話を聞いた人の所に幽霊が出てくる話
「ねぇ、知ってる?」
「知らない」
唐突に投げ掛けられた言葉に、考えるより先に言葉を返す。
「もう!まだ何も言ってないじゃん」
風鈴を連想するような、高く澄んだ声。
そこに、ほんの少しの怒気が混じる。
「ごめんごめん。それで、なんの話?」
私の事を理解してくれる数少ない友人である彼女に、形ばかりの謝罪をする。
「もうアンタには教えてあげない!」
むくれた声も可愛らしい。
だからつい、からかってしまう。
「ごめんって。謝るから、ね?」
「むぅ……よろしい、許してあげよう」
コロコロと声の表情が変わる、会話をしていて飽きない子だ。
「ありがと」
機嫌を治していただき、ホッと胸を撫で下ろしたところで、彼女が本題を話し出す。
「この話はね、私の友達の友達の子が親戚の子に聞いた話なんだけど…………」
出だしから胡散臭いが、黙って耳を傾ける。
ここから彼女の熱弁が始まる。
たっぷり30分は話しただろう。
話の本筋と関係ない描写が多すぎるからだ。
要約すると
・この話を聞いた者のところに幽霊が訪れる。
・幽霊が訪れるのは話を聞いた一週間後。
・夜中に目が覚めると、無言でこちらをじっと睨んでいる。
・目の前の幽霊の表情に恐怖し、悲鳴をあげると殺される。
・誰かにこの話を聞かせると、幽霊は話を聞いた人の所にも出てくる。
「……って話なんだよ、怖いよねー。」
コイツ、私を巻き込んだな?
「それで、貴女はこの話をいつ聞いたの?」
「……一週間前」
この話が本当だとしたら出てくるのは今晩ということか。
「私だけ怖がってるのって、なんか不公平じゃない?だから、アンタにも恐怖のお裾分け!」
丁重にお断りしたい。
「それにアンタならこういうの平気かと思って。」
まぁ、私には問題ないと思うが。
「じゃ、話はそれだけ!私が生きてたらまた明日ね~」
言いたい事だけを一方的に話して、彼女は去っていった。
翌朝、彼女の訃報を聞いた。
夜中に悲鳴が聞こえたのを心配して、ご両親が様子を見に行ったときには既に息がなかったらしい。
最後に発した悲鳴も透き通るような綺麗な声だったのだろうか。
もう彼女の声を聞くことができない……
そして、今日はあの話を聞いた日から一週間。
彼女が亡くなってから一週間。
彼女の死が偶然でなかったのなら、今晩は私の番だ。
恐怖と好奇心が入り交じった不思議な感覚に包まれながら眠りに落ちる。
目が覚める。
辺りの静けさから察すると、まだ夜明け前。
生まれつき目の見えない私。
私の前にいる幽霊は、どんな表情をしているのだろうか。