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海水浴② 弓波ってまさか




 俺が戻って来たと同時に弓波も1人で戻ってきていた。


 「どうした?もう飽きたのか?」


 「そんなことないわ」


 あれだけ楽しみにしてたんだ、まだ遊び足りないのが当然だな。


 「暑いから脱ぎに来ただけよ」


 「あー、じゃ褒める準備するわ」


 「そういうの口に出すものじゃないでしょ。やっぱり来栖くんは変わってるわね」


 「左様で」


 世間一般ではこの立場にいる男子みんなドキドキして、なんて褒めようとか考えたり、自然と褒め言葉が浮かんでくるんだろうけど俺はそんなことなかった。普通がわからないし、ドキドキするほどの恋愛的好意を抱いてないから。


 上着だけでも破壊力あるんだから脱いだら相当なんだろう。楽しみにする気持ちは世間一般と同じかもな。


 白の上着、水着用のやつかよく分からないがそれを脱ぐ。脱ぎ方がエロく思うのはそういう目で普段から見ているから?いや、弓波だからだろう。


 「はい、どう?」


 脱ぎ終え、両手を腰に当て早く褒めろと催促する。


 「んー、やっぱり俺ってなんで弓波に平常心で接せてたか分からないわ。スタイルと頭はいいんだな」


 「最後の言葉引っかかるんだけど。性格悪いって言われてるようでいい気持ちじゃないわ」


 「それは悪ーございました」


 そうは言っても微かに赤い頬は嘘はつけなかったみたいだ。日焼けのせい?それもあるな。でもそれは日焼け止めが効いてなかったら、だけど。


 クロスホルタービキニというやつか、首元でクロスされ、黒を基調としたシンプルデザインの水着。弓波に対して黒のイメージがあるので今の弓波と俺の解釈は一致していた。めちゃくちゃ可愛くて、見方を変えると一瞬見えるカッコよさが見てる側を贅沢な気持ちにしてくれる、そんな姿だった。


 弓波と神山どっちが可愛いか聞かれれば今なら――答えれるだろうか。いや、答える必要はないな。


 「それじゃ今度こそ行きましょ!来栖くん」


 ここに来て1番の元気、そして――今までで1番の笑顔。不意にドキッとしたのは不整脈でも、悪いとこを突かれたからではない。そうした弓波と過ごした中で感じたことのない気持ちに戸惑う。水着を着ているからと言うことも考えられるが、それだけじゃこんなに高鳴ることはないだろう。


 弓波のこんな満点の笑顔を見たことはない。見ることはないと思っていた。


 さすがに戸惑いを隠すことはできず、どうしたの?と聞かれたときは言い訳が思いつかなかった。結局なんでもないとしらを切った。


 「ふー、行くか」


 切り替えの深呼吸をして弓波を追いかける。


 距離はそんなに無かったが走る。そして弓波の背中まで2mまで来ると、目に入れた光景に先ほどと同じぐらい心臓が跳ねた。


 弓波の背中に見えにくいが傷跡が残っていたのだ。


 それだけでそんなに心臓が高鳴るのかと思われるかもしれないが、俺にはちゃんとした理由があった。


 女性に傷をつけてはいけない。なぜなら一生残してしまう傷跡になればそれだけで精神的にダメージを負うから。そう言われるほどだから傷跡があることに驚いたのも1つの理由だろうが、なによりも――俺の幼馴染も背中に傷を負っていたことを思い出したのだ。


 そう、傷を負ったのが俺とその子の幼馴染の始まりだった。


 「ごめん弓波、ここで体操してから海入る」


 「そう、分かったわ」


 海に入る前は体操をしないといけないという教育が役に立った。俺は冷静になる時間が欲しかった。まずは整理をしなければ。


 体は自然と屈伸から始めた。しかし意識は弓波の背中の傷跡にある。


 そしてアキレス腱を伸ばすまで体は体操を進めていて、その時やっと俺は冷静になることができた。帰ってきたのだ。


 ただ同じとこに傷跡があっただけ。それに弓波も幼馴染じゃないって言ってたからきっと偶然だ。そう、偶然じゃないと信じれない。


 再び深呼吸をする。それから体操も終えて2人がキャッキャして視線を集めているとこに向かう。浮き輪に掴まって何か話しているようで、ここでも仲の良さを発揮しているなと感心する。この2人は一生友達でいてほしいとふと思う。


 俺も一応浮き輪は持っていく。泳ぐのは得意だと思うが万が一に備えておくのは大事だからな。


 1足踏み入れれば冷たい海水が、砂によって温められた足を冷やしてくれる。とても気持ちがいい。これが海への第一歩で悪い気はせず、むしろこの感覚は好みだった。一歩一歩前に進む。


 「どう?初めての海は」


 胸元辺りまで海水に浸ると浮き輪に両手と顎をのせて近づいてきたのは弓波。先ほどの背中の件が蘇るがすぐに忘れる。


 「思ってたよりはいいな。なんか落ち着く」


 「それは良かった。これで来栖くんも夏休みの思い出ができたんじゃない?」


 「そうかもな。家に帰っても覚えてたら次会ったとき感謝を伝えるよ」


 「逆に覚えてなかったらそれはそれですごいわ。私たちと遊んで思い出にもならないなんて」


 「ふんっ、相変わらずだな」


 自分の容姿がいいことを知っているからこそ言えることだ。鼻にかけているというほど自慢もしてないし、冗談で言っているようなのでうざいともダルいとも思わない。これが美人パワーだ。


 「2人ともーこっち来なよー」


 少し離れたとこで手招きをしている。おそらく足は届いてないだろう。


 弓波と顔を合わせお互いニコッとして神山のとこに向かう。

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