海水浴④ クールな美少女でも幼気なとこはある
何をしても今の俺に弓波は可愛いく、おかしく、面白く映ってしまう。これを幸せな時間と言うのなら正しい。
勝負をしていた息止めより少し長い潜水を経て顔を見せたとき、その顔にまだ赤みは残っていた。まぁ1分強で消えるものでもないか。
「2人とも最低ね。絶交案件よ」
「ホラー映画観てたときも神山に絶交とか言ってたよな。そんな簡単に縁切れたらたまったもんじゃないぞ」
「うるさい。そんなことはどうでもいいのよ。ホント、空気の読めない男ね」
「ふっ」
言われた言葉は辛辣でも、痛くもないし刺さらない。逆に面白くて、弓波が言いそうもないことを聞けたのは新鮮だとポジティブに捉えている。
笑い涙を流す神山、頬を赤らめる弓波。2人がこの時間を楽しんでる中俺はそれを遥かに越える充実を味わっている気がしていた。
「どうする?もう一回やる?次は真剣勝負で」
息の切れている弓波には不利なので真剣勝負とはならないだろうが、3人同時に潜り始めてふざけなければ真剣勝負とみなすと勝手に思っているので関係なく発する。
「やるわけないでしょ」
「えー私はまだ潜ってないからやりたいなぁ」
人差し指を唇に当てて誘惑する女性を強調した煽りで弓波に再戦を求めている。恥ずかしいが最高に笑える。
「じゃ、これで最初に顔を出した人が負けってことで。負けた人は罰ゲームにしましょ」
「オッケー」
煽りはバリバリ効いていた。ムカつくと独り言をこぼし何度も水面を叩く。しかし力は弱く女の子らしさを感じさせてくる。
「いくよ、よーいドン」
3人同時に潜る。ここまでは先ほどと変わらない。一瞬目を開けると神山もしっかり潜っていてこのまま続行することになる。
目を開けたのは一瞬だったがそこまで痛くなかったし無理も感じなかったので今度は少し長めに開けてみる。すると何の痛みもなく開けていられる状態は保てた。
周りは屈折する光でうまく焦点が合わない。それでも2人は見える。どんな顔して潜っているのか見てみると、頬を膨らませ何とかして最後まで残ってやるという気を出す弓波に目が惹きつけられた。
さっきから見る普段では見られない弓波に笑みを何度も作らされてきた。可愛いとも思わされた。神山ではそうは思わなかっただろう。現に神山を見ても可愛い以外なんとも思わない。ギャップに惹かれるタイプなのか、俺は。
今ではこんな華奢な体から想像できるのは、真面目な弓波じゃなくてズボラでどこか抜けてる弓波。いつからそうなったんだろう……いつから……。
「!?」
考えることに集中しすぎて息が続かないことに気づくことができなかった。苦しくなり続けた上での限界を迎えた俺は1番に海水の抱擁から抜け出した。
これほどまで弓波に惹かれるとは……殺されるとこだった。
そしてしばらくせずに神山、弓波と顔を見せる。2人とも息絶え絶えで、負けず嫌いなのがよく分かる。
「はぁ……どっちが……先?」
「俺が先だな」
結果を伝えると一瞬で弓波の目の色が変わった。
「はい来栖くんの負け!息切れしてた私にも勝てないなんて話にならないじゃん!バーカバーカ罰ゲームは来栖くんで決まりだよ!」
盛大に煽られる。それもいつもの喋り方ではなく神山と話すときと同じだった。俺にはそっちのほうが驚きで、煽りなんて全く気にすることはなく、ただただ初めて俺とその喋り方で接してくれたことに嬉しさを噛み締めていた。
「そうだな。何にするんだ、罰ゲーム」
「かき氷買ってきて!私はイチゴ味!結奈はどうする?」
「私も同じでいいよー」
「ということだから早く行って、シッシッ!」
「はいはい。女神様の仰せのままに」
「楓華、私たちも1回上がろっか。水分補給しながら休憩しよ」
3人とも休憩することになり砂浜に向かって泳ぎだす。上機嫌になった弓波は満足げに俺を睨む。もしも最下位が神山ならどうなってただろう。いや、同じだな。
鼻歌を歌っているがなんの曲かは知らない。伝わるのは今の気分だけ。
「それじゃ行ってくる」
「私はお手洗い行ってくるねー。寂しく1人で待っててね楓華」
「分かった」
バラバラに行動するのはここに来て初めて。全員だんだんと疲れてきているのだろうが、片鱗も見せないのはもともとの体力が半端ないからかもしれない。
途中までバリバリ元気な神山とかき氷を買いに行き、そして1人になる。
店の前にあるメニュー表を見るとやはりここでも期間限定のものはあるらしくさくらんぼやブルーベリーといった珍しい味がある。珍しいかは俺の基準なので世間一般ではどうなのかは知らない。でもかき氷でブルーベリーとかさくらんぼは聞いたことないので珍しい部類だとは思う。
ってかかき氷に期間限定ってほとんど意味ない気がするんだが。夏が旬だからさくらんぼとかブルーベリーなんだろうけど、夏以外にかき氷を食べる人はそんないないだろ。アイスで食べるぐらいしか。
列に並びながら何にしようか悩み、独りでわけのわからぬことを考えてはツッコむ。これがボッチ陰キャのあるあるだ。悲しいかって?そんなことはない。だって今では3人も友達ができたから。それも1人は男子の中でも人気な倉木で1人は隣のクラスにいる陽キャの頂点である美少女神山で、最後の1人はめんどくさがりでそれ故対応がめんどくさくてズボラで、だけど何故か悪い気はしない気の合う美人弓波だ。
これ以上ないメンバー。なぜこんなことになったのか、その発端は思い返すとやっぱり弓波だった。
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