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俺と女神の出会い③




 「よくもまぁこんなになるまで放置できたな」


 リビングは洋服がカーペットのようになっていて机の上にもズボンだのタオルだの置きっぱなしになっていた。


 「私も掃除をしようと思ったけどこれ見たらやる気なくなって、それからどんどんと……」


 内弁慶ここに極まれり、だな。学校では誰がどこから見ても完璧という女子だが家の中ではスボラなんだから。多分こっちが本当の弓波楓華だろう。


 「人気者は疲れるのか?」


 「いきなりね」


 「違うのか?」


 「……疲れないことはないわよ」


 学校では偽りの自分で生きていかなければならない。だから本当の自分を出せるのは家の中だけだ。昨日見た疲れが溜まってるような顔は見間違いではなかったようだ。


 そうなればこんな部屋になるのも納得できる。同じ立場なら俺だってやる気が出ない。


 「無理しない程度に手伝ってくれればいいから」


 「ええ、ありがとう」


 あまり無理をされるのは好きではない。俺も昔掃除をしすぎて倒れたことがあるからだ。疲れている人に無理を強要するほど俺は鬼ではないしそもそも一人でやる方が好きにできて楽しい。


 そうして俺は自分の持ち込んだ道具から何も取り出すことはなく、掃除という整理整頓を始めた。


 弓波の部屋は汚れているではなく散らかっているなので物を元あった場所や邪魔にならないとこに整理するのが今日の目標になる。


 まずはタンスから1番離れた洋服たちを1つに集める。1回ずつ取っては畳んでを繰り返すほど時間の無駄になることはない。


 それにしても量が多いこと多いこと。女子はやはり美に関して妥協は一切ないのだと分かる。


 「なぁこんな散らかってて邪魔にならないのか?」


 「慣れたわ」


 「慣れるなよ」


 思わずツッコむが誰でもそう思うだろう。いやー慣れって怖いな。


 「みんなの家もこれが普通じゃないの?」


 「それを本気で言ってるならめちゃくちゃ心配するぞ」


 「……冗談よ冗談……」


 マジのやつだな。世間知らずなのかズボラはこういう考えに自然となるのか分からないが弓波は重症のズボラだ。


 なんだかんだ弓波は動いてくれていて思ったより早めに1箇所に物が集まった。俺がいるので学校モードが入っているのだろうが俺がいなくてもこうあってほしいものだ。


 「そんじゃ畳むか。弓波は休んでていいぞ、疲れてるだろ」


 「ええ、それじゃ甘えさせてもらうわ」


 「ああ」


 もとは俺一人でやる依頼だ。ここまで手伝ってくれただけでも感謝に値する。


 弓波はソファに座りテレビをつける。そうしたら普通テレビを観ると思うのだがなぜか弓波は俺を見ていた。


 「なんだよ。俺になんか面白いものでもついてるのか?」


 「来栖くんの見様見真似すればこれから来栖くんを呼ぶ必要なくなると思って見てるのよ」


 「そういうことか。しっかりしてるな」


 「当たり前のことよ」


 テレビの音は静かな空間が気まずいと思ったからなのだろう。そうせずとも弓波なら持ち前のコミュ力でどうにかできそうだが。


 相変わらず俺の考えは他力本願だった。


 それでも俺の手は止まることを知らず次から次に山の標高を低くしていく。そして隣にはきれいに畳まれた服の山が新たにできる。それが楽しくて楽しくて仕方なかったとき俺の手は自然と止められた。


 「弓波、ここにあるのって全部洗ったやつ?」


 「ええ、選択するものは全部洗濯機の前のカゴに入れてるわ」


 「おっけーおっけー、それじゃこれは見てよかったやつ?」


 そうして俺が手にしたものは弓波の下着一式だった。洗ってなければお互い終わっていたが幸い、洗っていてよかった。


 「……そ、それは……ダメよ」


 やらかしたぁ!そりゃこんだけ服が散乱してたら下着もあるよな。なんで分からなかったんだ俺!


 あまりの散らかりぶりに気を取られてそういうことに意識が回らなかった。申し訳ないな。


 「それじゃ下着とかは自分で畳んでもらえるか?俺は……テレビでも見とくからその間にさ」


 「え、ええ」


 結局気まずくなってしまった。弓波も恥しそうだし、それを俺に見せないように隠そうとしてるとこがより恥ずかしさを芽生えさせる。


 ちなみに、まじでちなみになんだが、下着の色はどちらも黒だった。


 テレビを観ていても脳裏にこびりついたものは忘れられず申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 「終わったわ」


 「あ、うん、ありがとう。ごめんな、見てしまって」


 「いいわ、別に気にしてない」


 絶対気にしてますやん!気にしない女子とか今どき幼馴染でもいないですよ弓波さん!


 弓波の下着を見て少し、他の男子に対しての優越感に浸り、その自分をすぐ殺して再び畳む作業を始める。さすがに好きなことに集中するとポカンと忘れるようで俺はすぐに手が止まらなくなっていた。


 その間も弓波は俺を見ていた。いや、正確にはもしかしたら下着が出てくるかもしれないので俺が手に取る前に見つけようと目を光らせている。


 しかしそんなことはしっかり者の弓波が起こすわけもなく俺は最後の洋服を畳むことで部屋の散らかりは片付いた。


 「はぁー長かった」


 背筋を伸ばし疲れを飛ばす。畳み続けることなんと30分。普通ではありえない記録だ。


 「お疲れ様。はいこれ、お茶しかないけど飲まないよりましでしょ?」


 「ありがたく頂戴します」


 クーラーだけでも全然事足りるほど暑さはしのげているのだがそれプラスで冷えたお茶を飲むことで暑さを忘れる。多分弓波のお茶を飲んだのも男子では俺初かもな。


 またもや優越感に浸る。日頃陽キャにマウントを取られているぶん躍起になっているのだ。恥ずかしいかもしれないが誰か見ているわけでもないので気にしない。


 そして俺は一息に弓波からもらった麦茶を飲み干す。弓波は麦茶派なんだということもついでに覚えておく。


 「とりあえず少しマシになったから休憩するよ。休憩終わったら机とかきれいに並べ替えるから」


 「ええ、ごゆっくり」

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