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女神は俺のタイプじゃ……




 翌日俺はいつも通り授業中あくびをしては頬杖をついて退屈ですとアピールしていた。正確にはアピールなんてしていないが。


 昨日も俺には放課後の時間はなかった。もうあれは部活のようなものだ、掃除ボランティアのような。


 しかし今日は必ず自由な放課後がやってくる。言い切れるのは弓波が俺を呼び止めないことが分かっているからだ。昨日の帰り際に、土日までにまた部屋を散らかすかもしれないが俺を呼ばないでくれ、と頼んでいた。これで呼び止めるのなら何かしら絶対俺でなければいけない用事だと思う。


 一昨日と昨日よりも早く俺は帰路につけた。嫌な視線も感じず下足箱でも呼び止められることはなかった。


 「よし、帰るか」


 嬉しさのあまり声に出た言葉は誰にも聞かれてはいなかった。


 「今日は今までで1番の早さだな」


 そんなことはなかった。めちゃくちゃ聞かれていた。それも倉木というどうでもいいことで俺を呼び止める天敵に。


 「なんだよ、お前も早いだろ」


 「お前を追いかけてきたからな。それよりなんでそんなに早足なんだよ」


 「久しぶりに1人で早めに帰宅できるから」


 「あぁー最近弓波と仲よさげに帰ってるもんな」


 「見たのかよ」


 「ちゃんと見た」


 倉木に見られたとこで何も問題ではない。こいつは俺のことを熟知しているから。他の誰かに見られたのであればうわさが広まり俺は不登校になっていただろう。


 でも今日誰からも羨ましがられる視線も話しかけられることもなかったので見たのは倉木だけだと思う。


 「何があったのかは趣味関係だとして、嫌なのか?弓波と帰るの」


 「視線を集める人とは帰りたくないな、もちろんお前もその1人だからな」


 いい意味でも悪い意味でも倉木蒼汰は注目されている。そのほとんど容姿や運動のことだ。頭は残念ながら注目される価値の無いほどに悪いが。


 「好きなように生活してるだけで視線集めてるんだからそれについては俺は悪くないだろ」


 「まぁな」


 「それで、弓波との関係は良好なのか?」


 「どういうことだよ」


 何を言いたいのかはだいたい分かるが、ここで間違えたら恥ずかしいので一応聞き返す。


 「どういうことって、一緒に帰る異性の仲=恋人同士って決まってるだろ」


 決まってないだろ、もし決まってるならこの世界にどれほど自分の気持に嘘をついている人がいるんだよ……。


 「俺と弓波が恋人同士なんてあり得るわけ無いだろ」


 「ありえないと俺が見たお前たちを説明できるものがない」


 「それはお前が俺の趣味と弓波と帰ることを結び付けられてないからだろ。勝手に分からなくなるなよ」


 この前ちゃんと説明はした。頭が悪いとこうもめんどくさいことを言い始めるのだと改めて勉強の大切さを教えられる。今のところ倉木が俺にとって1番の教科書だ。


 「なんでありえないんだよ。弓波とお前が釣り合わないからか?弓波がお前にとって完璧じゃないからか?」


 「釣り合わないのもある、何より弓波は()()じゃなかったからな」


 「完璧じゃない?弓波のどこを見てそう言ってるのか理解に苦しむぞ。秀才で美少女だぞ」


 「それなら一生そのまま苦しんでろ」


 誰が見ても完璧な人間は実は裏では完璧ではなかった。整理整頓ができず、本当は人とあまり関わりたくない俺と同じサイドの、優等生キャラを演じる美人だった。


 俺と倉木の価値観は違うので詳しいことは分からないが、少なからず俺サイドの倉木でも弓波のことは美少女と思うんだと思った。


 美少女ってイメージが独り歩きして、結局よく顔を見ない人から美少女と言われるようになり、それが定着したのだろう。弓波は美人だと思うんだけどな……。


 「とりあえず俺は弓波とそういう関係じゃないからな」


 「ふーん、じゃ神山派ってことかー」


 「神山のことは知らん。関わったこともないしあんまり顔も見たことない」


 「天使って言われてる理由分かるぞ。弓波と真逆のタイプだしな」


 耳にしたことはある。神山結奈は陽キャの頂点だと。


 「機会があれば俺も分かるかもな」


 「神山と話せたら幸せになれるぞ。近く通るだけでもいい匂いするし、何よりいつも笑顔だから癒やされるんだよ」


 「癒やしとかいらないんだけど」


 俺が求めているのは自由な時間ただそれだけ。癒やしとか弓波のおかげで疲れに変わりつつある。掃除というか扱いが執事のようだ。


 最悪癒やしが必要になれば弓波と過ごすことで回収できるだろう。なんだかんだ最近は疲れるが楽しいからな。


 「とにかくお前が弓波と何かあれば教えてくれよ。それ以上に面白い話なんてないからな」


 「普通に嫌だね。お前に教えて俺になんの得があるんだ」


 「神山と話せる機会ができるな」


 「だからいらないって」


 陽キャの頂点と関わることで俺になんのメリットが……。


 「じゃ俺はこれからバイトだから――じゃな」


 「バイト先でめちゃくちゃ怒られろ」


 「ははっ、最後まで辛辣だな」


 少し離れたところから返される言葉は嬉しさを含んでいた。倉木からドMの匂いがする。


 倉木から解放された俺は静かに帰路につく。太陽はまだ夕方というには早いとこにあり、暑さを持って家に帰らされた。


 アスファルトのように溶けそうな体を冷気に当て回復させる。チョコアイスを口に運びスマホを開くとそこには1件通知がきていた。


 相手は弓波だった。


 『もう大変だわ』


 「ふっ、なんでこんな散らかせるんだよ」


 メッセージとともに写真が送られていた。昨日の片付けする前とほぼ同じで、昨日部屋が散らかっていても呼ぶなと言っていてよかったと思った。


 優柔不断だとしても寝巻きとかなんでもいいことで悩んで選んで選んではほったらかしにすることは普通にありえないんだけどな。


 なんてことを思いながら俺は部屋の散らかりに口角を上げられていた。

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