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女神とお泊り③




 夜ご飯を食べ終わると食器を持って台所に向かう。自分で汚したものを自分で洗うのは当たり前の事だ。食器用洗剤とスポンジを絡ませ、泡を立てる。よくCMで観るものを使っており、俺の家とは別の洗剤を使っていた。


 弓波はというとテレビに夢中のようで、同級生の男子を部屋に入れていることになんとも思っていない様子だった。


 俺だけがこの空間を意識しているかのようで恥ずかしさがさらに増す。弓波でも喜怒哀楽を始めとした羞恥心や競争心と、ありふれた気持ちを持っているだろうがどれも今のこの状況では働いていないのだろう。


 普段1人で家にいるときと変わらないであろう姿をソファの上、テレビの前でとっていた。弓波の目には俺は男として映っていないみたいだ。


 そう思っても嫌な思いは全くしない。いや、無に近いというのが正しい。今は趣味として偽っているが、大げさに言えば整理整頓のできない人から迷惑を受けているためドMではない俺にはあまり関わらないでほしいというのが正直なとこだ。


 でもほんの少し、東京スカイツリーでいう地上から10cmぐらい少しは関わってもいいと思っている。散らかった部屋の掃除ができるし、何より女神と言われる弓波と素で関われる数少ない友達なのだから。


 「食器洗っといたから。ごちそうさま、ありがとな」


 しっかり聞こえるようにテレビの1.2倍の声で伝える。どれだけテレビに集中しているか分からないし。


 「うん。私からもありがとう」


 食器を洗う手間が省けたのと先の掃除のこと、ごちそうさまに対しての感謝が伝えられる。めんどくさがりの弓波には食器を洗う手間が省けたことに対しての感謝が大きそうだ。


 やることがなくなったのでテーブルの椅子に座り直す。テレビのおかげで弓波と無理に会話することを考えなくていいのでスマホを取り出し適当に調べ物やら自作サイトを覗く。


 最近はこの家で強制労働させられているので他の依頼をこなせていない。これも1つの課題だ。


 「いつまでテレビ観てんの?」


 気にしなくていいとはいえ弓波がいるとどうにも自分の家のように過ごせない。落ち着かない。


 無理に会話をしようと思ったわけでもなく、自然と聞きたくなったことを聞く。


 「飽きるか満足するまで」


 「風呂入らないと弓波がどう部屋を荒らしているのか知れないだろ。どこまでめんどくさがりで優柔不断なのかも」


 ここに来た目的はただ1つそれだけだった。弓波と距離を縮めることを目的にしてないしこき使われるために来たわけでもない。


 「明日も休みだが風呂は入るだろ?」


 「もちろん。でもまだ入る気はないわ」


 「りょーかい」


 呆れを含ませ語気の弱い返事をしてみせる。しかしそんなことを気にする素振りのない弓波は70cmほどのクッションを抱きソファに横になっているだけだった。


 こんなにだらしないとこを俺に見られることに抵抗ないのかよ。


 この椅子に座り続けること合計45分ほど、尻が悲鳴をあげそうなほど離れたがっていた。カチカチの椅子ではないが長時間座れるほどの柔軟性を持っている椅子でもない。


 「弓波、隣座り行って良いかー?」


 横に倒れていても空きがあるほど大きいソファに俺は、俺の尻は座らせろと言っていた。とはいえどこに座ろうが人の家のソファで寝そべれるほど遠慮ない人ではない俺には時間が延びるぐらいでいずれ悲鳴を上げることには変わりない。


 弓波のことについて無知ならば弓波の隣ほど最高の席は俺の中で現れなかっただろうに……。


 「良いわよ。やっぱり私の隣が良かったんでしょ?早く言えばそれだけ早く隣に来れたのに」


 「ここに長時間座り続けたなら俺の気持ち分かると思うけどな」


 詳しく言わず遠回しにでも弓波には伝わる。弓波はここに尻を長時間つけたことはないようだ。


 「弓波って男子にされたら嫌なことってあるか?」


 ソファに向かいながら寝そべる弓波に問う。下心ありで。


 「そういうのはやられて分かるものよ。パって思いつくことはないけど、今後来栖くんが私になにかした時に嫌って思ったらその瞬間に半殺しコースになるだけ」


 そっと似つかない言葉をこぼしたが、俺にとって意外ではなかった。


 「俺がなにかするていで言うなよ……」


 「違うの?」


 「まぁ間違いではない。でも違うのは目的だな。俺は弓波に嫌がらせをすることで風呂に行かせると同時に俺への抵抗感を作ろうってしただけ。手を出したりすることは絶対ない」


 嫌がることは今のところないと言われたも同然だったのでもう嫌がらせをしようとは思わない。だから素直に理由を話す。


 「そんなに私と関わるのが嫌なの?」


 ソファに座ると弓波の顔がはっきり見えた。俺の返答が意外なものだと顔に書いてある。


 「弓波が俺と同じ立場にいるのなら全然ありだったが今の弓波なら俺と関わるってことが広まるだけで迷惑するだろ?弓波が」


 これは確定している。正直俺が迷惑を受けることはどうでもいい。慣れてるし人間関係なんて脆くて偽りのものがほとんどだから気にするだけ損だ。でも弓波は違う。


 「私も気にしないわ」


 「気にしなくても意外と上辺だけの関係って大切だぞ。だからいつか俺がクラスで陽キャとしてスクールカースト上位に来る日があるならその時は俺から関わらせてもらうよ」


 ないだろうな。今はそう思う。


 「じゃバレなきゃいいんでしょ?私の家を知ってるのは結奈だけだから家に来ても誰かに関係がバレるわけでもないし、学校でも無理に関わらなければ噂は立たないでしょ」


 「……できると思うか?噂とかどこからでも出てくるぞ」


 「その時は知らないの一点張りよ。気にしたら逆に怪しまれるわ」


 今の雰囲気に似合わないウキウキした声色で話す弓波。普通はそんな人を変だと思うがなぜか俺はそう思わなかった。


 「はぁー、それでいいなら俺もいいよ」


 呆れていた。でもこれはいい意味での呆れだ。

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