夏休みだけで予定②
「なんのために俺を止めたんだ?」
質問先は神山。
「んーもう答え言ったら面白くないでしょ?だから来栖くんが当ててよ」
「面白くなくていいだろ……」
こう言っては神山は前言撤回するこたはない。ここは当てに行くのが妥当だろう。
でもなぜ止めたのかなんて過去の記憶から推測するにまた家のことについてどうのこうのしろってことだろう、としか思いつかない。それしか帰るときに呼び止められていない。
「ヒントがほしい」
「夏」
「夏?それだけ?」
「ええ。それだけよ」
話に加わってくれたのは嬉しいが弓波の出すヒントはやはりヒントではなかった。神山がヒントを出しても同じぐらい意味不明なヒントを出されるだろうが、これほど簡素で分かりにくいヒントは今まで聞いたこともなかった。
夏……夏……なんだ?
俺の頭の中は乏しい。だから夏ってヒントで思いつくのは祭りや海といったありふれたものばかり。夏にすることでも夏といえばでも知識が少ないので答えを導き出せそうになかった。
「無理、分からないな」
結局降参。逆に当てれるのならその人を一日中称賛できるレベルだ。いつか2人に同じようなことをやり返してみようか……と思っても2人なら難なく「ん?あーこれでしょ?」とか言って答えて返り討ちにされそうなのでやめておく。
俺が2人に勝てることはやはり整理整頓といった掃除全般だけだろうか。悔しいが。
「俺の知識では夏ってワードだけで思いつくのは祭りか海ぐらいだった」
「ほうほう。どうですか?楓華さん」
「合ってるわ。正解は海よ」
「え、まじで?海なの?」
予想外のことに驚く。海なんて行かなさそうな2人だから正解じゃないって勝手に思っていた。夏の知識に乏しいことが正解に導いてくれるとは案外バカも捨てたもんじゃないかも?んなこともないか。
「答えが海だとして海が俺を止めたこととどう関係してるんだ?」
「そんなの1択だよ。行こうぜ、海!」
肩幅に両足を開き右拳を空に突きつけるポーズを取る。ただでさえ元気な神山が、夏休みというバフをかけられて強化されているのでさらに暑苦しい。
そんな中、海に行くという言葉になぜ?という言葉がつきまとっていた。
「ちょっと待て。海に行くって俺もか?」
「もちろんよ。来栖くんを誘わないなら今ここに来栖くんはいないわ」
「ごもっともですけど……」
「あ、拒否権はないわ。強制で海に行くわよ」
「……っすよね」
立場の弱い人は選択肢があっても好きな方を選ぶことなんてできないのだ。今の場合では2対1で俺が弱い立場。賛成してもしなくても行かなければならない。行かない選択肢を選べば俺の家までやってくるだろうし。
ちなみ弓波と神山は俺の家を知っている。理由は神山が俺の後をつけてきたから。普通にやってることやばい。俺じゃない男子なら喜んでただろうが俺は恐怖でしかなかった。
「なんで海なんて行こうって思ったんだよ」
陽キャの集まる俺にとって避けたい場所ランキング5位以内にある敵地だ。
「2年3年じゃ行けるかわからないし、楽しそうじゃない」
「私は楓華とならどこでもいいし、来栖くんは海行ったことなさそうだからこれを機に美少女2人と行った思い出を作ろうじゃないか」
「……2人とも目立つの嫌いなんじゃないのか?」
「海なんて人たくさんいるからそんなこと心配しなくてもいいでしょ。もしバレたらその時はその時よ」
弓波の顔はワクワクを隠せない子供のようだった。どれほど行きたかったのか伝わってくる。少なからずそこには友達と行けるという嬉しさも加わっているだろう。
目立つよりも優先される海に行くというワクワク。今、この2人のワクワクに勝てるものは何もないな。
「はぁぁ、2人がそんなに俺と行きたいなら行ってあげてもいいけど……」
「行きたいわ。友達と行く海は絶対に楽しいわ」
「行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!」
なんで上から?なんて聞かれない。上から言われるのうざい、なんて言われない。2人は自分のワクワクに偽りなく答えた。逆にそれが俺には恥ずかしいダメージとなる。
「今、そんな上から言われたら行かない、とか言われると思ってたでしょ?残念でしたー!あはははっ」
「……最悪だ」
このように神山には笑われる。とても恥ずかしい。でもこれが楽しいと思えるのは俺が微かに成長したからだな。
笑われる側も気持ちいいぐらいの笑い方をするのは神山しか知らない。弓波の笑ったとこはほとんど見たことないし、他の女子についても情報は皆無。
「行くのはいいけどいつ行くんだ?」
「8月になってちょっとしてから。それまでは1人でゆっくり夏休みを堪能するわ」
「そっか。それなら俺もそうする。だから部屋散らかしても呼ぶなよ?」
「善処するわ」
「私は他の友達と遊ばないといけないから予定決まったら教えてー」
計画性のない神山に計画を立てられても本末転倒。でも任せっきりってのも楽で許しがたい。それにしても他の友達……か。
それぞれ夏休みはやることがあるらしい。そのため自由の時間が増えるのはとても嬉しい。2人と遊べることも今では嫌ではなく、楽しいと思い始めている。
「何かあったら連絡するからその時は絶対に付き合って」
「女神様は俺を道具と思ってらっしゃるのですね」
「冗談よ。無理なら断って」
「了解」
冗談とは捉えれても俺が断ることはない。
断っていいよと言わず、断ってと言うのは弓波の優しいところだ。少し強めの口調でそうしろと言われたほうが決断しやすいからな。
こうして俺の夏休みの思い出に花が添えられることが確定した。
「それじゃ今後何かあったら連絡してくれ」
友達と帰ると時間は早く経つらしい。そこまで話していないがいつの間にか2人と別れるとこまで来ていた。
簡単に挨拶をして別れる。そして今後が楽しみと思いながらゆっくり帰路についた。
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