷は食べる。つまりは3つ買ったのだが手は3本もなく、弓波と神山のかき氷を両手に持ち俺のは右肘の内側と体で挟む。そして服にブルーハワイの色がつかないように気をつける。


 イチゴとブルーハワイという定番中の定番を買ったが、おそらくフードコートで以前失敗をしてから挑戦しに行くのをやめたのだろう。


 こぼさないように丁寧に慎重に、足早に戻る。溶けてしまっても、帰ってくるのが遅くてもまたガミガミ言われるのでなるべくそうならないように。


 いいペースで戻り続け、パラソルが見えたとき同時に弓波と年上だろうか、ここからでははっきりと区別できないが若い男性が2人見えた。


 その瞬間俺は確信できた。これがナンパというやつか!


 初めて生で見たが、本当にやる人がいるのだと珍しい昆虫を見つけ、はしゃいでいた幼き頃を思い出す。


 さすがは弓波だ。容姿だけで人を魅了するだけある。あんな美人が1人でパラソルの下にいるのなら話しかけようと思うのが男としての本能なのかもな。俺は別に……いや、なるかもしれない。


 とりあえず俺は弓波が困っていそうだったので急いで駆け寄ることにする。早ければ早いほどいいだろう。


 先程まで慎重に運んでいたかき氷のことは忘れ、多少こぼれても無視して走る。


 あれ、なんで俺はこんなに焦っているんだ?


 ?がつくということは自問しても自答することはできない。それが分かっていても弓波に駆け寄る俺の焦りの原因が知りたくてムズムズした。


 頭の中は切り替わることを知らない。もう5mのとこまで来ても焦りの正体は分からぬままだ。


 「あの、すみません」


 着いた場所で俺はスムーズに言葉を発することができた。自然とこの言葉をこのタイミングで言えと言われたかのようなスムーズざ。とっさに出たとはいえナンパを止めるための第一声にしては問題ないだろう。


 「おっ、おう。兄ちゃんがこの子の彼氏さん?」


 上裸で筋肉をピクピクさせててもおかしくないような強面の人たちが、何かに怯んだように言葉を詰まらせる。


 「彼氏ではないですけど……」


 「そ、そうか。とりあえずこの子の連れなんだろ?わ、悪かったな。そんじゃ」


 表情は変わらず怯えたまま。何があったのだろうか、それを理解するには弓波に聞く必要があった。初めてのことばかりで謎が多いな。都会の海は。


 強面の2人はどこかへ行ってしまった。またナンパでもしに行くのならメンタルも強靭だ。


 「大丈夫だったのか?ナンパだろあれ」


 「別に。あれぐらい1人でどうにでもできるわ。それよりかき氷頂戴」


 「あ、あぁ」


 機嫌は相変わらずだ。ツンツンし始めていていつになったら収まるのか未知数なので刺激するのはやめとおく。


 「慣れてるのか?」


 「慣れてるわけないじゃない。ただ……」


 「ただ?」


 「来栖くんと結奈に対するムカつきをぶつけただけよ」


 言われてやっと気づいた。あのムキムキ2人がなぜ怯えていたのか、それは弓波のサンドバッグにされたからだ。ナンパのタイミングが悪かったな。それにしても相当メンタルを抉られた顔をしていたので、やはりナンパはやめておいたほうが良いようだ。


 「1人でも対応できるんだな」


 辛辣な言葉を浴びせることに抵抗はなかったらしく、ああいう人たちは現実を見せてやるのが1番と言って、容姿からナンパをする性格までダメダメと酷評してやったという。怖すぎだろ。


 「私を助けようと、急いで来たの?」


 「まぁ、一応な」


 「ふーん」


 かき氷を頬張り、幸せそうな顔を見せる。何度見ただろうか、もうここに来て笑顔を見せることに抵抗はないようだ。こぼれたことには何も文句はなく、ただありがとうと1言返された。


 「ナンパされたのってあれが初めて?」


 「ええ。そうよ」


 「ホント、よく対応できたな……」


 ナンパでなくともそれに似たようなことはされたことあるのかもしれない。だから慣れてるとかありそうだ。読者モデルとか芸能界とか。


 そんな世界線で働く弓波を見るのも面白いかもしれないが、やはり今を越えることはないと思う。弓波と関われていない世界線でもあるのは、今じゃ考えられない。


 俺はこれまでバタフライエフェクトを完璧で乗り越えてきたんだろう。そうでなくても、過去が良くなくても未来が良くなくても今が幸せならそれでいいがな。


 「何を考えてるの?」


 足を曲げてそれを両手で抱え、顔だけ傾けさせたままこちらを見てくる。かき氷は下に置いてありまだ半分も残っている。


 インパクトがすごかった。見続けたら頬が赤く染まるのも時間の問題と悟った俺は、気付かれないように視線を逸す。


 「ここに来れたことについて考えてた」


 弓波を前にしてから、焦りの理由を探すこともその答えがないことも考えることはなくなっていた。


 「感傷に浸ってるの?」


 「違うことないけど違うな。こうやって弓波たちと海に来てみると、意外とありかもなって思ってたんだ」


 「そっか。私もそう思う()()。こうして結奈以外の友達と海に来れていい思い出ができた()


 弓波の言葉遣いが今だけ変わったのは少しでも近くに慣れた証かもな。


 陽はまだ上にある。パラソルのおかげで俺たちの影はできない。この空間に俺と弓波しかいないと錯覚してしまうほど波音が響く。きっと今の俺たちを見れば恋人同士と思うだろうな。


 いや、やっぱり()()()()()()か。

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