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転生して2日目。


薄らと意識が戻ってきた。

完全に目が覚める前のぼんやりとした時間。目を閉じたままの私は、さっきまで見ていた夢の事を考えていた。


(明晰夢って初めて見たけど、結構リアルだったな。)


肌の温かさとか声や匂い。どれをとっても現実と変わりのないリアルさで、夢の中なのに感覚がこんなにもハッキリしてるんだと感動した。


(次に明晰夢を見るとしたら、さっきの続きが見てみたいな。)


なんであの家の人達はあんなにザワついていたのかとか、お兄さんの通っている魔法学院の事とか、気になる事はいくつかあった。

ファンタジー好きな私としては、一度だけでもいいから学校へ行って魔法は使ってみたい。まあ、使う人間が私なので地味な魔法しか使え無さそうだけど。

そんな夢みたいな夢の事を考えていたら、自然と頭も目も完全に覚め、パチッと目を開ける。


「ん?」


何か違和感を感じて、もう一度目を閉じる。そして10秒ほど数えてから目を開ける。


「あれ?」


パチパチと瞬きをして、喉元に手を当てる。


「おかしいなぁ。」


自分の喉から可愛らしい声が発されている。恐る恐る喉元にやった手を顔の前に持っていくと、白くて小さな手が見えた。その手を見て思考が停止した私はゆっくり起き上がり、ボーッと辺りを見回した。視線の先には夢で見た部屋と同じ装飾が施されている壁やら机やらがあった。

それを見て目を閉じ大きく深呼吸をして、自分の頬をバチンッと叩いた。


「ッッいたい。痛い、つまりこれは、夢・・・じゃない?まさかそんなっ」


夢か現実かを確かめる為に叩いた訳だが、内心では現実なわけないと思っていたので、叩いた頬に痛みを感じても、へぇーこれ現実なんだ!とは素直に受け入れられない。

意味がわからない。ジンジン痛む頬のせいで余計に混乱する頭を抱えていると、部屋の扉がノックされた。その音に思わずビクッと体が震える。

静かに扉が開かれ部屋に入って来たのは、昨日1番最初に見たメイドさんだった。


「失礼いたします。あっお嬢様お目覚めになられたんですね!おはようございます。お体の具合の方は・・・」

「えっあの、だ、大丈夫です。」


体調は問題ないんだけれど、別の方に問題が起きていて頭が痛いです!とは言えない。

良かったと、ホッとしているメイドさん。


(このメイドさん、名前はなんだったかな。)


眠る前、お父さんから何人か使用人の方達を紹介されたのでけど、元々人の名前を覚えるのが苦手な私は、目の前にいるメイドさんの名前がうろ覚えだった。


(確か・・・)


「リ、リアナ、さん?」

「はい!そうです!」


これかなっていう名前が出てきたので、不安げに名前を呼んでみれば、どうやら合っていたみたいで、髪と同じ茶色の瞳をキラキラ輝かせ嬉しそうに返事をしてくれた。こんなに喜んでくれるなんて、間違えなくて良かったと、私もホッとした。


(リアナさんは私よりも年下なのかな?)


私に名前を呼ばれて、ニコニコと嬉しそうにしているリアナさん。昨日は私が彼女を見上げていた事もあって、なんとなく年上なのかなと思っていたけど、よく顔を見れば大人と呼ぶにはまだ幼さが残る顔をしている。


「あっ申し訳ございません!お嬢様がお目覚めになられた事を旦那様にお知らせして来ますね!」


ハッとやるべき事を思い出し、リアナさんは慌てて部屋を出て行った。


(昨日も似たような光景を見たな。)


リアナさんが出て行った扉を見ながら昨日の事を思い出す。その時の出て行き方と比べたらだいぶ静かになったなと私は笑った。


リアナさんがお父さんに知らせると言って出て行ってから、1人になった部屋を見渡す。こんなに広い部屋で使用人の人達も結構いたと言うことは、この家はかなりお金持ちなんだろうな。ボケっとしながら待っていると、コンコンッとノックがされ、はい、と返事をすると、お父さんお母さん、そして使用人の人達と知らないお爺ちゃんを連れて戻ってきた。


「おはようセシリア、体調の方はどうかな。」

「おはようございます。はい、よく眠れたので大丈夫です。」

「そうかそうか。それは良かった。」


私がいるベッドの横に座ったお父さんは優しく笑うと私の頭を撫でてくれた。撫でられた事に嬉しくなって子供みたいにニコーっと笑い返す。普段ならこんなことしないのになと、心の中で苦笑いをする。


「おはようセシリアちゃん。」

「おはようございます。」


お母さんにも笑顔で挨拶をすると、私を見て瞳を潤ませ、溜まったものが溢れない様にハンカチで押さえてた。


「ローズ、君はまた泣いているのかい?」

「だってっ」


お父さんは呆れたように言っているけど、顔は笑っていて、言葉に詰まっているお母さんの背中をさすっていた。


「本当に良かったわセシリア、あなたの笑顔をまた見ることが出来て。」


私の手を握り、潤んだ目を細めて微笑むお母さんがあまりにも可愛すぎて倒れそうになった。


(母が美少女すぎて泣きそう!)


可愛すぎると涙が出てくる事が分かった。

お母さんに微笑み返すのと同時に涙が私の頬を伝った。その涙は伝染力があるみたいで、お父さんも目が潤んできていて、周りからもすすり泣く声が聞こえてきた。


「フリートジーク公爵。」


そんなすすり泣く声の中、ニコニコとコチラを見ていたお爺ちゃんが声をかけてきた。お父さんが涙を拭って振り返り「そうだったな。」と言って立ち上がると、入れ替わるようにお爺ちゃんが私のいるベッドの横へ座った。


「セシリア様、初めてお目にかかります。私はトム・マルベスと申します。」

「は、はじめまして。

「彼は医者だ。歳はとっているがとても腕の良い医者で、私も含め、この屋敷にいる者は昔から世話になっているんだ。」

「何をおっしゃいますか。世話になっているのは私の方でございます。」


医者と言われて身構えるけど、お父さんと話すトムさんの穏やかな雰囲気に心配することはなさそうだと、身構えるのをやめた。


(きっと、私が目を覚ましたから来てくれたんだな。)


医者と聞いて心配していると思ったのか、お母さんが、トムさんは私の診察をする為に来てくれたのだと教えてくれた。


(夢の中の私はどこか具合でも悪かったのかな。)


自分で分かる範囲だと体に痛みはないし、気持ち悪いとか寒気がするといった症状はない。むしろ夢を見る前に捻った足は痛くなくなっていて、体も軽くなったのでこの部屋の中を走り回りたいほど元気が有り余っている。


「セシリア様、今から診察をいたしますので、手を貸しいただいてもよろしいですかな?」

「はい。」


左手を差し出すと、トムさんは私の掌を仰向けにして自分の掌を重ね握った。何してるんだろうと、握られた手をじっと見ていると「では始めますね。」と声をかけられる。

しかし声はかけられたものの、トムさんはただ手を握っているだけでそれ以外の事は何もしていない。


(一体何を見ようとしているの。)


本当に診察しようとしてるのか疑わしくなってチラリとトムさんの方を見る。すると、握られた手がジワジワと温かくなってくるのを感じ、左手に目線を戻す。


(トムさんの体温高っ!)


体温からくる温かさかと思っていたが、その熱が手から腕に移ると、表面的な熱ではなく体に流れている血管が熱くなっているかのよう感覚だ。

初めての感覚に気持ち悪さを感じて手を引こうとしたが「もう少しで終わりますので辛抱なさってください。」と言われ口を固く結んだ。

その言葉の通り熱が全身を覆うと、その熱は弾ける様にあっという間に消えていった。そして、トムさんに握られた手は解放されると、何が起きたのかと掌をジッと見たけど、目に見えるような変化はない。


「セシリア様、お疲れ様でした。これで診察は以上となります。」

「えっ終わったんですか!?」

「はい、頑張ってくださったおかげで早く終わることが出来ました。ありがとうがざいます。」


と、そんなにこやかに言われても。

私の思っている診察のやり方ではなかったので戸惑いは隠せなかった。頭の上にはハテナが飛び交っているが、大人達は私の戸惑っている事に気がついていないのか、もう話を先に進めていた。


「それで、セシリアの状態はどうだ。」

「はい、お体の方は問題はないです。階段から落ちた時のお怪我もほぼ完治されている様ですし、ただ・・・。」

「ただ、なんだ。」


戸惑っていた私もトムさんが言い淀む声に顔を上げる。私の方をチラリと確認するのを見て、私の前だから言いにくいんだなと感じた。


「大丈夫ですよ。」


どうせすぐに覚める夢だし、多少何言われても問題ないと思って、私は気にしないからという意味を込めて声をかけた。


「そ、そんなに深刻な事なの?」

「ええ、こう言ったことは報告がないので・・・。」

「それで、なんだというのだ。」


なかなか言い出さないトムさんに、お父さんの声からも苛立ちを感じる。トムさんもそれを感じ取ると、重たい口を開いた。


「どうやら、セシリア様は召喚魔法が使えなくなってしまっている様なのです。。」

「どういうこと?」

「どういう事だ!!」


お父さんと聞き返すタイミングが同じで、小さな鈴の様な声がお父さんの銅鑼の音にかき消された。当然、私の声はは誰にも伝わっていなかった。


「一週間前、セシリア様が階段から落ちてしまわれたあの日に診察をした時は、魔力やスキルに異常はなかったのですが、もしかすると寝ている間に何かが起きたのではないかと。」

「寝ている間に?」

「はい。」


トムさんの言葉に部屋は静まり返る。その場にいる人達の視線が私に突き刺さった。この小さな体に一体何が起きているというのか。と、みんなの目がそう言っている。


(魔法とは縁の無い世界で生きていたから、事の深刻さが分からないけど、みんなの様子を見る限りじゃ、大変な事になってるみたいね。)


聞きたいは山ほど事はあるけど、今は口を開くべきじゃなさそうだ。と悟り、私は静かに大人達の話を聞いていた。





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