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女神の次は天使かよ!




 それから俺と弓波はいつも通り適当なことを話しては時間を潰していた。それから、少しして神山もトイレから帰ってきた。


 神山がいないとこで神山の話しを聞いたが、トイレに行く前と行った後で神山の印象が変わることはなかった。誰しも内面に弱い部分を抱えてる。それが分かっているから驚きはしても『陽キャの頂点』という考えは変わらない。


 自分を少しでも偽らずに人間関係を築いていける人なんてこの世にはいない。でも何故か人はそういう友達を欲しがる。自分にとって都合のいい友達を作りたがる。不思議で仕方ないな。


 「決まった?」


 「決まったよ」


 俺は何もしていない。いや、できなかったと言うのが正しい。神山のことは熟知しているようで俺に何がいいか提案することはなくリモコン片手に検索欄にキーワードを打ち込んでいた。


 どうせ聞かれても、いいんじゃないか、としか答えない。しかし弓波は俺がそう答えることを分かっていそうだった。見透かされている気がするのは何故だろうか、最近の悩み、とまでは行かないが、頭の隅っこに残るムズムズした違和感を気にするのがめんどうだ。


 俺の違和感なんて知らない神山はどれどれと弓波に寄る。今回見るのは日本のホラー映画……ではなく普通に海外のホラー映画だ。あらすじは主人公が取り憑かれた霊に記憶を消されて、それを戻すために友人や家族が奮闘するというものだった。


 霊がいることなんて信じるタイプではない。しかし夜ふかしをしているとき尿意を感じトイレに行き、電気を消した瞬間に部屋に向かって――明かりを求めて走り出すという、誰でも経験をしたことある()()()ことをやるほどに夜に対して恐怖はある。


 これを霊にびびっていると捉えるのならそうなのかもしれないが、俺は霊を信じない。


 「早速見よー」


 弓波の選択が良かったものだったらしく、神山は上機嫌で再生されるのをワクワクさせた目で待つ。小動物のように可愛いと思ったのはこれが初めてだ。


 弓波が再生ボタンを押すと神山を間に挟み、右手側に俺左手側に弓波が座る形で視聴が始まった。そこまでくっついているわけではないが、神山から弓波とは違う独特の、これまた唯一無二のいい匂いが鼻腔をくすぐる。


 俺が真ん中で2人に挟まれる状況だったならきっと映画どころではなく幸せすぎて眠りについてただろう。いくら恋愛に乗り気ではなく、興味も薄い俺でもこの2人に挟まれるのなら頬を赤くすることなんて朝飯前だ。【美】の破壊力とはそれほどまでに強い。


 視聴開始して20分、部屋は暗くちょうどいい冷気も漂うこの部屋で掛け布団を使い、体全体を覆い隠している2人とは違い、俺は右側に肘をつき2人と反対側に頭を置いていた。


 まだ序盤と言っていいほどの展開。退屈はしていないが冷気が少しずつ微かに睡魔を呼び起こす。起きて5時間も経っていないとはいえ自然と気持ちのいい空間には睡魔がついてまわる。当然脳に血液と酸素が十分に行き届いてない状態なのであくびも量産される。


 「入りなよ」


 そんな俺を横目に入れた神山が掛け布団を広げて入れと言ってくる。でも俺にはそんなことはできない。


 「そこに入れってことなら俺は遠慮する」


 「なんで?眠いんでしょ?」


 「少しだけな。でも入ったら落ち着かないだろ」


 神山の言うとこに入るのなら神山と俺の距離は0、つまり密着状態になるのでいろいろとまずい。女子の体にくっつくなんてカップルじゃないんだしやる意味が分からない。


 「落ち着かなくてもいいからさ、ほら――」


 「うわっ!」


 俺の首に手を回し無理やり引きずり込む。一瞬のことで俺は抵抗できずに布団の中に入る。2人で使うとしっかり包まれたが3人となると背中がぎりぎり覆えるぐらいしかない。


 それでも2人は気にした様子はなく、むしろ楽しそうだった。


 「いきなりはやめろよ」


 「えー、いきなりじゃないと来栖くんを引きずり込むなんてできないし」


 「そうですか」


 言いながら俺の首にはまだ神山の手が回っている。力は優しくて触れ心地は柔らかい。これが天使様なのか。


 「もう手はどかしてくれよ。映画に集中できない」


 「ん?あぁ、ごめん、ほら」


 スルスルッと丁寧に早く抜かれた腕は名残惜しい。


 「……ったく……」


 神山は男女の壁が無くも低くもない。男子にボディタッチをすることなんてないと聞く。だから触れられた刹那、ホラー映画をも越える心拍数を記録した。


 神山は気にした様子もなくテレビに視線を向けた。俺だけ気にしてるのはなんだか悔しい。


 俺も態勢を整えて主人公に視線を向ける。


 「誰にでもするわけじゃないからね」


 距離は0に等しかった。隣の弓波には聞こえていない程度の声で囁かれたのは俺は特別なのかと勘違いさせるほどの魅惑の言葉だった。


 自然と耳に熱を持つのが感じられる。


 どういう意味で言ったのか確認したかったがその必要はなく。


 「友達だけ」


 「俺と神山が?」


 さすがにコソコソする必要もないと思ったのか通常通りの声量で神山は言う。だから俺も真似する。


 「楓華から聞いたんでしょ?」


 問いの示すものは神山の性格の話しだと理解するのには俺の頭でも十分だ。


 「まぁいろいろと」


 「なら来栖くんと私はもう友達だよ。楓華が話したなら私が友達になれるって思った人ってことだから」


 「私、結奈のそんな大事な基準を担ってたの?」


 「そだよー。実際()()()()知ってるのはここの2人だけだからね」


 本当に俺に話してよかったのか、そう思うのはここでは俺だけ。なぜか2人は気にしない。俺のような陰が好きで陽が苦手なやつとは無縁なのに……いや、無縁だから……か?


 「友達とか言えるほど仲は良くないけどな」


 出会って1日すら経過してない。入学式ですらこんな短時間で、俺たち友達だよな、なんて言えるやつはいないだろうに。


 「これまではそうだけどこれからは違うでしょ?だからこれから仲良くなればいいんだよ。友達って仲がいいから友達じゃないからね。これからを期待して友達になるのも1つの道だと思うよ」


 「まあ嫌でも関わりそうだしな」


 「まあ嫌でも関わるけど」


 ニヤッとした神山の顔はホラー映画を観てる人とは思えないほどいじわるな顔をしていた。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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