女神と天使との距離
そう、俺たちはホラー映画を見ているのだ。なのにこんなしんみりした話しをするのは実に変だと思う。
なんなら神山の引き込みが1番の驚いたし、弓波がそれを普通と思って気にしてないのが2番目に驚いた。このコンビに空気、雰囲気はあまり関係ないみたいだ。
友達の前では好きなときにすきなことをする。
そんな神山の言う嫌でも関わるというのはきっと俺にとって損ではないと確信している。
そんな中でもホラー映画は進む。中盤に差し掛かった今、主人公の霊を祓うために必要な物を探して集めようとしていたとこだ。だいたい塩とか十字架が必須になってくると思っていたがそんなことはなく、呪文を唱えるために主人公の思い入れの深い物を集める。
呪文でどうにかなるなら霊も大したことないな。
「あの子取り憑かれそうじゃない?」
いつの間にか集中していた様子の弓波がポツリ。
「あの子って誰ー?」
「あの、髪を結んだ子」
その子は主人公の姉だった。弟思いのいい姉のように必死に霊を祓おうと頑張っている。
「こういうのって頑張った人がまたレベルアップした霊に取り憑かれて続編ってやつだと思うんだけど」
「弓波って設定を気にしながら映画観るタイプなのか?」
「違うわ。でも不意に思ったのよ」
「ふーん。当たりそうだな」
弓波や神山の言うことは当たりそう。だってそういう力を持っていても良さそうなぐらいポテンシャルが高いから。女の勘は鋭くてよく当たるっていうのにそれを上回りそうなぐらい覇気がある。
それは見続けるごとに強くなる。
あーこれはもう……。
終盤、家族友人全員緊迫した状態で祓いの儀式が始まる。主人公は手足を拘束され目隠しもされている。もし俺がこの立場なら地獄だと思いながら黙って観る。
お前は◯◯かと取り憑いていると思われる霊の名を呼んでいく。もしこれでどれもヒットしなかったら見てる側としては面白いんだが、そんなことは起こるはずもなくしっかりヒットした。そして騒ぎ出す、定番のやつ。
ここで思ったのは霊ではなく悪魔なのではないかということ。霊の名前なんてそれぞれついているのだろうか。地縛霊とか守護霊とかそういうのなら俺の頭に知識としてあるが。
そんな考え事はすぐになくなった。理由は取り憑いているのは霊で、それも主人公の昔亡くした友達という。それを聞いたときゾワッとしたものが体を駆け巡る。憎悪から取り憑いているのか守護霊として守るために取り憑いているのかで見方が変わる。
そしてついにそれを口に出そうとしただろう、その時――。
「わぁ"ぁ"!!」
神山の元気で、うるさくて、うざくて、イライラさせられる声が聞こえた。実際はそんな感情一瞬で収まるもんだが。そんな俺はビクついた。
弓波も同じようでケラケラ笑う神山に舌打ちをかます。そしてため息をついて叫んだことには触れず頬杖をつきながら続きを見始めた。
ここは一軒家ではない。隣や下の階に人が住んでいるのかは知らないが、マンションでここまで大きな声で叫んていいものなのかそっちのほうが気になる。おそらく防音とか完璧にしてると思うが。
呆れた俺たちを見て神山は満足気に笑い涙をこぼしながらごめんと1言。その1言に気持ちなんてこもっていない。だが悪い気はしないのはきっとそんなことでも笑っていられるような関係だからだろう。
「神山のせいで聞きそびれた」
「結奈絶交」
あまりにも脆い関係のようだった。もちろん冗談だ。
「じゃ巻き戻す?」
反省の素振りもなく嬉しそうに煽る姿はとても楽しそう。こんなにも神山結奈という女子はいい1面があるのに知ってるのは俺と弓波だけ。それだけで天使が似合うと言われるのはなんだかもったいなく思えた。
俺たちは巻き戻すことに賛成し結局憎悪から取り憑いていると判明。まぁそうでなければここまで主人公とその周りを混乱させたりはしないだろう。
めんどくさい関係だ。
先の件も忘れ、集中して見ていたホラー映画もラストまで来た。ラストは呪文が効かなくなりこれ以上取り憑かせたままだと取り返しのつかないことになるということで、登場人物の中で1番耐性の強い姉が身代わりになるということになった。
これはほんの少しの時間稼ぎにしかならないらしく、いつかまた友人が姉を乗っ取る前により強い呪文を完成させないといけない。というとこでエンドロール。弓波の勘素晴らしいということが分かった。
「いやー楓華さすが。大正解じゃん。もしかして見たことあったとか?」
エンドロールはとばさずそのまま一息つきながら1言。
「見たことないよ。偶然」
1人でホラー映画を見るようなタイプではなさそうだからイメージ通り。勝手に思ってるが弓波はビビリな気がする。
「次は何見る?」
「もう次いくのか?早くない?」
「テンポテンポ!」
休憩がほしいとは思うがまぁ無理だな。
テンポよく映画を見るなんて聞いたことない。実際マニアとかならいるのだろう。または評論家とかそういった特別な理由がある人限定だが。
じゃあと言って弓波は選び始める。午後までこの家にいるとは思ってもいなかった。
それから映画は2本見た。たまに驚かしてくる神山に呆れながらも扱いが分かってきたことは大きな一歩だった。弓波は学校では見せない表情をいくつも見せていて、それだけで微笑ましかった。
日が暮れ始める17時過ぎ、やっと帰るということになり少ない持ち物を持って玄関に向かった。
「俺あんまり目立ちたくないから先に帰る」
「えー、せっかく私と帰れるんだよ?帰っといたほうがいいぞー」
「い・や・だ」
「私振られたの初めてだよ」
「だろうな」
そもそも何か頼んだり告白したりする側の人間ではなさそうなので今後含め、これが最後の振られになるだろう。
「仕方ないから私は少ししてから出るよ」
「助かる」
とはいえ神山も俺と帰るつもりはないだろう。ここにいる3人ともに目立つこと、めんどくさいことは好きじゃないらしいからな。
「弓波、できるだけ整理整頓はすること。あと、2日間もありがとう」
「いえ、こちらこそありがとう。整理整頓は気が向いたらするわ」
「気が向かなくてもやるんだ。やらないならそもそも散らかすな」
「……そうね」
正論を言う男はどうのこうの言われるこの時代、俺は気にせず正論を言う。嫌われたりうざがられたらそれまで。
「そんじゃ、2人ともまたな」
ドアに手を掛けるため後ろを向くその瞬間、見えた2人の驚いた様子で、それでもニヤッとする笑顔は泊まりに来たことが良かったと思わせるほど俺の心に印象を残した。
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