俺を呼んだ理由とは?
夏休みに入り、過ぎること5日。炎天下に晒されることは当たり前となった頃、俺は弓波の家に向かう。玄関のドアを開けた瞬間から今まで外を歩くことを後悔しているほど暑い。
すれ違う人は皆、半袖かノースリーブで黒からなるべく遠い色の洋服を着ていた。そんな中俺も恥ずかしくない程度の着こなしをして通り過ぎる。色は黒に近いかもしれない。黒は熱を吸収しやすいが紫外線を吸収しにくいとかなんとか。そんなことを聞いたことがあるため紫外線を熱より敵と考えている俺は優先順位を考えて熱と紫外線をより吸収できる服装をする。
それでも暑いのは耐えられない。実際感じる熱より見えない紫外線を優先するのも、あーいいや、ってなりそうだ。
「まじで暑いな……なんで俺が……」
俺がなぜ今弓波の家に向かっているのか――それは昨日の夜に遡る。
――4日目になり夏休みというものを過ごしている実感が湧いてきた頃、風呂上りに見たスマホに1件のLINEが入っていた。その相手はもちろん言うまでもなく弓波楓華。
名前を見たとき真っ先に浮かんだのは弓波の家の荒れた状況だ。わざと散らかしていたとしてもわざととは思えなかったあの散らかしのセンスと無意識にでも散らかしてしまうほどの散らかしのセンスは脳裏にこびりついて離れなかった。
どんな内容かスマホに顔を認証させロック解除する。このスムーズな流れがとても気に入っている。が、寝起きだと解除されにくいので贅沢を言えばもう少し精度を上げてもらいたい。
そしてアプリを起動し内容を見る。
『明日暇?』
弓波らしい短く聞きたいことだけを送信しただろう文字が目に映る。
「明日暇?……か、これは……」
知っている。仲良くなった女子の『明日暇?』という連絡は回避不可能だということを。いつもなら部屋の掃除の呼び出しと思うのだが俺の頭の中にその選択肢はなく買い物の誘いと自然と確定されていた。
この連絡、暇だよと答えれば、荷物持ちとして来てと言われ、なんで?と濁して答えればうまいかわし方で結局荷物持ちとして来てと言われる。無視をすればもちろん家に凸られる。唯一暇じゃない理由を作れる、誰かの家に掃除をしに行くということも運悪く明日はない。ってかこれから決めようとしてたとこだ。
できたら荷物持ちとかやりたくないんだけど。なんか他のことになってくれないかな。なんて神頼みを今まで何度してきただろうか。
既読をつけてしまったので返信はなるべく早いほうがいいだろう。
『暇だけど』
1言送ってスマホから目を離す。パソコンを起動させよう……と思ったがしても意味がなくなったのでやめておく。夜のこの時間に起動する癖がついているのだ。
そしてすぐ口笛の通知音とともに返信が返ってくる。
『ならよかった。明日付き合ってほしいことがあるのだけれど、どう?』
もう確定したと言ってもいいだろう。これは荷物持ちだ。
『いいよ』
行くことにする。荷物持ちは嫌だが弓波から誘われることは嫌ではない。
『ありがとう。じゃ明日、13時に私の家に来てもらえる?』
『何をさせられるんだ?』
『それは来たときに言うわ』
『了解』
教えてくれていいものを。まだこのときは家に来いと言われたので掃除をさせられるチャンスがあると思っていた。本当はどこか目的の場所に集合とかしないのは弓波がそういう場所にあまり詳しくないだけなのに。
『じゃ、明日よろしくね。おやすみなさい』
『はいよ。おやすみ』
ここで連絡は終了した。そして今に至る。
――朝起きたときはよし行くかと意気込んでいたものの、快晴によってそれが一気に吹き飛ばされるのは笑える。
相変わらずチョコレートのように溶けそうな体を無理にでも前に動かす。弓波の家までおよそ3分のとこまで来てやっと息を吹き返したかのように速くなる。
砂漠のなかでオアシスを見つけたときのように。体験したこともなければ、そういう話しが物語となっている本さえも読んだことないが勝手に共感をする。きっとこんな感じだろうから。
エレベーターに乗る。10階を押すこと、そしてついて1番遠くにある部屋にここまで最悪だと思わされたのは初めてだ。
インターホンを押すとガサゴソ音もなく弓波が出てくる。
「いらっしゃい。ごめんなさい、わざわざ家にまで来てもらって」
「いいや、女神に呼ばれたらどこでも行きますよ」
「そうね。じゃ入って、暑いでしょ?」
「まぁな。ありがとう」
弓波と顔を見て会話するとストレスがふわふわと飛んでなくなるような感じがする。快晴に対してのイラつきも皆無だ。
女神の癒やし効果は万能だな。
玄関で靴を脱ぐとそこにはもう1つ見覚えのある靴が置かれていて、やはりこの2人は一心同体なのではないかと疑ってしまう。
暑さから逃れる一心で弓波の後について見慣れた部屋に入ると神山結奈がソファでゴロゴロしていた。学校でもつイメージとほとんど同じなので驚きもしない。
「神山も女子なんだからもう少し男の前では気をつけたりしろよ」
「ん?来栖くんじゃん。やっほー」
「……はぁ」
聞いていなかったらしい。猫のクッションを抱きながらテレビを観ていて、顔はこちらに向けたもののすぐテレビに戻した。
男子が居るとはいえ、自分の本性をさらけ出せる友達という認識だから結局はこういう態度になってしまうのは仕方ないことだな。
「それで、質問しても意味ないんだと思うけど今日は何用で呼ばれたんですか?」
「これは結奈が言い出したから結奈に教えてもらって」
「神山」
「はいはーい。ヒントは海に行くってことだよ」
体を起こして今度は俺を見る。両手をソファの腰掛けに置きそこに顎をのせる。その姿はまさに男を虜にしそうだった。
そんなことよりもう俺が回答者のクイズというのは決まっていたようでいきなりヒントを出された。こうなることは分かっていたけど。
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